第11話 ダンジョン攻略(1)
ダンジョン“
徒歩でも1日程度の距離ではあるが、アニエスに
女優の二人と撮影役の俺はダンジョン手前のセーフポイントで攻略と撮影の流れを確認し、まずは一気に地下6階の入り口まで潜った。降りるだけなら、ダンジョン内の縦穴を利用すれば良いので楽勝だ。なお穴の
「よし、じゃあ撮影に入る前に、ポーションの効果だけ試してみようか。まずはシャイルから」
5階から6階に通じる螺旋階段を降りると、俺は鞄からポーションを取り出した。
「おっ、いよいよね。これ、一気に飲んじゃって良いんだっけ?」
「ああ、一瓶一気に飲んじゃってくれ。体中に太陽神様の加護が行き渡るはずだから」
「りょうかーい」
シャイルはひとかけらの迷いもなく瓶を呷る。量的には200ミリリットルくらいあるはずなんだが、一気に飲み干した。
「これ……何の味?お茶っぽい感じよね」
けぷっと意外に可愛らしい息を漏らしながらシャイルが首をかしげる。
「ゼラヌス茶に寄せているらしい」
「ああ、太陽神様の」
この世界には様々なポーションが存在しており、それらの効果が分かりやすいよう味付けにも工夫が施されている。
ゼラヌスはヒマワリに似た大輪の花が咲く植物で、太陽神のシンボルに用いられていた。その葉を乾燥させると、独特の風味を持つ茶葉になる。
「一応、30分程度の効果は確認できているらしい。で、3歩分くらいの距離を取っていればだいたい気付かれない、と」
「一応とかだいたいとか、曖昧でシカねえ」
「まだ開発して間もないからな」
むしろ、そんな新商品を俺たちの通信販売で取り扱わせてもらえることの方が例外的な事態だったりする。巡り合わせに感謝だ。
「じゃあ、ちょっと行ってきまーす」
ふらりと近所の本屋にでも行くような気軽さでシャイルは通路の先に歩いて行った。ホール状になっている部屋には数体のエルダースケルトンが佇んでいるが、彼女に気付いた様子はない。
「大丈夫みたいでシカね」
「大丈夫みたいだな」
やや緊張気味に俺とセナが見守っていると、シャイルは足元にあったソフトボールくらいの大きさの石を拾って、
「あ、やばい。それはまずい」
俺が止める間もなく7、8メートル離れた所にいたスケルトンに投げつけた。
ごがん。
がしゃがしゃがしゃがしゃ。
石は見事に命中し、スケルトンは即座にシャイルへの突進を開始する。その動きに反応し、部屋中のスケルトンも敵対反応を示した。
「あははは!怒った怒った!たった一発で怒ったゲージ溜まりすぎっ!」
シャイルは目の前のスケルトンを一刀両断すると、あちこちに動き回って部屋の四方から飛来する矢を回避する。
「仕方ない。セナ、俺とフォーカス合わせて。まずは右の近い奴から」
「了解っ」
俺は一撃で倒さない程度の攻撃呪文を詠唱し、シャイルへ槍を突き出そうとしていたスケルトンにぶち当てた。不可視の衝撃に弾かれ、ふらついたところにセナの火弾が追撃すると、そのまま崩れ落ちる。それを尻目に、シャイルは奥の弓持ちに向かって走り出していた。そいつは彼女に任せ、俺は射線の通るようになった別のスケルトンへ次弾を放つ。そこへ、間髪入れずにセナが止めを刺す。
敵とのレベル差があったとはいえ、悪くない連携だ。最近、配信外ではこんな風に実践向けの動きを確認していたりする。
「おつかれー!ナイスファイッ!」
全てのスケルトンを殲滅した後、シャイルは朗らかに親指を立てて俺たちのところにやってきた。彼女一人で3体斃しているが、当然のように無傷だ。
「ナイスファイッ!じゃねえシカ。やる時は事前に言えといつも言ってるシカ」
「まあまあ。あの距離の投石で怒られるようじゃ、長槍とかでつつく攻撃も全部ダメね」
「昔から、アンデッドは敵意や殺意にも反応すると言われてたからな。たぶんもっと遠くから弓撃っても襲ってくるぞ」
「このあたり、動画でわかりやすく説明してあげないとね。その方が、
なるほど、確かにそうだと俺はセナを見た。目の端で、シャイルも意地の悪い笑顔をセナに向けているのがわかる。
「ちょっと待つシカ!?打ち合わせではスケさんの間をすり抜ける程度の動きで十分って言って」
「セナ、初心を思い出して。私たちが一番大切にするものは何?」
「そ、それはお客様の笑顔でシカ。でもこういうのとはちょっと違うシカ!」
この調子では、いつものように言いくるめられるだろう。台本を書き換えないといかんな。視聴者が知りたい情報を得られつつ、画面映えする内容に。
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