第58話 「追跡と栄光のラプソティ」

 ロシューが頭を庇うようにしてコートに伏せた瞬間、イタリアチームのリーダーであるティッキー・フィン・ブロードは、身体中の血液が逆流するような錯覚を覚えた。試合中の妨害は想定していたが、まさか直接的な加害行為に及ぶとは。宿泊先のホテルに盗聴器を仕掛けてくるような連中だが、いくらなんでも衆前でことを起こしはすまいと踏んでいた。


(甘かった。連中はあくまで私たちを屈服させたいらしい)

 ティッキーは自分の見立ての甘さと、手段を選ばない相手の外道さに苛立ちを覚える。


(ロシューのあの様子、目をやられたな。射撃音もなにも無いということは、恐らく個人で携行可能な超小型のレーザー兵器かなにかだろう。その仮定が正しいすれば、犯人のいる位置は……)

 片手で顔を覆い隠し、指の隙間から目を細めて観客席に視線を向けるティッキー。しかし、犯人らしき人影を捉えることはできない。もう一瞬でも早く見ていればと歯噛みする。


「ギル」

「もう飛ばしてるぜッ!」

 ティッキーが指示すると同時、蜂型ドローンが飛び立っていく。ギルが巧みにドローンを操作し、会場の高い位置から捉えた観客席がタブレットに表示される。今大会のルールで、チームのベンチ内に持ち込んで良い通信機器は大会側が用意したものだけだ。遠隔コーチング等の違反行為防止が目的だが、自国を出発する前から既にのっぴきならない状況にあったイタリアチームに、そのような平和的なルールを順守する余裕は無い。


「ジオ、外の連中に」

「伝えました。しかし……」


 ジオがなにを言いたいのかはティッキーも承知している。しかし状況が状況なだけに、今は打てる手はすぐにでも打たねばならない。大会はまだ、始まったばかりなのだ。ここで後手に回れば、良いようにやられっぱなしになってしまう。


 会場が歓声に包まれる。ロシューのサービスゲームがブレークされた。このまま行けば、連中の思惑通りの展開になる。それだけは絶対にさせてはならない。でなければ、大見得を切ってイタリアテニス連盟に協力させたうえ、裏社会を牛耳っているイタリアンギャングを自分たちの味方になるよう説得した意味が無くなってしまう。


(頼む……ロシュー、リーチ。我々は負けるわけにいかない)


                ★


 ロシューが襲撃される数分前


(まったく、どうしてこうトイレが遠いかな)

 仲間の試合の真っ最中ではあったが、ミヤビはいったんベンチを離れていた。選手・関係者用のトイレはコート付近から離れていたので、歩き慣れていない施設内をうろうろと案内板を頼りに歩き回る羽目になった。


(こんなとこにも大型モニターがある。これは何用なんだろ?)

 戻る最中、目的が判然としないスペースの壁に設置されたモニターが、試合の様子を映しているのを見つける。画面ではプレーが始まる直前だったため、ミヤビは何となくいつものクセで足を止めた。テニス観戦のルールとして、プレー中に観客は動き回ることが禁じられている。当然、モニターで見ている人間がそんなことを気にする必要はない。あくまで現地観戦時のルールだ。


(あ、水平角度)

 サーブを打つ準備をしているイタリアペアを、カメラが真後ろからほぼ水平の角度で映し出していた。基本的にテニスの試合をテレビで映す場合、斜め上から見下ろすようにコート全体を映し出す角度が、もっとも見易いとされている。だが、画角の関係でその角度の映像はボールの軌道やコートの広さがわずかに歪み、実際に目にするものとは異なった映り方になってしまう。


(このモニター、画角が固定なんだ。関係者用のスペースなのかな)

 地面と水平に選手を真後ろから映す画角であれば、実際に見る時とほぼ同じような臨場感で映像を見ることができる。そのため、観戦を楽しむのではなく、選手の動きや挙動を観察したい場合は水平角度での映像が望ましい。ミヤビが立ち止まったスペースは、どうやら指導者や関係者向けの場所のようだった。だからこそ、ミヤビはロシューと同じ視線の高さで会場を見ることができた。


(今、なにか光った?)

