第32話 「選手外労働(サイド・ジョブ)」

 激しい練習を終えくたくたになった聖は、ぼんやりした意識のままシャワールームへ入っていく。蛇口を捻ると突然降ってきた夕立のように水が降り注ぎ、運動後の火照った身体には出始めの冷たい水が心地よかった。しばらく打たれるままに雫の雨を浴び続け、やがて温水に変わって湯気が立ち込めてくる。全身に疲れを感じながら、のろのろと時間をかけて身体を洗う。水温を調節して最後にもう一度冷水を浴びて熱を冷ますと、練習の疲れは流れる水と一緒に排水溝へと吸い込まれていった。



 五月の大型連休に行われた男女混合ミックス団体戦のあと、聖はATCアリテニの選手育成クラスでの選手活動を本格化させた。手始めにITF――国際テニス連盟――やJTA――日本テニス協会――への選手登録を行い、育成クラスの責任者であるかがりコーチからプロになる為に必要な事柄について色々とレクチャーを受け、自分が身を置こうとしている世界の構造を学んだ。


 それと併せて、聖は自分がテニスのプロを目指すのだという話を両親に告げた。予想通り話はすんなりいかず、あれやこれやと話をした結果、どうにか条件付きで了解を得ることができた。


「聖が本気なのはよく分かった。だがスポーツ選手になる道のりはとても険しい。父さんたちも出来る限り応援はするが、限度がある。それに、やるからには夢ではなく目標であるべきだ。だから、目指すにしてもきちんと期限を設けなさい」


 『期限を設けなさい』というのは、父親の口癖で、聖も姉の瑠香るかも、幼い頃から耳にタコが出来るほど言われてきた。聖はプロを目指すという話をする前にこの流れは予想していたので、ATCアリテニで手に入れた情報を元に充分に吟味し、高校3年の夏までと宣言した。その時までにプロを目指せるかどうかのジャッジをする、と。同時に、母の求める高校卒業という条件も飲んだ。無論こちらは、もしプロになる場合は必ずしも達成されるかどうか約束できない。その時は事前に相談するということで話がついた。


 部屋に戻った聖は、今後のスケジュールをまとめようと、オンラインで情報を収集しつつATCアリテニで貰った資料を広げて計画を練る。すると、ヒマだったらしいアドが両親の出した条件について話を振ってきた。


「3年、厳密にゃあと2年強だが、それっぽっちで良いのかよ。アカレコ様はオメーに能力を貸しちゃくれるが、結果を保証するもンじゃねェぜ?」

「なにも高3の夏までにプロテスト合格、じゃなくたって良いんだ。その時点でどのくらい最初に立てた目標に対して近付いているか。大事なのはそこだからね」

「はーン? 一端のクチ利くじゃねェか」


 端整な美少年の顔を台無しにするように歪ませながら、アドが言う。聖はわざとらしく咳払いして、少し父親の話し方を真似して言ってみた。


「勉強であろうと遊びであろうと、一番最初に『いつまでにやる』という期限を決めておくことで、どんなことを、どれぐらい、どの程度のペースでやれば良いか計画を立てられる。そしてそれに沿って行動し、実際どういう進捗を辿るか随時鑑みながら、軌道修正する。それが目標の立て方、つまりは目標達成の確実なやり方だ。期限を設けるというのは、その為の第一歩なんだ……っていうのが、父さんの考え方」


「ご立派だねェ、それができりゃ苦労しねェって連中は山ほどいるだろうけどな。だが2年強って数字の根拠にゃなってねェぞ?丼ぶり勘定でも良いンかよ」


「期限の正確性より、まずは定める方が大事なんだってさ。もちろん、デタラメじゃダメさ。篝コーチから大会に関する情報や、どういう大会に出ればどれぐらいのポイントが得られるかなんかを教えて貰ってるからそれを元にしたんだよ。全部勝てれば短縮もできるけど、そうはいかない。仮に勝率50%として考えると、プロテストを受ける条件であるITFジュニアランキング50位以内に到達するには、大体2年ぐらいで届くんだ。確かにかなり大雑把な計算ではあるけど、まずはこれで進めてみるしかない。年末までにどのぐらい進捗しているかで、また見直そうと思う」


