星屑のパレード

 アムラリタが起きたのは既に陽が昇り木々や鳥たちがさんざめき、大樹がその腕の下にやわらかな影を這わせ、しばらく経ってからのことでした。

 アムラリタは起き抜けに誰にともなくおはよう、と云うと、立ち上がり伸びをしてから、もう一度、「おはよう」と、はっきりとした発音で繰り返しました。

 アムラリタは朝食の、木の実や野菜やブドウを食べながら、パレードへ想いを馳せました。きらびやかな星屑は、ため息の出るほどに美しく、熱気と歓喜と驚嘆と賛美がいっぺんに襲ってくる大河のようなそれは、アムラリタにとっては遠い世界の出来事のようで、いつも家の中からとおくとおく眺めるだけのものだったのです。しかし、今年は違いました。両親からの許しを得て、アムラリタは星屑のパレードを見に行くことを許して貰えたのです。パン屋のバイト、牛乳配達、いろいろなことを懸命に続けた結果でした。

 牛乳を一口飲んだとき、アムラリタは気付きました。今日が街で年に一度のパレードがある日だったのです。皆朝から、あるものは昨日の夜から店の準備をし、パレードに参加する者はなんと一週間も前からその準備を進めていました。アムラリタはそのことを思い出し、家の扉を音が出るほど強く開け放ち、一目さんにかけて行くのでした。


 アムラリタが森の大樹に挨拶し小川にほほ笑み、鳥たちに手を振り、時には走り、そうして街についた頃、日はもう暮れかかっていました。星屑のパレードは大人から、もう子供でない、と認められた者だけが参加することが許されたお祭りです。自然とアムラリタの他はアムラリタより大きな者ばかりになっていました。ふつうはある歳以上で参加を認められるのですから、当然のことでした。自分より背の高い人たちの中をアムラリタはたいそう気まずそうに学校の友人たちの元へ歩いていくと、開口一番に「ごめんなさい」と云いました。しかられからかわれるかと思うと、アムラリタはさらにちぢこまるような思いがしました。

 しかし友人たちは叱るでもなく、笑って許してくれたのです。その中で一番年上のヨハンセンは、

「大方、昨日の夜に楽しみで寝られなかったんだろう。ぼくも最初はそうだったから」

といって、アムラリタの頭をなで、

「そうら、もうじきはじまるぞ」

そう云うと、アムラリタへ大きなロウソクを手渡しました。

 アムラリタはそれを見、目を輝かせました。このロウソクに火を付けて、街の中央を流れる大きな大きな河に浮かべるのが、ずぅっと夢だったのです。

 周りのひとたちも、ロウソクに火をつけ始めました。そして順に、河へ浮かべてゆきます。

 アムラリタの順がまわってきました。緊張と興奮で震える手を必死に抑えながら、ロウソクに火を灯します。吹き消したりしないように、かき消したりしないように。ロウソクを河に浮かべるのには、随分とコツが必要でした。水面に対して垂直に、少しも曲がったりしてはいけません。アムラリタは家で、学校で、暇さえあればその練習を欠かしたことはありませんでした。

アムラリタは水面にロウソクを浮かべる時、すぅっと、自分の中から何かが抜け落ちていくのがわかりました。緊張はすでにありませんでした。


 浮かべたロウソクが、流れに乗ってゆらゆらと進んでいきます。

 アムラリタはそれを見て、家の近くに住んでいる螢火のことを思いました。命の灯。刹那の耀。今流れていく沢山のロウソクは、まさしくそれでした。沈んではいけない。傾いてはいけない。


 その時でした。宇から一直線に、光り輝く粒がロウソクの群れ目掛けて流れて来たのです。それは一度ではなく、何度も、何度も。

 星屑のパレードです。

 そのうちのひとつが、ひとつのロウソクに命中しました。ロウソクの火は激しく燃え盛り、水面を煌々と照らしていきます。


 アムラリタのロウソクでした。


 そんなことは、十年に一度、あるかどうかといった具合いのもので、それはもう、みんなが大はしゃぎでした。アムラリタはその中心で、誰よりも歓喜していました。涙が出そうな興奮が、アムラリタを襲いました。

 けれども泣く訳にはいきません。パレードも、お祭りも、まだ始まったばかりなのですから。アムラリタは友人たちにもみくちゃにされながら、来年も、その次も、絶対に来ようとおもうのでした。

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