 画面の中の小さな異変にミヤビが気付いた次の瞬間、ロシューが頭を庇うようにして倒れ込んだ。そして、モニターに小さな点・・・・がチラリと映って、すぐに消える。ミヤビが倒れ込んだロシューより画面の奥に視線を集中させたのは、直感的に嫌な予感が胸を過ぎったから。付け加えるとするなら、彼女にはその手の不正・・・・・・の知見があり、無意識にその可能性を感じ取ったからだろう。豆粒のような観客席で、何者かが席を離れていくのをミヤビは見つける。


(青い帽子キャップ、それとグレーのリュック)

 画面で確認できたのはその程度のことだけ。ミヤビはすぐに会場の位置関係を思い出し、近くを通りかかったスタッフに声をかける。


「すいません、西側スタンド席の、観客用出入口ってどこですか?」


                ★


 ジュニアの試合とはいえ国別の大きな団体戦ということもあり、試合会場は大いに賑わっていた。現地に住むテニスファンはもとより、在米の外国人やわざわざ母国から応援に駆けつけた者達など、実に様々な者たちが訪れている。


(さすがに、この中から見つけるのは厳しいかな)

 ミヤビはグラウンドフロアから階段を昇り、先ほど画面で見た特徴の人物を探しに向かった。ハッキリした確信があったわけではないが、反射的に何かあると感じてしまった以上、確かめずにはいられない。レーザーポインターなどを使った妨害行為は、稀にだが耳にする。今の段階では想像でしかないが、先ほど目にした映像を頭の中で思い返すと、嫌な予感がしてならなかった。


(ん~、帽子とリュックだけじゃなぁ)

 あたりをキョロキョロ見回すが、スタンド席への出入口付近は人の流れがかなりある。青い帽子とグレーのリュックという特徴は一応掴んでいるものの、画面越しなので正確とは言い難い。さすがに無理があったかなと諦めかけていると、ミヤビの耳につけた翻訳機能付きのイヤホンマイクに、イタリア語の暴言が飛び込んできた。


「追跡は良いけどよぉ、どんなヤツを探しゃ良いんだ~? 男か女か? 若者か老人か? それともガキか? 服装はどんなだ? 背格好は? 人種は? 一人か? 複数か? それが分かんなきゃあ探しようがねぇじゃあねえか! 分かるわけねえだろうがッ! ナメやがってえ、超イラつくぜえ~ッ!」


 赤い縁の眼鏡をかけ、白いジャケットを着た長身の男が、一人で喚きながらゴミ箱を蹴り飛ばしている。周りにいる多くの人たちは、粗暴な振舞いをしている男に注意はおろか近寄ろうともしない。男は自分に対してチラチラと視線を向ける来場客に「なに見てやがんだコラァ」と言わんばかりの凶相で睨み返す。


 男はゴミ箱を最後にひと蹴りすると、獰猛な感情を隠そうともせず、周囲にその凶悪な視線を振り撒く。まるで因縁をつける相手を手当たり次第に探すように、眼鏡越しに大きな眼球をギョロギョロと動かしている。


(ま、幸い周りに人は多いし……)

 男の態度に少しためらったミヤビだったが、意を決して話しかけた。


「あの、イタリアの関係者の方ですか?」

「あァ? なんだァ、てめぇ」

「日本チームのメンバーです。さっき変なことがありましたよね?」

「日本ン~? なんだって日本が……いや、それより、何だ? 用件をいえ」


 なぜ、この手の態度の男は下から相手をめつけるようにアゴをしゃくるのか。こういう挙動は全世界共通なのだろうかと、ミヤビは一瞬思考が逸れる。だがねちっこく絡んで来るかと思いきや、男が意外にも自分から話の先を促したので、ミヤビもすぐ本来の目的を思い出す。ミヤビは自分がモニターで見たことを簡潔に伝える。すると、男はすぐさまインカムを起動して誰かに連絡をとった。見かけより、ずっと冷静な人物なのかもしれない。


