第14話 転売屋との闘い(1)
翌日、ぐったりするアニエスには夕方まで療養をとってもらい、俺は編集班の進捗、放送班とのスケジュール、分析班とのオンエア時オペレーションを順に確認していった。午後にはサリオン通販の心臓部とも言える第一倉庫を訪れ、予め伝えておいたポーションの出荷計画について認識にギャップがないかすり合わせを行う。それが終わると、出荷責任者を伴って再び太陽教会を訪れた。
フルーゴ司祭はまだお休みとのことだったが、トボコグ助祭は復帰されていたため、出荷責任者と一緒に梱包・出荷について打ち合わせをする。
今回は割れ物の大量出荷ということで、梱包材の準備を一つとっても大仕事だ。受注してから手配していては出荷が間に合わないため、もう決め打ちで3本入りと6本入りの木箱を大量発注することにした。この世界の支援魔法はなぜか“自分を含めて6人まで”というものが多く、冒険者も6人でパーティを組むことが多い。それゆえ、受注も6本セットが主流になると予想してのことだ。
この場合、例えば8本をお買い上げいただいたお客様には、6本セットの大箱一つと2本だけ入った3本用の小箱をお届けすることになる。おそらく「2箱に分かれて届いた!ごみが増える!」とか「なんで4本ずつじゃなくて6本+2本なんだ」といった反応はあるだろうが、翌日2箱で届くことの価値は3日後に1箱で届くよりも圧倒的に大きい。これは、アリゾナ・ドットコムが過去に蓄積してきたデータから結論付けられているし、こちらの世界においても変わらないはずだ。
もちろん、理想は翌日1箱で届けることだが、今回は出荷責任者の熱い現実的判断により、妥協もやむなしと結論付けた。
「梱包箱ですが、急ぎで作るところまではどうにかします。しかし、箱を保管する場所が足りていません」
「箱を作る会社に、分割納品に応じるよう頼んでみて。その見返りとして、明日は1日3回こちらから輸送の馬車を出して引き取りに行く」
「なるほど、手元在庫を出荷した後、空いたスペースに追加の箱が届くイメージですな」
「向こうにとってみれば、納品用の馬車代が浮くから断りはしないはずだ。できない場合は何が障害となっているか確認して」
そんなやりとりを行ううちに
夕食時。
今回は研究室に各班が待機し、オンエアを見守ることにしていた。
ちょうど冒険がクライマックスだったということもあり、今回の販促は例のポーションのみとしている。転売屋が事を起こすなら、その対象はポーションに集中するだろう。
「動画のアップロード完了。動作確認も問題ありません」
「定刻15分前。それじゃあ、待機所を
地球における最大手の動画サイトと同様、シャイルとセナの冒険物語は各話ごとに配信先のページが作成されている。
配信ページのリンクが有効化されると視聴者はそこにアクセスできるようになり、配信開始時刻を過ぎると動画視聴が可能となる仕組みだ。なお、通販事業と公式に提携している各冒険者ギルドや大手の酒場では、定刻になると巨大モニターから自動放送されるようになっている。
「ギルドカード掲示板に配信ページの告知流します……すごい、一瞬で待機所が20人になりました」
「ポーションの商品詳細ページへのアクセスはどう?」
「まだ7人です」
即断はできないが、まだ転売屋は来ていないようだ。分析班のレポートによると、彼らは40人以上の集団で買い漁っていく。
「ポーションのカートはまだ落としておいて。動画内で紹介されるタイミングに合わせて上げるから」
アリゾナ・ドットコムおいて、商品が買える状態にすることを「カートを上げる」、買えない状態にすることを「カートを落とす」と呼んだりする。例えば新作ゲームは発売日の0時0分0秒にカートが上げるようタイマーを設定しておくし、メーカーから確保している数の分が売れた瞬間にカートが落ちるようプログラム制御されている。個人的に便利なので、異世界においてもその呼称は引き継いでいた。
ちなみに、超人気ゲームやアーティストのアルバム販売時には、プログラムの自動カート落とし間に合わず、売り越しが発生してしまうケースがある。会社としては500本しか確保していないのに、510本の予約を受け付けてしまったりするのだ。この場合、基本的にはメーカーに事情を説明し、超怒られながら追加確保の交渉をしたり、大抵は一蹴された挙句お客様に謝罪の連絡をしたりする。
