第27話 二回目のダンジョン

今回の坑道はこの前と違って、ところどころに明かり、ランプ灯というのだそうだが、が設置されている。なので、松明や魔法使いの明かりは必要ないようだ。


「この前とは大違いだろ?」

ギースが私に話しかける。

「そうだな。明かりがあるので横穴から大ムカデや闇ネズミも出てこないようだ」

「本来、3層まではこんなもんなんだよ」

ギースがランプ灯を指さす。

「ギースらはこの前の2層に行くわけだから、また大ムカデの相手をすることになるが、剣士1人で大丈夫か?」

2層組は剣士のギース、測量士の助手、魔法使いの3人だ。


「そうだな。まあ、この魔法使いはダンジョンは5回目だっけ? で、大ムカデとかいろいろ相手にしたことあるってことだから大丈夫だろ」

「はい、5回目です。ただ大群の相手はしたことがないのですが」

若い男の魔法使いがこたえる。

「戦えるなら問題ない。この前は魔法使いが明かりを灯すことしかできなくてな」



途中、急な斜面や梯子を使って降りるところもあったが、何事もなく3層のキャンプに到着。

昼前には到着したが、前回と同じくここで昼食をとる。昼食の後、測量士と助手が3層の宿の人間に10層の横穴から煙を焚くことを説明している。用意した張り紙には、煙を見かけた場合の連絡先が書いてある。少しだが報酬も出るようだ。


ギースが運んでいた時計をカイが引き継ぎ5層に向かう。もう一つの方は若い男の魔法使いが交代して運ぶようだ。

3層のキャンプから5層に向かう坑道やら洞窟は2つあるそうだが人通りの多いほうを使うとのことなので、5層までも特に問題なく行けそうだな。


3層から5層に向かう坑道にもランプ灯はあるが数が減って薄暗いので、魔法使いのコルレアが杖の先端に明かりを灯す。もう一人の魔法使いは時計を運んでいるが、背中に背負っている杖に明かり灯す。


「ここから5層までのランプ灯は、明るくするというよりは道しるべ的な役割になる。3層のキャンプから5層のキャンプまではいくつか分かれ道があるから、キャンプにつながる坑道にのみ明かりがあるんだ」

測量士が説明する。

「私が先頭を進みますね」

コルレアがそういうと、明かりを灯した杖を掲げて先頭に進み出る。

「念のため松明を持ってきたが、必要なさそうだ」

ギースがいう。この前は持ってきていなかったからな。


「4層に入って少し進むと分かれ道がある。一方は袋小路、つまり行き止まりなんだが闇ネズミの住処になっている。小さいのはそこから横穴を使って移動している」

この前相手にした闇ネズミは小さかったということか。街にいるネズミに比べると数倍大きかったが。

「小さいのということは、大きなのもいるということか?」

測量士に聞いてみる。


「ああ。大きいのは犬くらいの大きさで、牙と爪が危険だ」

「そんなに大きなネズミはいったい何を食べているのだ?」

カイも質問する。

「ダンジョンにいるトカゲ、ワーム、ムカデ、それにクモや甲虫が主だが、時々人間も襲ってくる」

「人間を襲うのは、人間が持っている干し肉とかチーズが目当てだといわれてますね」

これは助手。彼も何度もここには来ているのだろう。


「噂をすれば何とやら。闇ネズミの群れが前方にいるようです」

先頭を歩く魔法使いコルレアが前を指さす。見ると、いくつもの目に明かりが反射しているのが見える。10匹以上はいそうだ。


「襲ってきたら私が対処しましょう」

カイはそういうと剣を抜き先頭に出る。それに合わせるように闇ネズミが近づいてくる。中に数匹大きなのがいる。


「カイくん、干し肉かチーズを持っているかな?」

測量士がたずねる。

「ああ。非常食として干し肉を持っている」

「梱包をしっかりとしておくべきだったかもしれんな」

つまり匂いを嗅ぎつけたということか。


「5層に到着したら匂いが漏れないようしっかり包みましょう。食品用の油紙がありますから使ってください」

助手がいう。ダンジョンに行く際の準備として必要なものがあるのだな。


「かたじけない。その油紙代は報酬から引いておいてくれ。5層までは私の責任として襲ってくる魔物は対処する」

「私も習った剣術を試したい」

剣を抜いてカイの横まで移動する。

「俺はお前らを突破したやつらを相手にするとしよう」

ギースはそういうと剣を抜く。


数が多いとはいえ、この前の大ムカデの大群に比べると大したことはないし、闇ネズミも相手にしたことがある。だが、人間の姿で剣で戦うのはこれが初めてなので油断は禁物だな。


