第10話 魔女の弟子取り
「さて
「ああ、その話だな。これがその試作機1号、エンシン君だ」
「コンニチハ」
俺は背負い鞄からエンシン君を取り出し、ノームの二人に見せた。
ちなみに、あの後“リュート”という言葉には反応しないようコード修正が行われたらしい。
「見事なものだな。エルフ娘よ、更に腕を上げたの」
「ありがとう。と言っても、ミスリルに魔法陣を定着させているだけだから、彼女の作品ほど手の込んだものではないわ」
「そ、そんなことないです。飛行、自律思考、言語理解、言語発信、自律動作、自律平衡……いったいどれだけの魔法陣が組み込まれているか、想像もできないです」
触ってみても良いですか?と好奇心を抑えられない様子のマリー嬢に、アニエスも微笑みながら応じる。分野は違えど、同じ職人肌の天才同士。ウマが合うのことだろう。
「ふむ。この様子なら、マリーを預けても問題ないようじゃの」
「うん?爺さん何の話だ?」
二人の様子を見ていた爺さんが、突拍子もないことを言い出した。聞き流すわけにはいかず、思わずツッコミを入れる。
預けるって、この子をか?
「実はな。少し前にこの子との賭けに負けてしまってな。お願いを何でも一つ叶える約束だったんじゃが」
「私を、アニエスさんの弟子にしてください!」
「……と言って聞かないんじゃよ」
おいじじい。
いくら昔馴染みとは言え、猫の子じゃあるまいし、そう簡単にあげます貰いますで解決して良い話じゃないだろう。
「えっ!?うーん、弟子か。弟子ねえ」
ほら、アニエスも悩んでいる。
そもそも、アニエスの家には現在居候が二人もいるんだ。これ以上彼女を困らせたくはない。俺がビシっと断らないと。
「爺さん、すまないがこの話は」
「まあ、良いわ。今だって研究所のスタッフはだいたい弟子みたいなものだし」
「良いのかよ」
あっさり話が決まってしまった。
「弟子というか、助手に近い立場でも大丈夫かしら?もしかしたら、共同研究者になるかもしれないけれど」
「願ってもない話です!ぜひ使ってください!」
「リュート、良いわよね?」
そうアニエスに言われると、断ることはできない。普段からさんざん我儘を聞いてもらっているのは俺だ。
しかし、預かるとなると、生活費なども考えなければならないな。
「あー、アニエスが問題なければ、それで良いよ。形の上では、サリオン通販かシバリュー企画に適当な
うむ。助かるぞい。
爺さんは肩の荷が下りたような表情をしている。ぞいじゃないぞい。
「そのガーゴイル、今後のために量産する必要があるんじゃろう?おそらく、マリーが役に立てるはずじゃ」
「むむ、それは確かに」
アニエスではミスリルに定着させるくらいでしか物理化できないガーゴイル内部の魔法陣だが、マリーさんの技術ならば解決できるかもしれない。
「マリーさんはそれで良いのか?」
「あの、アニエスさんと一緒に働かせていただけるなら、どんなことだってやります」
やる気は十分なようだ。でも、会ったばかりの相手にどんなことでもなんて言うもんじゃないぞ。悪い大人というのは、どこにだっているものだ。
「具体的には、いつから来られるのかしら?」
「今日からでも、と言いたいところですが、さすがに家族への説明は必要なので、明日まで待っていただけると嬉しいです」
「学校は大丈夫なの?」
「学校は飛び級で卒業しました。今は実家の工房の手伝いをしています」
ずいぶんと急な話だが、学校を卒業済みというのは、雇う側から見て一つの安心材料だ。
むしろ実家への説明の方がこじれる可能性はありそうだが、その時はその時かな。
「じゃあ、また明日迎えに来るわね」
「ありがとうございます!お手数ですが、よろしくお願いいたします!」
勢いよく頭を下げる姿は、とても初々しい。
ふむ。清楚系お嬢様キャラか。ちょうど今までいなかった魔術師でもあるし、見た目も悪くない。
アイドルとしては大人しすぎるようにも思えるが、これはこれで需要がある気がする。ワンチャン、三人目としてデビューしてもらうのもアリか?
「リュート、また良からぬことを考えてる時の顔してるわよ」
そんな俺の尻を、アニエスがぎゅうっとつねった。
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