第13話 アイドルの仕事
それからも数日間、マリーの試行錯誤は続いた。
相変わらず、細工師としては抜群の仕事をしてくれている。
「師匠!エンシン君の機能のうち、飛行、自律動作、自律平衡、障害物回避までは実装できました!」
「やるわね。ではここまでで一つのモジュールとして完成させちゃって、思考系と言語系は別モジュールにしましょう。
既に、試作機2号は空を飛ぶところまで来ている。1号と同じ機能を木製のガーゴイルで実現できる日も遠くはなさそうだ。
これに合わせて、俺は何件かの工房を当たり、マリーが作った金物細工を量産するための設備にも目星もつけていた。現在は有力な2件にエアコンのモジュールを量産できないか試してもらっている。完成したら、生産が追い付かないほどの大ヒット商品になるだろう。
「いやぁあああああああ!こっちくんなぁあああああああ!」
そして、魔術師としても相変わらずへっぽこな失敗が繰り返されている。
さすがに頻度は3回に1回くらいと減ったものの、どうにも自分の魔法で止めを刺したいらしく、ヘイトを見誤ってはゾンビに追いかけられる日々だ。
「マリー、体力だけはぐんぐん成長しているな」
「ある意味、基礎の訓練にはなっているでシカね」
「しゃべってないでたすけてぇええええええええ!!」
しかし、いつまでもマリーの修行ばかりに時間を使うわけにはいかない。
もともと予定していた総集編で時間稼ぎはしたものの、そろそろ配信用の映像素材が乏しくなってきた。次回の
「セナ、明日のマジェナはいつもより頑張ってもらうかもしれん」
「望むところでシカよ。最近はラクしすぎてたから、体が
「とりあえず、自分用の盾は一つ買っておいてくれるか。それから……」
シャイルに切り刻まれるゾンビを遠くに眺めながら、俺とセナは打ち合わせ始めるのだった。
◇◇◇
翌日。
俺たちはマジェナ城館の門扉前まで進撃していた。ここまでは以前の取れ高を使えるため、今日は俺自身も手伝いながら復活したゴーレムたちを一気に蹴散らしている。
「さて、今日の撮影はここからだ」
門扉からやや離れた
「門の上のガーゴイルは2匹。基本的には他の敵を呼んだりしないから、この2匹に集中していい」
「この辺りの敵としては、1段階上の強さなのよね?」
「ああ、若干硬くて、攻撃も重いな。だが一番厄介なのは空中から襲ってくることだ。恐らく、
空を飛ぶ知能の高い敵というのは、普通に冒険をしていてほぼ出会わない。
ここに来た大抵のパーティが、一度は苦杯を嘗めさせられている。
「準備はしてきたでシカ。セナが囮になるのでシカね?」
セナはこのために木の
「ああ、上からだけでなく、後ろに回り込む動きにも注意してくれ」
「プロデューサー、棍棒は投げちゃダメ?」
「できる限り投げないでくれ。さすがに
シャイルは、前回に続き棍棒を両手に装備している。確かに、普通の戦闘ならば投擲も立派な攻撃手段だが、アイドルとして広告中の商品を投げるのはNGだろう。
「りょうかーい。投げるなら
「プロデューサー、あたしは?」
「マリーはとりあえず撮影助手に徹してくれ。まだ画面に映るわけにはいかないからな。俺の傍を離れないこと。あと音や声を出さないこと」
「ぶーぶー、何もするなってことじゃん」
「
実は、今回の撮影でマリーがやることは全くない。
それでも連れてきたのは、シャイルとセナの
考えてみると、マリーは二人の撮影姿を見たことがない。一緒に冒険するに当たって、期待される動きの程度を理解してもらうには、一度じっくり見学させるのが良いだろうという判断だ。
なので、カメラを持たせることもなく、便宜上汗拭き係という役を与えて、ただ二人の動きを観察してもらうように仕向けている。
「他に質問がなければ、身だしなみを整えるぞ。シャイル、座ってくれ」
俺はシャイルの髪を一旦ほどき、ブラシで梳かした後にポニーテールをセットし直した。セナも同じようにブラシを入れた後、両サイドから編み込みを入れて後ろでまとめる。
片方を整えている間、もう一人はメイク直し―――と言っても眉を整え、薄く口紅を引く程度だが―――と、衣装の乱れチェックだ。
冒険者とはいってもアイドルはアイドル。基本的には美しくありたい。
全ての準備が終わると、毎回のルーチンとなっている掛け声をかける。
「髪よし、メイクよし、衣装よし。発声はいけるか?」
「ええ、いつでも!」
「バッチリでシカ!」
「よーし、じゃあオープニングトークいってみよう。カメラ回します、3、2、1」
「はいっ!皆さんこんばんは!武芸百般、目指すは最強!赤毛の美人剣士シャイルと」
「輝く髪は乳白色、嫌いな言葉は非常食!?お肉ではありません一人の女の子として愛してください、ドルイドのセナでシカ!」
定番となった挨拶から撮影が始まった。
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