バッチコーイ!
僕が咄嗟に掴んだもの。それはとてつもなくやわらかい。背後で僕を受け止めてくれたもの。それも半端なくやわらかい。この世はやわらかいものでできているとて、過言ではない。
やわらかいものの守護で、僕はぎりぎりで身体のバランスを保ち、辛うじて立っていることができる。やわらかいもの様様だ!
受け止めてくれたのは誰かの胸だってことは感触で分かる。咄嗟に掴んだものも胸。見れば分かる。梨花先生の立派な右胸だっ! こっ、これはやわらかい!
思わずもみもみしてしまう。
「さすがは弟くんだ。手が早いのだな……私は、構わんが!」
り、梨花先生。そこは『キャーッ!』とか言って引っ叩いてもいいんじゃないですか。生徒に胸をもみもみされて受け入れちゃだめでしょう。直ぐに手を離す。
「天太郎くんって右利きよね。どうして右手でもみもみしなかったの?」
と言う集子さんの右胸は、僕の右胸にぴったりとくっついている。その柔らかさは梨花先生と同レベルにある。直接横に並べて比べての感想だ! 僕と同い年でここまでとは集子さん、末恐ろしい……。
って言うか、右手で何をもみもみしろと! 手錠があって無理ですけどーっ!
背後からは背後からで、おかしな言葉が聞こえてくる。左後方の皐月アナ。
「イダテンくん! いいのよ。どんどん圧してちょうだい!」
圧してってどこをですか? 背中がサイコーにやわらかいんですが! 気持ちいいんですが! エレベーターの中なのに、状況がエスカレートしていく。おしくらまんじゅうさながらだ。
「Oh! Osikura……uhーhuh」
右後方もおかしいでしょう。最後の『あっはーん』ってどういう意味? どんな綴り? 今直ぐにでもググりたいけど、両手塞がっているからできませーん。誰か、教えてください!
「『とても気持ちが良くって、大変満足しているわ。あっはーん』です」
従者さん、教えてくれてありがとうございます! でも、貴女の主人は何に満足していらっしゃるのですかーっ! 『あっはーん』って結局、なんですか?
僕はまたしてもみんなにもてあそばれている。
エレベーターの扉が閉まる! かなりの密で息苦しい! 僕を取り囲んでいる4人は、よりによって、胸のやわらかいトップ4のような気がする。
僕がいるのがちょうど真ん中辺りで、既にちょっと息苦しいほどの混み具合。かなりの密だ。エレベーターの揺れに合わせて本格的なおしくらまんじゅうがはじまる。くっ、苦しい……やわらかいから痛くはないけど……誰か助けて!
おしくらまんじゅうは苦しい。みんなの圧が半端ない。もう、負けそうな僕だけど、相変わらず発言権はない。苦しみながらも耐える。先に音を上げたのは咲舞。大声で叫ぶ。
「みんな、もっと離れてよっ!」咲舞の言う通りだ。
「そんなこと言って、自分が1番近いじゃないの」近いって、どこに?
「真来さんの言う通りよ。咲舞さんだけ、ずるいわ」ずるいって、何が?
「そう言う貴女だって、無駄に密着してるでしょう」しかも右胸!
「まぁまぁ、慶子さんも集子さんも落ち着いて!」さすが騎手志望、冷静だ!
「でも姉さん、ここが勝負どころかもしれないわ」何の勝負ですか?
「実姉としては悪い蟲を放っておけぬのだが!」是非、放っといてください!
「私は愛しい人を放っておけないわ!」皐月アナ、愛しい人って誰のこと?
「勘違いしないでよ。別に、くっ付きたいわけじゃ……」それって……。
ここでまさかの『勘違いしないでね』構文が登場。しかも景子アナ!
「ハァーィ!」はぁーぃ!
「Osikura? Osikura!」背中が『あっはーん』だ!
「『気持ちいいですか? いいですよね!』です」ありがとうございます。
「なんだか楽しそう!」読モのおねえさんたちもフレンドリィー!
「私もおしくらまんじゅうに参加しようかしら」クラリティー!
「それ、いいね! 早速圧しつけてみるわ。えいっ!」トレンディー!
今日はみんなにもてあそばれてばかりで、最悪だ……。
僕の苦しみは、エレベーターが1階に着くのと同時に終わる。みんな悪魔だ。何事もなかったかのように歩き出すみんなが、悪魔のようだ。1人ひとりの見た目は標準の遥か上で天使のようなのがやるせない。
景子アナと皐月アナはこのあと仕事があると言っていたけど、僕が昇りエレベーターに乗るまで待っていてくれる。悪魔だけど天使のような律儀さがある。他のみんなも見送ってくれる。33階行きのエレベーターに乗る。
直ぐに扉が閉まりはじめる。姉ちゃんが「梨花先生や美紀先生とここで待ってるねっ」と軽く声をかけてくれる。待っててくれるなんて、優しい……いやいや、警戒を解くのはまだ早い! 家に着くまでが試写会だ。気を引き締めねば。
扉が完全に閉じる。エレベーターの中には僕と咲舞の2人だけ。さぁ、咲舞。何を仕掛けてくる? バッチコーイ!
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咲舞、強者です!
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