「ジオ、ギルに伝えろ。青い帽子にグレーのリュック。男女不明。西側スタンド3階席の出入口から外に出てる。映像をこっちにも飛ばせ。リッゾとアルマージも向かわせろ」


 それだけいうと男は通信を切って、今度は眼鏡の縁にあるボタンに触る。どうやらただの眼鏡ではなく、着用型ディスプレイのようだ。凶悪そうな顔つきだが、そこには氷のように研ぎ澄まされた狡猾さが宿っている。


「近い候補は……ちょうど3人。逃がさねぇ、ぜってぇー逃がさねぇ」

 そうつぶやくと、男は両足のかかとを順番に地面へたたきつける。すると、履いていた靴の底から一列に並んだローラーが出現し、そのまま一気に駆け出していった。ミヤビが呼び止める間もない。


「えぇ……ちょっとぉ?」

 取り残されたミヤビは、仕方なくチームベンチに戻るほかなかった。


                ★


 日本 VS イタリア  男子ダブルス

 セットカウント1-1 ゲームカウント4-3 日本リード


 試合も終盤へと差し掛かり、先行してブレイクできた日本ペア2人だったがその表情に歓びの色は無い。マサキ、デカリョウともに強い違和感が胸のなかを占め、言葉にできない落ち着かなさを感じている。マサキは対戦相手のロシューに気付かれないように様子をうかがいながら、小声でデカリョウに話しかけた。


「蜂、っていってたよな。デカリョウ、見えたか?」

「いんや見てねえ。ずっとアイツをよく見てたわけじゃねぇどよぉ」

「だよな。それだとしても、蜂がいたら気付くよな」

「てゆうか、蜂なんか怖がるたまじゃないだろうになぁ」


 さきほど、相手の選手がゲームの途中で不可解な挙動をとった。その様子はまるで会場のどこからか狙撃でもされたかのようだったが、当然そんなことは起きていない。とはいえ、そのあと再開したゲーム中、相手のプレーは明らかに乱れていた。外見上は特に異常が見られず、日本の2人にはなんだったのか見当もつかない。


「立ち眩みとかそういうのか?」

「それなら蜂がどうだとかは言わないんじゃないかなぁ」

 結局、あの出来事がなんだったのか分からず仕舞いのまま、日本の2人は休憩を終える。釈然としないものを抱えてはいるが、考えようによってはチャンスなのだ。相手になにが起こったのかは知らないが、試合が続行されている以上、ここは一気に行くべきだとマサキたちは気持ちを締め直す。


「なんだか知らねぇが、この機を逃す手はねぇ、仕留めるぞ」

「おう、このまま押し出しちまおうぜ」



「ロシュー兄ぃ、目は大丈夫なんですかい?治療・処置のメディカル・ための休憩タイムアウトを取った方が」

「必要ねぇ。確かに左目は見えてねえが、プレーはできる」

「いやでも、もし」

「くどい。下手に時間を取ったらあのデカブツが復活する。それじゃダメだ」

「デカブツって、でもやつは持ち直してるんじゃ」

「あァ? ハッ、オメェにはそう見えるかよリーチ。確かに一見するとヤツは崩れ切らなかったように思える。だがそうじゃねえ。2ndセット、獲られはしたがそれはヤツが持ち直したからじゃあねえのさ。今もまだ、こっちが有利・・・・・・だ」


 リーチには理解できない。1stセットはロシューの言う通り、あのビッグサーバーを真正面から打ち破ることに成功し、見事にセットを先取できた。しかし、2ndセット。てっきりサーブが崩れると思ったら、日本ペアは方針を変えて確実にゲームメイクしてきた。結果、タイブレークに突入し、あと少しというところでセットを奪われた。


 リーチの表情をみたロシューが、左目のまぶたをさすりながら「わからねぇか?」とつぶやく。怒られるのを承知でリーチは素直に頷き、先を促す。するとロシューは、残る右目に冷たく暗い輝きを灯しながらこたえる。


