田中家ぬこ様無双記録
弍射 都
Day1
田中家は日本の都会とも田舎とも言えない中途半端な場に暮らしています。
今日は雲ひとつない快晴。桜も徐々に咲き始めています。7時になりました。家中の目覚まし時計が鳴り響いています。
「ミ゛ャー」
猫用布団に入った田中家の癒しもあまりのうるささに目覚めたようです。可愛らしく伸びをしています。
「茶々丸、おはよー。すぐご飯の準備するからねー」
「ミャ」
布団からのそのそと抜け出した猫は、田中家に飼われている茶々丸というオス猫です。スコティッシュ・フォールドという猫種です。年齢は乙女じゃないけど内緒にしておきましょう。
ガリッガリッ
「ミャーー」
寝起きの日課、爪研ぎです。賢いので爪研ぎ用ダンボールにやってます。
「ほい、お食べー」
田中家女房の
「ミャミャー」
完食したようです。食後のその足で美里さんが換気のために開けた網戸を器用に開け、今日も可愛い勇者は短い冒険の旅に出ます。
「ミャッミャッ」
何か楽しげに、塀の上を弾むような足どりで進みます。
「眠い〜」
「朝練だからしょうがないっしょ〜」
どこにでも居そうな少年とちょっとチャラい少年が眠たげに目を擦りながら歩いています。
「ミャ」
茶々丸は何を思ったのかその二人組の横で立ち止まりました。
「お? ねこちゃんだぞ」
「ホントだ、かわいいでちゅね〜」
「絵面が酷い」
無反応な茶々丸をつついていると、二人組の足下に光り輝く魔法陣があらわれました。
そのまま光に飲み込まれて――――
「おぉ、遂に勇者召喚に成功しました!」
金髪の長い髪をウェーブにしたお姫様風の少女が突然目の前に現れました。いえ、現れたのは2人と1匹の方でしょう。豪華な部屋にいるからです。
「勇者はどちらですか? 右手の甲に勇者の紋章が現れていると思いますが……」
2人が自分の右手の甲を見ます。
「俺には無いな」
「オレっちも〜」
「え? しかし勇者召喚には成功したはず……」
「ミャッ!」
推定お姫様が考え始めると茶々丸が自分の右手の甲を見せます。そこには、
「「「え〜〜〜〜!」」」
勇者の紋章と思しきかっこいい模様が青く光っています。
「この場合はどうすればいいんでしょうか、お父様に相談しなければ……」
「俺が主人公になれると思ったのに……」
「すげ〜、猫の勇者とか超イカしてんじゃん」
当の本猫は落胆する2人を無視し、1人分の尊敬の眼差しを浴びながら、颯爽と豪華な部屋から出ていきます。
複雑な廊下を迷い無くスイスイ。一体どこに向かっているのでしょうか。
ガチャッ
ジャンプでドアノブに掴まって扉を開けます。
「ミャッ!!」
中に居た人に飛びかかり、勇者の力か青く伸びた爪で攻撃をします。
「ぐあ゛」
「ミャ」
まるで脅すように青く伸びた爪を首筋に当てています。
「く、こんな時に動物の言葉が分かるスキルが裏目に出るとは……聞こえてしまったからには応じなければいけないか……」
なにそれ私も欲しい……ゴホンッ! 脅された男はなにかブツブツと呪文のような言葉を発し始めます。
「ミ゛ャ〜ァ゛〜」
待っていて間退屈なのか欠伸をして毛づくろいを始めます。大変マイペースです。
「……………『テレポート』!」
男がそう言うと、茶々丸を光が覆いました。
「ミャオーン」
禍々しいお城の前が眼前にそびえ立っていました。何の前フリも聞いていないので予想になるのですが、おそらく魔王城でしょう。最初からクライマックスとはよく言ったものです。
「ミャ〜〜〜〜」
勇者の紋章が光り、青いオーラが全身を包みます。
「ミャッ!」
大ジャンプです。猫という体重が軽い種族特性も相まって、凄まじい勢いでとんでいきます。
「ミャ〜〜〜〜ミャッ!」
ドッガーン!!!!
空中で溜め技のように爪を振るい、お城の上の方の壁をぶち抜いて侵入します。入った先はさっきの召喚された部屋のごとく豪華で広い部屋。
「我が魔王城をこのように攻略するとはな。そして報告より随分と早かったではないか、勇者……よ?」
「ミャ?」
猫と角の生えた男、お互い首を傾げています。
「ま、まぁよい。どんな種族であろうと勇者には変わりないのd」
「ミャッ!!!!」
名乗ってないので分かりませんので、推定魔王としますが、茶々丸は推定魔王のお話中に今までで1番大きく伸ばした爪で攻撃しました。
「な、グハッ……ばかな……」
「ニャーー」
クリティカルヒットしたようです。目の前に猫の勇者が突然ボス戦に入って動揺している中の不意打ちですから、どうしようもありません。
ドヤ顔で勝ち誇っているようです。カワイイ。
少しすると茶々丸の下に魔法陣が現れ、光に飲み込まれて――――
元の街中です。きっと異世界攻略RTAは茶々丸が更新したでしょう。まだ1時間も経っていません。
「ミャー」
スッキリしたような軽快な足どりで家の方に歩き始めます。今日のちょっとした冒険はここまでのようです。明日はどんな冒険が待ち受けているのでしょうか…………
何か忘れている? そうですね、あの残された二人の冒険譚はまた別の機会に……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます