第6話 彩視点:私の王子様
「どうしてこんなことになったんだろう…」
私はただ、親友と一緒にゲームを楽しみたかっただけなのに。
彩もかごめと同様サポートAIの説明を受けたのだが、彩はかごめ程強くなく普通の女の子だったため、ログアウトできないとか死ぬと現実の記憶を失うという事が受け入れられなかった。
「怖いよ…帰りたいよ…かごめちゃん…」
怖いし帰りたいけど、こんなゲームに誘ってしまったのは自分なんだから後で謝らないと。
「とりあえず…かごめちゃんと合流しよう。」
ゲームを始める前にふたりで【教会前】で待ち合わせしようと約束していたから安心だ。
辺りを見渡すと、新作MMORPGとは思えない程プレイヤーたちの顔は暗く、どんよりとした空気が流れている。
それはそうだ。だって現実世界に戻れないなんて…記憶が消されちゃうなんて、怖くない人の方がおかしい。
「教会前は…ここだよね」
教会前についたが辺りにかごめちゃんらしき人物は見当たらない。まだ来てないだけかもしれないし、待っていよう。
しかし、暫く待っても彼女の姿は現れなかった。
「かごめちゃん? かごめちゃーん!どこにいるのー!?」
必死に叫ぶ。街中は大方探したけど、見当たらない。
「もしかして、先に街の外まで行っちゃったのかな…?」
冷静に考えればかごめが彩の事を置いて先に行くなんてことはありえないのだが、デスゲームへの恐怖とかごめがいない事による不安から彩は街の外へと走り出してしまう。
「はぁ…はぁ…」
どれだけ走っただろうか。
もともと体力のない私は肺が痛みに襲われてもう走れそうもない。
「かごめちゃん…どこなの…?」
掠れ気味の声で問いかけてみたが、その声に反応する者はいない。
その時、後ろの茂みがガサガサと音を立てて揺れる。
「かごめちゃん!?」
振り返ると、後ろには下卑た笑みを浮かべた男が2人立っている。
「お、かわい子ちゃん発見」
「こいつは上玉だなぁ」
その態度と発言か自分が今から何をされるのか理解してしまった。
「やめてください!大体セクシャルガード機能があるのでゲーム内でのセクハラは出来ないはずです!」
そう。ゲーム内ではそういうことはお互いの同意の上じゃないとできない仕様になっているはずだから大丈夫…。
「うん。だから解除して?」
首にナイフを突き付けられる。首筋を伝う冷たい感触に身体がガクガク震える。
「え…?え…」
私は状況が飲み込めなかった。
この人たちは私のことを殺そうとしているの…?
「最初は帰れないって聞いて落胆してたけどよ、よく考えてみれば女を脅して犯して都合が悪くなったら殺して記憶消しちゃえば良いんだからこの世界って最高だよなぁ」
「てな訳で、早く解除しろよ。現実世界の記憶失いたくないだろ?」
忘れたくない…。お友達の事も、好きな人の事も、家族のことも、かごめちゃんのことも。
私は恐怖で震える手でメニュー画面を操作しセクシャルガードの項目をOFFにする。
「懸命な判断だ。じゃあそろそろヤるか」
衣服に手を掛けられる。
知らない男の人の手が私の肌を触れる。
怖い、怖い、怖い。誰か…助けてよ。
「助けてぇぇ!!!」
そう叫んだ刹那、私の前に黒い閃光が駆け巡る。
「無事で良かった…。大丈夫?三神さん。」
「桐谷…くん…?」
漆黒のコートに身を包み、刀を構えている彼はクラスメイトでもあり、さっき言った忘れたくない【好きな人】でもある桐谷和人きりたにかずひとくんだった。
「って桐谷君、危ない!!」
桐谷君の後ろからナイフが突き刺さる。のだが…
「クソっ!こいつ、どれだけ切ってもHPが減らねぇぞ!?」
「俺のレベルは20。君達みたいな低レベルじゃ、何時間も切り付けないと死なないよ。勿論、俺が無抵抗ならの話だけどな」
「20だと!?まだこのゲーム始まったばかりだろ…そんなのチートだろ…」
「俺はβテスト勢だったから、良い狩場を知ってたんだよ。職業もユニーククラスの【侍】だしな。」
「ちくしょう…チーターが!覚えてやがれ!」
噛ませ犬の常套句を吐き捨て去っていく下種を尻目に、私は桐谷君から目が離せなくなっていた。
「……かっこいい」
私を暴漢から守ってくれた彼の背中はまるで王子様のようだった。
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