「やつは引いたのさ。自分の最強の武器を粉砕されて、自信を失いそうになったからな。大方、これまでにもこういうことは何度もあった、テニスはサーブだけじゃない、とかなんとか自分に言い聞かせたんだろうよ。それはそれで正解だ。間違ってねぇ。だが、やつは一番の問題から目を背け引いた・・・。逃げたのさ。結局のところ、自分のもっとも頼れる武器をぶっ壊された事実に向き合ってねえ。問題の先送りをしたんだ。そう言うのは正念場で必ず足元をすくってくる。ちょうど、次はまたヤツのサーブじゃねえか」


 そういうとロシューは左目から手を離す。視力が回復した様子はない。まるで左目だけが死んだように光を失っている。しかしだからこそ、残る右目に宿る光がよりいっそう強く輝いているように見えた。


「勝利は目の前だ。ここで引くなんざありえねぇ。あと少しで喉元に食らい付けるってところまできてるんだぜ。いいか、リーチ。例え腕を飛ばされ足をもがれようと、それこそ目を焼かれようと、ここは絶対に引いちゃダメなんだ」


 ロシューは立ち上がり、いつも以上に強い覇気を全身に漲らせる。


「行くぜリーチ。栄光は、オレたちが掴む」


           ★


 サーブの立ち位置について相手を確認したとき、比較的温厚な性格のデカリョウといえども、さすがに苛立ちを憶えずにはいられなかった。リターンするロシューが、サービスラインの手前に立っているのだ。


(この野郎~、ここでそういう真似するかい)

 2ndセット、そしてファイナルセット中盤まで、確かにデカリョウは速度を落としてサーブをコントロール重視に切り替えた。それは彼の最高速度にはほど遠い速度だったが、それでも平均速度は170kmを超える。


 自身の苛立ちを自覚しながらも、デカリョウはすぐ平静を取り戻してサーブを打つ。自分がムキになってエースを狙いに来るよう仕向けたいのかもしれないが、その手には乗らない。テニスというスポーツにおいて、サーブだけは唯一、誰にも邪魔されずに打てるショットだ。それ故に、自分自身の心の揺らぎはサーブのクオリティに直結する。デカリョウは相手のことより、自分のことに集中しようとした・・・・・・・・


 放たれたボールがネットの白帯はくたいに弾かれる。ボールの軌道が逸れ、ネットは越えたもののサービスボックスには入らない。僅かに感じた苛立ちの他に、じわりとした焦りがデカリョウの心に染みを作る。同時に、デカリョウは自分のなかで速いサーブを打ちたいという気持ちが目を覚ましつつあることに気付いた。


(だめだめ、ここは辛抱。腰を落としてじっくりだ)

 ゲームカウントは先ほどのブレイクで4-3と自分たちが先行している。ここをキープすれば5-3となり、勝利まであと1ゲームだ。仮にその次を相手にキープされても、マサキのサーブを5-4で迎えることができる。リードは揺るがない。だが逆をいえば、ここをキープできなければせっかくの優位が無くなってしまう。


 デカリョウは心を落ち着かせ、2ndサーブを放つ。強いスピンをかけた鋭いサーブだが、ネットを越えたあとの飛距離が足らず浅くなる。ロシューはそれを見逃さず、素早く強烈なリターンを叩き込む。鋭くえぐるようなショットがコートの一番外側アレー・コートへ目掛けて突き刺さる。


 デカリョウは視界の端で、ロシューがリターン位置から更に前へ詰めるのを捉えた。ロシューだけではない。攻撃のチャンスとみたイタリアペア2人が揃ってネット前に陣取り、平行陣ツー・トップを形成する。


 コートの外へ追い出される形となったデカリョウは、ロシューのリターンを強引にストレートへ打ち返す。コートの真ん中センターは、左利きのロシューの右利きのリーチが利き手側フォア利き手側フォアで塞いでしまっているため狙えない。かといって、崩れた体勢から高く弧を描く一打ロビングはスマッシュの餌食になるだけだ。となれば、残るは前衛であるリーチの非利き手側バックを狙うストレートのみ。