実は、こんなことが起きる原因の一つにも転売屋が絡んでいる。彼らはプログラムを使って大量購入を行っており、1秒間に何十本も買い漁る。システム的にカートが上がった瞬間、インターネット上のUIが対応するよりも早く注文が入り、あっという間に在庫切れが発生し、システムがカートを落とす前に売り越し分の注文まで入れていく。アリゾナ側も対策は検討しているが、長年解決しない問題として残っているようだ。
「10秒前。始まります。4,3,2,1」
地球での苦い記憶に意識を奪われていると、放送班のオペレーターによるカウントダウンが始まった。動画配信の開始だ。
現在の同時接続数は7800件ほど。この街の冒険者ギルド登録数が2万人程度であること、ギルドや酒場では集団視聴されていることを鑑みると、視聴率は50%を超えるだろう。後追いでアーカイブを見る人もいるから、冒険者に対する認知度は8割以上になると予想している。
なおこの配信はギルドカードを開くことのできる環境ならどこでも見られるから、スチールフロント外の、例えば王都あたりでも見られている可能性はある。とはいえ、まだ配信開始から1年にも満たないし、通販事業のカバー範囲がスチールフロントに限定されることから、他の都市へ広がるには時間がかかるだろう。早く近隣都市にも通販のお届け範囲を拡大していかないとな。
そんなことも考えつつ、配信を見守る。時折研究室の各所でも笑いが起きており、映像としての出来は悪くないようだ。
『“
『『だーいせーいこー!!』』
画面の中では二人が大輪の笑顔を咲かせながら、大きなハートマークを作っている。画面が切り替わったら、広告パートの始まりだ。
『さて、今回の冒険で大活躍したこのアンデッド
『効果のほどは、セナの活躍を見てくれた人ならわかると思うでシカ!だいたい30分くらい、アンデッドから3歩以上距離を取っていれば見つからない感じでシカ!』
商品紹介が開始されると、研究室に緊張感が漂う。この先の1時間はめまぐるしく状況が変わるはずだ。その間、転売屋に対する主導権は握り続けなければならない。
ふと隣を見ると、アニエスはアクセス状況の監視をしているようだった。
「転売屋の動向だけど、今回も6人がギルドに、残る37人は同じ倉庫に集まっているみたいね。同じ倉庫から新しいアカウントのアクセスは無し、と」
「リアルタイムでわかるのか」
「IDが割れてるからね。動画を見る少数と、商品画面を開いている大多数で役割分担しているみたいよ」
「やっぱり、ある程度の練度は持った集団なんだよなあ」
だからこそ、ここでしっかりと叩き、再発防止のための道筋をつけたい。
「そろそろカート上げます。60秒前」
オペレーターがカウントダウンを開始する。
俺は事前の打ち合わせで決めていたことを、研究室中に響くよう声に出して確認した。
「よし、分析班Aは商品ページ全体のアクセス状況と在庫数監視してくれ。分析班Bは転売屋43人に絞った購入数の
各チームから了承の声が集まる頃には、配信も最後のパートを迎えていた。
『こちらの商品は、この後20時30分から買えるようになるシカ!』
『今回太陽教会様には5000本の在庫を用意していただきました!1本たったの100ゴルド!』
『これで買える安全と比べると、安すぎるくらいでシカ!みんな、買うでシカ!』
「カート上げます。3、2、1、上がりました」
動画に合わせて、オペレーターが商品購入のボタンを有効化する。途端、スロットマシンのような勢いで購入数が増えていった。
そして2分後。
「転売屋、在庫5000個を買い切りました」
「奴ら、今回は予算額を増やしてきたな」
前回と同じく、一人当たりの予算を1万ゴルド仮定すると43人で43万ゴルド。今回の5000本は100本で50万ゴルドになるが、その金額はあっさり超えてきた。
「ここまでは想定通りね。前回美味しい目を見たということで、強気に出ているんでしょ」
「それに、在庫を買い切らないと高額転売できないからな」
転売というビジネスは、正規価格での流通が途絶えた状況下でしか成り立たない。
「放送班、43人向けにダミー放送開始。一般購入者の動向はどうだ?」
「順調に減っています。こちらも残り2800個」
「了解。500個切ったら教えてくれ」
「転売屋向けダミー配信開始します。3,2,1」
濃密な1秒1秒が過ぎていく。
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