 アドは大袈裟に「へェ~~~!」と驚いてみせる。油断すると得意げな表情が出てきそうだった聖は、我慢して素知らぬ風を装い「なにか特別なことでも言ったかな?」というような表情を浮かべた。


「オマエって、そのうち意識高い系になりそうだな……オェ~」

 コイツはもう少し素直に人を褒めたり感心したり出来ないのかと、内心でイラっとする聖。だがそんなことはおくびにも出さず、聖は作業を再開する。直近では、五月末と六月に関東圏内で出場できそうな試合がある。近場ではあるが大会のグレードが高く勝てばポイントを稼ぎやすいが、その分レベルも高い。能力無しで勝つのはまだしばらく難しいだろう。地道に功徳の業カルマグレースを稼ぐための努力は継続しつつも、基礎力を付けるためのトレーニングや練習はしっかりやろうと心に近い、日々のメニューを組み上げていった。



 平日の昼間は学校へ行き、放課後はATCアリテニで練習、帰宅後に勉強を済ませ、近所の壁打ちで短時間だけ非撹拌事象の叡智の結晶リザスを使い簡単な練習をし、代償が来る前に寝る。時おり、夜中に目が覚めてしまった時など失徳の業カルマバープの強烈な苦痛に悩まされたりはしたが、聖は順調に基礎的な力を上げていった。


 週末には、比較的足を延ばしやすい地域で開催されていた公式大会にも参戦した。アドがいうところの涙ぐましい努力、のお陰で3回戦ぐらいまでは素の状態――とはいえ、功徳の業カルマグレースのお陰だろうが――で勝ち進むことが出来るようになった。しかし、それ以上に行くにはまだ力が足りず、獲得できたポイントは微々たるものだった。そして、その事とは別に、割と切実な問題が浮上してきたのだ。


「お金が無い」

 日曜の夜、聖は自室で誰ともなくつぶやいた。少年の姿を現していたアドは聖のタブレットを使ってアプリゲームをやっていたが、その声に反応して怪訝そうな表情を向ける。


「あンだって?」

「いや、意外と出費が激しくてさ」

「テニスは金のかかるスポーツだ。当たり前だろうが」


 試合のエントリーフィー、会場までの往復の交通費、消耗品に掛かる費用、飲食代、そういう色々な経費は基本的にテニス選手は自前で用意する。聖は親にATCアリテニでのレッスン料を出してもらっており、これに掛かる金額はなかなかのものだ。日本有数のテニスアカデミーに平日5日通い、専門家であるコーチの指導をみっちり受けられるのだから、当然安くはない。母親などは「これなら予備校に行ってくれた方がマシ」と文句を言っていたぐらいだ。


「なんとなく予想はしてたけど、結構キツいなぁ。試合って1日で終わらないから、その都度かかる交通費が一番大きいや。外泊ってワケにもいかないし、通学は自転車だから定期とかもないしなぁ」


「バイトするか身体を売るかして金を作るンだな。金は、命より重い……っ!」


 割と切実な悩みなので何かしらヒントが得られないかと雑談を振ったが、アドは興味を失くしたようでゲームに戻った。もうすっかり慣れてしまったが、冷静に考えるとなんでわざわざ姿を現してゲームなんぞしてるのかと疑問に思えてしかたがない。とはいえ、どうせ聞いたところでロクな答えが返ってくる気がしないので放置している。


「あァ、そういや、オマエのダチのV系野郎が株やってたじゃねェか」

 ゲームをしながら、アドが何気なく言う。

「V系? あぁ、奏芽かなめのこと? そういえば、そうだっけ」


 以前、聖がATCアリテニへ入会したときに受けた歓迎会で、幼馴染の不破奏芽がそんなようなことをしていた気がする。それと同時に、選手育成クラス責任者であるかがりコーチが、ATCアリテニではジュニアは選手活動の他に自主的な選手外労働サイド・ジョブを推奨していると説明していたことを思い出した。