 だがそこはネットの一番高い位置でもあり、不運にもボールが白帯はくたいへ当たって浮き上がる。それをリーチがガラ空きのコート中央センターに押し込んでポイントが決まった。


 続く第2ポイント。リターンのリーチも、ロシューと同じようにサービスライン手前に陣取った。低く腰を落として構えるその姿は、相撲取りが立ち合う前の蹲踞そんきょを思わせる。


――さぁ、スモウレスラー、勝負しようぜ


 そう誘われているような気がして、デカリョウは思わず奥歯を噛み締める。自分より小さい相手に、正面から挑まれてなお自分は勝負を避けるのか。いや、ここで冷静さを欠くな。相反する2つの感情がデカリョウの心を揺さぶる。そしてふと、1stセットで先にブレイクされたシーンが脳裏を過った。


(相手が前にいるせい、かなぁ)


 左手でボールをコートにつきながら、デカリョウは自分のリズムを整える。


(なんかやけに、コートが狭っ苦しいや)


           ★


「了解しました。ティッキー、確保です」

 ジオが短い言葉で報告すると、イタリアメンバーは歓喜の声を抑えながら小さくガッツポーズをとる。


「どう落し前つけさせてやろうか。指を1本ずつちょん切るかぁ?」

「取り敢えず逃げらんねえように足の腱を切るべきだぜ」

「ロシューは目をやられたんだ。両目をライターであぶって目玉焼きだろ」

 メンバーがおぞましい拷問のアイデアを次々と口にして、邪悪な笑いを浮かべる。だが、そこに冗談の色は全くない。彼らなら、それらをすべて順番に実行したあと、凄惨な拷問について過去形で語るだろう。


「お前ら、はしゃぐんじゃない。試合が終わるまでリッゾたちに預ける。それに、どうせ使い捨てのチンピラだろう。身柄は大会運営に引き渡すことになる」


 ティッキーがそう口にすると、それを聞いたメンバーが不満の声をあげる。


「なんでだよティッキー、ロシューは目をやられてんだぜ」

「使い捨てだろうがなんだろうが、オトシマエはつけなきゃよお」

「ふざけるな。ギャングとつるんでるからって自分たちまでギャングになったつもりか? 私たちはテニス選手だ。私たちがやるべきなのは試合で勝ち、実績を残すこと。勝ち続け、再びプロテニスの世界にイタリアの名を轟かせることで、過去の汚名を返上する。それが私たちの目的だ。私たちが戦うのは表舞台だ。裏のことは裏社会の連中にやらせればいい。自分たちの役目を忘れるな」


 ティッキーの言葉に、メンバーは鼻白むように押し黙った。


「ロシューがやられたことに対して、また、我々が置かれている境遇に憤りを持っているのは分かります。それは僕も同じだ。自分たちをこんな状況に追い込んでいる連中を、できることならこの手で直接裁いてやりたい。でも、それが万が一にでも公に出たらもうイタリアテニスは立ち直れない。世界の表舞台への扉は、二度と開かれることはなくなるでしょう。だから、我々が自分たちで報復するようなことは決してしてはいけない。それをするのは、ティッキーのいうように、裏社会の彼らに任せるんです」


 ジオが諭すように言葉を紡ぐ。


「裏社会の彼ら? おめぇの肉親・・・・・・じゃねぇか」

 長く美しい銀髪をかき上げながら、ムーディがいう。


「ムーディ、よせ」

 ティッキーがいうと、ムーディは面白くなさそうに鼻を鳴らす。ジオは少しばつが悪そうに俯き、ギルやグリードはどういったらいいかわからずに押し黙る。


「とにかく」

 気まずい沈黙を破るように、ティッキーが手を叩く。


「敵の尻尾はひとまず掴んだ。トカゲのしっぽだとしてもな。警戒は引き続き行うが、今日このあと露骨な妨害は恐らく敵もできまい。まもなく男子ダブルスの決着がつく。まずは今日、日本を倒し弾みをつける。ギル、ムーディ、そろそろ準備しておけ」


 ひと際大きな歓声が会場を包む。

 コート上の戦いにも、間もなく決着が訪れようとしていた。


                                   続く

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