危険な香りだ!
僕は、思っていることをそのまま口にしてしまう。咲舞も美紀先生自身も、すかさず僕を責め立てる
「えっ? 本当に美紀先生なんですか? エロくないですか?」
「あまちゃん、何言ってるのよ。失礼じゃない!」
「そうよ、天太郎くん。貴方は一体、私をどんな目で見ているわけ?」
エロい目です! ジャージが白地に黒ブチだったらホルスタインっぽくなるかなって、何度も思っている。それはさすがに言わない。
「ジャージの天使、ですかね」
「それは今ジャージを着ている私への当て付けなの!」
と、咲舞にキレられる。
「いやいや。咲舞は……そう、ジャージの女神だよ、うん」
「ってことは、天太郎くん。私は咲舞さんを支えている設定なの?」
そうは言ってないし、思ってもいない。そんなに細かなことは気にしていないというのが本音だ。あちらを立てればこちらが立たず……女子2人と同時にはなすのは難しい。はなしを戻す。
「それより美紀先生。車って?」
「銀座に4時でしょう。私も偶然、大学時代の友人と待ち合わせがあるの」
それは好都合!
「乗せていただけるんですね! 美紀先生とドライブなんて、うれしいです」
「なによ。私も一緒なんですけど……」
言われて咲舞と繋がっているのを思い出す。浮かれてつい忘れていた。
「いいじゃない。3人でのドライブもありだと思うわ!」
それはまたの機会にお願いしたい。今日に限っては、本当に急ぐから。
「ところで先生、どうしてA組の教室にいるんですか?」
咲舞の素朴な疑問だ。たしかに先生が理由もなく教室に来ることはない。どうして先生がここにいるのか、気になる。
「天太郎くんがどうしてるか気になって。気付いたら教室にいたの」
清々しい物言いだ。なるほど、美紀先生は僕のことを気にしてくれたのか。単純にうれしい。反対に咲舞はご機嫌斜め。気にしてもらえなかったことに腹立ててるのだろうか。
「授業が終わってから30分も経ってないのに、気になるものですか」
「気になるわ。天太郎くんの姿が見えなくなった瞬間から気になったわ」
それはちょっと早い気もする。咲舞もそう思ったようで、眉をひそめてごく当たり前のことを言う。
「美紀先生……あまちゃんと先生は、教師と生徒ですよ」
「そうよ。教師が生徒を気にするのは、ごく自然なことなのよ」
美紀先生の言う通りだ。咲舞はどうしてこうもカリカリしているのだろうか。気にしてもらえなかったことの他に理由があるのか? 僕にはさっぱり。
「本当に、それだけですか!」
「他に、何があるというの?」
咲舞がジトーッとした目で美紀先生を見る。美紀先生は笑顔。
「だったら、いいんですけど……」
と、おかしな咲舞だった。
放課後。
校門の前に赤い車が停まっている。2ドアのクーペ。運転席から美紀先生の声が聞こえてくるけど、その口調はかなり荒っぽい。
「おいっ、早く乗れ! 待たすんじゃねぇよ!」
怖いくらいだ。
僕も咲舞も「はっ、はい!」と短く返事をして直ぐに乗り込む。僕が文字通りの先頭で、後部座席の手前側に左手をつき、頭っから突っ込む。
全身が車内に入ったとき。妙に柔らかいものに頭のテッペンが当たる。本当に妙な柔らかさに「あれ、おかしいなぁ。なんかあるのかなぁ」と言ってしまう。そのとき直ぐにこの謎めいた柔らかさの正体を確認をするべきだったが……。
「あまちゃん、手が痛い! 早く奥へ入って」
咲舞にそう言われては、奥へと進まざるを得ない。頭を突っ込むと、今度は柔らか物体を顔面で押し込むようになり、前進が止まる。く、苦しい!
背中は、咲舞に押されて同じく謎の柔らかさを感じる。いや、背中の柔らかさには思い当たるものがある。咲舞の「痛いっ。はぁ、はぁっ……」という艶かしい吐息の近さからしても間違いない。
咲舞は僕にぴったりとくっついている。背中に感じているのは咲舞の胸の柔らかさだ! 不謹慎かもしれないが、本当はとっても柔らかくって気持ちがいい。このままずっと咲舞に押されていたい気分だ。
咲舞の胸の感触は、間違いなく今までに感じた柔らかさの中で2番目。1番目は今、顔面に感じている謎の柔らか物体だ。女子の胸って、この世で1番柔らかいっていうけど、咲舞の胸より柔らかいものって、なんだろう……謎だ。
だけど、咲舞が痛がっているんだから、なんとかしたい!
「咲舞。何か柔らかいものが邪魔なんだけど、なんとかするから待ってろよ!」
とは言ったものの、本当は僕だって息苦しい。背中はいいとしても、顔面の柔らか物体を一刻も早く退かしたい。ふと、やんわりと漂う薬品の香りがする。こ、これは……危険だぁーっ! 危険な香りだ!
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薬品の危険な香りって、ひょっとするとあの人でしょうか?
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございます。
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