選手外労働サイド・ジョブねェ。選手としてだけじゃなく、引退後の生活セカンド・キャリアを想定した一種の職業訓練みてェなモンだつったか? 安くねェレッスン料取る割に考えることがケチィなァ? あ! てめ、パワーAでなんでブロックされてンだ!」


 正直、聖が今こなしているスケジュールの中に、選手外労働サイド・ジョブを組み込む余裕はない。しかしかといって、このまま貯金を切り崩していくとそのうち親に泣きつかなければならなくなりそうだ。未成年なのだから親を頼るのは仕方ないことだが、それはあくまで最終手段。何かしら自分にもできることがないか、聖はまず奏芽に相談してみようと考え、メッセージを送った。



 ATCアリテニの敷地内にあるカフェ『ジュ・ド・ポーム』の店内に、甲高い裏声で批難の声が響いた。


「いきなり呼び出したと思ったらアンタ、いきなりお金の話? なによ! 久しぶりに会えたっていうのに、あんまりじゃないっ!」


 ウェイトレスの衣装に身を包んだデカリョウが、メロドラマのようなセリフを吐く。彼は聖と同い年だが、身長190cmを越える巨漢だ。まさか、この前の大会で女装に目覚めたのだろうか。せっかく運ばれてきたホットサンドと淹れたての珈琲の香りも、食欲が失せるような形容し難いメイクのせいで台無しだ。


「久しぶりじゃないし、呼んでないし、その、なんでいるの……?」

 若干顔を引きつらせながら言う聖に、無表情のまま珈琲をすすってから奏芽が説明する。


「オマエが話をしたいっていう、選手外労働サイド・ジョブの一環」

 聖が選手外労働サイド・ジョブに関する話の助言を奏芽に求めると、奏芽は喫茶『ジュ・ド・ポーム』で話そうと場を設けた。ATCアリテニに所属しているジュニア選手で選手外労働サイド・ジョブを行っているメンバーがどんなことをしているのかということについては、一通り資料に記載がある。だが誰が何をしている、という程度の情報だけでは、どうやってそれを見つけたとか、選手活動との折り合いをどうつけているのかなどの、細かいところが分からない。ならば直接話を聞いた方が早いだろうということになった。


「アンタ可愛い顔してんだから、ウチで働きなさいよ。モテるわよ」

「うるせぇブス仕事しろ。もう用はねぇ」

 話に入ろうとしてくるデカリョウを奏芽が追っ払うと、ムキーと言いながら巨漢のウェイトレスは仕事に戻った。あれは営業妨害にならないんだろうか?


「ご覧の通り、選手外労働サイド・ジョブなんてカッコつけた言い回しをしちゃあいるが、要するにバイトと変わんねーよ。そんな難しく考えなくてもよくね?」


「確かにそうなんだけど、ウチはそんな裕福な方じゃないからさ、ATCここへ通わせてもらうので割と精一杯なんだよね。せめて試合にかかる経費ぐらいはなんとかしたくて。でも、小遣いだけじゃどうにもならないし」


「確かに、育成クラスの連中は実家がそれなりに裕福か、もしくは特殊な援助受けてるかのどっちかだしな。援助についちゃ小学生時代の戦績が審査対象だから、最近復帰したオマエにゃ難しいか。学校いきつつ練習しつつ試合に出ながら金稼ぎか。そうなぁ……」


 う〜ん、と頭を悩ませる奏芽。さきほど珈琲を一口すすっただけで、頼んだ料理に手も付けず考え込み始めた。奏芽はあまり人付き合いを好む性格ではないのだが、相談を持ち掛けるとなんだかんだで相手以上に真剣に考えて知恵を絞ってくれる。賢いし、色んな事を知っていて頼りになる友人だが、これでは聖の金策について奏芽に考えることを丸投げしているようで聖も落ち着かない。自分の事なのだから自分で考えようと、奏芽に負けじと思考を巡らせるが、何をどう考えたらよいものかさっぱり浮かばない。するとそこへ、高校の制服姿のミヤビがやってきた。