「シイラくんは下がっていなさい」

そういうとカイは剣を構え数歩踏み出す。魔法使いが明かりを強くし、より奥までを照らす。

2匹大きなやつがいる。確かに大きい。しかもこいつらは明かりを恐れないようだ。


正面にいたでかいのが1匹カイに向かって突進してくる。

カイは素早く一歩踏み出し構えた剣を振り下ろす。一撃で真っ二つ。やるな。

続けて飛びかかってくる小さいほうのやつらに対し、今度は剣を振り上げ切りつける。2匹倒したようだ。

カイはさらに前進し、あたりの小さいやつらをなぎ倒していく。小さいのが1匹カイの足元をすり抜け私の方に向かってきた。正面に向かってきたので、カイをまねて一歩踏み出しながら剣を振り下ろす。やった。サイズは小さいが一撃で倒せた。


「お、カイ、やるじゃねえか。猫、お前もだ」

ギースが感心している。


もう1匹の大きな奴が坑道の側面を駆け上がる。カイを上から攻撃しようとしているのか。カイはすぐさま反応し上を向いて構えるが、他のネズミがカイの足元を狙って向かってくる。そっちは私が対応しよう。素早く前に跳躍、複数いるので剣を横に振る。2匹倒す。カイも上から飛びかかってくる大きいほうを倒したようだ。

続けて私にとびかかってくるやつがいたので、剣を正面に構える。1匹か。なら。突きの構えをとり一歩踏み出しながら、剣を突き出す。剣は、闇ネズミの正面、首の下あたりから胴体に一直線に突き刺さる。

よし、と思った次の瞬間、上からとびかかってくるネズミが見えた。すぐ剣を向けようとしたが、突き刺した闇ネズミの分解が完了しておらず、剣を動かすのが遅れた。間に合わない、と思った次の瞬間。そのネズミが分解する。