「なぁに~? イケメン2人が揃ってしかめ面しちゃって」

 福音という言葉に音色がつくとしたら、その声はまさにそれに相応しかった。少なくとも、慣れない事柄について必死に頭を使っていた聖の耳に、その声はそんな風に聞こえた。


「そうだよねぇ~、テニスってお金かかるよね」

 聖の隣に座ったミヤビは、事情を聞くとうんうんと頷いてみせる。紺色のブレザーにワインレッドのリボン、ブラックとグレーのチェック柄をしたミニスカートを身に付けたミヤビは、どこからどう見ても完璧な女子高生だった。薄い化粧をしているせいか普段より大人びて見えるし、普段はくくっている髪を下ろしているのでどことなく女性らしさが強調されて魅力的に見える。そういえば、聖はミヤビを見掛けるときはいつもテニスウェアかスポーツウェアだったのを思い出す。この前の試合の時の装いも随分と様になっていたが、美人は何を着ても似合うらしい。そのままテレビドラマにでも出られそうなぐらい絵になっている。


「とか言いますけど、ミヤビさんはスポンサーついてるじゃないすか」

 聖よりミヤビと付き合いの長い奏芽はミヤビの制服姿に見慣れているのか、それともあまり興味が無いのか、普段と変わらない様子で話をする。一応敬語を使ってはいるが、しれっとタメ語で話し始めてもなんら不自然さを感じないだろう。相手が誰であっても常に一定の態度を崩さない奏芽を、聖は少し羨ましく思った。


「えぇ、お陰様でぇ~、選手活動に専念させて頂けてますぅ~」

 少し作った猫撫で声でおどけてみせるミヤビ。どことなく鈴奈を彷彿とさせるが、おどけた後に少し照れ笑いを見せるあたり、まだミヤビの方が理性的かもしれない。だがそういう振る舞いはかえって男心をくすぐるもので、ミヤビほどの容姿を持つ女子ともなれば、さすがにハルナ一筋と心に決めている聖といえど何かが揺らいでしまう。気持ちを紛らわせるように、聖は浮かんだ疑問をすぐに口にした。


「あの、スポンサーって? CMとかのあれですか?」

「そ。ミヤビさんぐらい実績あるとな、色んな企業が資金提供スポンサードしてくれんだよ」


 そんなのあるのか、と感心する聖。

「ま、その辺は今度詳しく教えてやる。今は期待すんな」

 実績ゼロの聖がいきなりスポンサーをつけられるとは到底思えない。それになんだか色々と複雑そうな気がしたので、聖としてもまだその辺りは後回しにしておきたい。いっそ、今いるこの喫茶店で空き時間に働かせてもらおうか、などと考えていると、ミヤビが伺うように口を開いた。


「あのさ、聖くんがイヤじゃなければ、ちょっと、試して欲しいことがあるんだよね」

 そういうと、2人にちょいちょいと顔を近づけるように手招きし、ナイショ話でもするように自分のアイデアを口にした。



「これで登録……と」

 携帯端末を使い、必要事項を入力し終えてIDとパスワードを設定し、ログインした。


「あとは、自分の都合の付く時間を設定して募集かけたらそれでOKだよ。できれば写真とプロフィールも載せておくと応募がきやすいから、良い感じのやつを撮ろう。さぁ、笑って~?」


 そういって流れるような動作でカメラを聖に向けるミヤビ。わたわたとしながらも、どうにか笑顔を作るとカシャっとシャッター音が鳴った。


「はい、じゃあ次は奏芽ね~。笑って~?」

「そーゆーいじりは蓮司だけにしてくださいよ。つか、いつリリースしたんすかこれ」

「正式リリースは先週かな? 試験運用は半年ぐらい前からやってたけど」


 ミヤビが提案した聖の選手外労働サイド・ジョブは『TennisテニスDareデヤ』と呼ばれる選手派遣型のヒッティング・パートナーだ。大元である『テニスベア』という名前のテニス総合アプリの機能の1つで、練習相手を見つけることができる。素人同士がお互いに都合を合わせて練習相手を探すものは『テニスオフ』という形で既にある。それと違うのは、あらかじめ登録された選手クラスの超上級者を直接指名できる点だ。『テニスオフ』がお互い知らない者同士で和気あいあいとテニスを楽しむものであるとするなら『TennisテニスDareデヤ』は競技志向者向けのサービスということになる。