見ると、カイが仕留めたようだ。


「突きは次の動きが遅くなるから、敵が多い時には気を付けることだ」

なるほど。ちょっと習った技をいろいろと使ってみたかったのだが、考えが足りなかった。

「そうだな」

「足元の方を対処してもらって助かった。礼をいおう」


「おいおい、初心者二人で全部倒したのかよ。思ったよりやるじゃねえかよ」

これはギース。

「初心者ということで内心ちょっと心配していたところもあったのだが、問題なさそうだな」

測量士も感心しているようだ。

「そうですね。私たち魔法使いの出番もありませんでした」

これは魔法使いの若い男、エドガル。


その後、大ムカデやサソリとかいう毒をもつやつらが何匹が出てきたが問題なく対処でき、5層のキャンプにたどり着いた。

3層のキャンプに比べると5層のキャンプは坑道が狭く天井が低いので狭く感じるが、まっすぐ続く坑道が長いので建物の数は同じくらいあるように見える。


「みんなご苦労。疲れているだろうから、まずはちょっと休憩だ」

荷物を預け食堂に集まる。宿泊するところは男女別で、私は魔法使いのコルレアと一緒だ。

お茶を飲みながら明日の行動について簡単な打ち合わせの後、解散となったが、私は測量士に呼ばれた。


「シイラくん、ちょっといいかな」

測量士のセブノワに呼びかけられる。

「横穴の測量について何ができるかちょっと確認したいので、協力してもらえるかな」

測量というのは地図を作るために行うものだったな。

「ああ、別に構わない」

「それはよかった。この5層に横穴は少ないのだが、その建物の裏あたりにいくつかあるからちょっと行ってみようか。フラキノくんもいいかな」

「はい」

測量士の助手も来るようだ。


建物の裏の坑道側面。確かに横穴が二つほどある。

「坑道というのは知っての通り上下左右に曲がりくねっているんだが、その曲がる方向と距離を測って地図を作っているんだよ」

測量士が手をくねくねと動かしながら説明する。

「ここまで通ってきた坑道は人間が歩けるから、測量用の棒を使って角度と距離を測っている」

「今回は測量が目的ではありませんからもっていませんけどね」

助手のフラキノがいう。


「その棒に錘をぶら下げて棒が垂直か確認するんだ。そして棒には水平器もついているから水平にしてのぞき込んで角度を見るんだ」

フラキノがそういいながら、手の人差し指と親指で輪をつくり覗くようなしぐさをする。

「地下は地上と違って磁石が正しく方位を示さないから、坑道入口の基準点を元に上下左右の角度を測ってきているんだ」

測量士が続けて説明する。

「よくわからないが」

正直な感想をいってみる。

「まあ、詳しいことはさて置き、人間が通れる坑道では人間二人が離れて立って、の間の距離と角度を測っているんだよ」

これは測量士。


「横穴は私一人しか入れないな」

横穴を見上げる。

「それはそうなんだが、ちょっと考えたことがあって、その方法で測量ができるのかどうかを試してもらいたいのだ」

そういうと測量士は短い二本の棒を袋から取り出す。一本は棒が複数束ねられているように見える。


「どうするかというと、こっちは三脚といってこの足が広がって地面に立てることができるのだ。足はそれぞれ長さを調整できるから、斜面でも立てることができる」

測量士は助手から三脚とやらを受け取ると、束ねられていた足を広げ地面に置く。


「こっちはさっき説明した棒を短くしたものだ」

もう一方の棒も受け取る。

「この三脚を奥の方に立てて、この棒から三脚までの距離と角度を測るんだ」

そういうと、さっきフラキノが短い棒についた小さな台からのぞき込む。


「距離はこの巻き尺で測ります」

フラキノが手に巻き尺を手に持ち、紐のようなものを引っ張り出す。


「角度は、この水平器で水平を確認し、ここから三脚の方を覗いて、角度を記した分度器のどこを通るかを確認するんだ。これを使えば一人でも測量ができる。ああ、その前に、基準値を元に方角の確認もしておく必要はあるのだが」

複雑で何をいっているのかよくわからない。

「横穴の最初の測量は私たちで確認ができますから、基準点についてはこっちで確認できますね」

フラキノが付け加える。

「確かにそうだな」

測量士は納得したようだが、何を納得したのかはわからない。


「私には無理ではないだろうか」

何をしてもらいたがっているのか、正直なところよくわからない。


「やっていることは単純なんだよ。シイラくんも慣れればできるはずだ」

測量士がいう。そういうものなのか。

「今回は、いくつかの横穴で入口から最初の曲がり角までの距離と方向を測れればと考えている」


「この三脚を持って横穴に入ってもらって、入口から見える一番奥に立ててくれればいい」

測量士が私の方を見る。

「後、巻き尺の端を掴んで引っ張ってもらう必要もありますね」

フラキノが手に持った巻き尺を持ち上げる。

「おお、そうだったな」

「そして、私が横穴の入口から三脚までの角度を測るんです」

これはフラキノ。

「もちろんその分の報酬はしはらう」

報酬のことは別に気にしてはいなかったが、もらえるものはもらっておこう。


二人が説明してくれたことはよくわからなかったが、三脚を持って横穴に入るというのを、ここ5層にある二つの横穴で実際に試してみた。横穴の奥に、入口から見えない縦の坑道があるといけないからと、腰に紐を巻き付けられた。三脚の足の長さの調整はちょっとやっかいだったが、何とか横穴の奥まで入って立てることができ測量はできたようだ。二人が喜んでいたところからもそれは確かだろう。この測量した内容は公式のダンジョン地図にも反映させるそうだ。


セブノワがいうには、三脚を使えば一人で測量ができるので、私に横穴を測量してほしいのだそうだ。もちろん、横穴は多いし人間が入れるわけではないから、横穴の地図自体は人間にとってはそれほど必要はないのだそうだ。ではなぜ測量したいのかというと、いつか例のゴブリンを見たという13層の横穴を調べたいのだという。


今回の調査が終わったら次は15層までの測量があり忙しいそうでだが、それが完了したら手伝ってほしいということだ。まあ、狭いところに入るのは好きなので、そのうち手伝ってやってもいいと思っている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る