「コートの予約と、サークルの主催、それから個人開催の大会なんかは前から出来てたけど、選手向けの機能ねぇ。色々突っ込みてぇけど、まぁ正式リリースしたんなら細かいとこは大丈夫ってことでいいんかな。しっかし『テニスベア』の『テニスデヤ』って、相変わらずネーミングセンスを疑うんだよなココ。機能は良いけどよ」


 携帯端末でアプリ概要や規約をしげしげと読んでいた奏芽は、ちょっと偉そうな態度でそうつぶやく。


「そういや、一部の市営コートが選手の為に少額の営利活動を解禁したっつーのは聞いてましたけど、なるほど、上手くかみ合ってんだなぁ。最初聞いた時は利権がらみのうさんくせー話かと思ったが、ちゃんと民間の企業に入り込む余地あるなら、テニスだけじゃなくて他の……」


 奏芽の声は徐々に小声になってぶつぶつと聞き取りづらくなる。どうやら自分がやっているデリバティブと関連させてどう上手く立ち回るかを頭の中でシミュレーションしているようだ。こういう時の奏芽は集中し過ぎて話を聞かなくなるので、聖は隣のミヤビと話を続けた。


 ミヤビが聖にこのアイデアを話した理由を尋ねると、最初はなんとなく、と答えた。単純に、他のメンバーは既にそれぞれの選手外労働サイド・ジョブを持っていて実行するヒマのある者がいなかったというのが一番大きな理由らしい。しかしミヤビとしてはそれだけでなく、先日の団体戦での聖の試合ぶりを見て「聖くんて優しいし、対戦相手をその気にさせるのが上手いように見えたんだよね。蓮司のときとかさ。うまく言えないけど、君は色んな人とテニスする機会があったら良いんじゃないかなって、そう思ったの」とも言った。


 それからしばらくの間とりとめない話をして、話題が尽きた頃、ミヤビがそろそろシフトに入る頃合いだと席を立つ。奏芽はまだ自分の世界にこもってブツブツ言っていたので、聖は慌てて居住まいを正し、ミヤビに礼を言った。


「すいませんなんか、教えてもらっちゃって」

「いーのーいーの、知り合いに頼まれてさ、ATCアリテニのジュニア選手が登録してくれた方が箔がつくからって。ただ、さっきも言ったけど皆忙しいから、登録したは良いけど空き枠が少なくてね。1人でも多くいてくれた方が助かるの。むしろ、正直言うとそんな儲からないよこれ。往復の交通費が浮くぐらいかな。人によっては色付けてくれるけど、額は期待しないで」


「いえそんな、助かります。午前中に試合出て、午後にこれで募集があれば交通費浮きますし、今の僕にはそれでも充分なので」

「本当にだいじょぶ~? 試合の後に最低2時間ぐらいテニスするんだよ? それなりに腕に覚えのある人も来るみたいだけど」

「それも含めて練習になりますから。ありがとうございます」

 聖は心からそう言うと、ほっとしつつ笑顔になる。するとミヤビがすかさず携帯端末を取り出してパシャっと写真を撮った。


「今の顔、プロフにしたら絶対募集くるよ」

 ミヤビはそう言って、満足そうに白い歯をのぞかせる。

「じゃ、またね」


 店の奥に姿を消したミヤビを見送りながら、聖は自分の顔が大分熱くなっていることに気付く。褒められたやら写真を撮られたやらで気恥ずかしさを感じて顔が赤くなっていたらしいが、なによりも一番効いてしまったのは、屈託ない先輩の笑顔だった。


続く

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