第6話 マジかよ!
翌朝違和感で目が覚めた。なんか息苦しい。
「うわっ!」Hカップがオレの顔を塞いでる。
横を向こうとしたが、顔を抱き締められているようで動かない。
「うっぷ」フワッと甘い香りがした。思わず下半身に力が入ってしまう。
「プハー」やっとHカップの束縛からのがれた。
「おい!こら!起きろ!何やってんだ!」一体何が起こった?
「うう〜ん…………」
気怠い声なんか出しやがって、朝からイライラするなあ…………。
「くそ、起きないのかよ?」仕方なく耳元にフーと息を吹きかけてみる。
「ハウっ」
慌てて起きやがった。
「まったく、何だよ、後ろで寝たんじゃなかったのかよ」
「だって、夜中に寂しくなってここにきたら、私が寝れるように奥に行ってくれたよ」
「それはただ寝返りしただけなんじゃないのか」
「そうなの?……だから一緒に寝てあげようと思って」
「何で上から目線なんだよ、しかも頼んでないし」コイツの神経はどうなってんだ。
「でも横に行ったら抱きしめてくれたもん」
頬を膨らませた。
「俺は覚えてない!」
「もっと素直になっていいのに」
「…………」絶句するしかなかった。
「素直でいいのよ」
なんだその上目使いは?
「じゃあ素直に言わせてもらうぞ、俺は、巨乳は、興味が、無い!分かったか!」巨乳だったら全ての男がひざまずくとでも思ったか?ど阿呆!
「ええっ、男の人は好きなんじゃないの?」
全身から力が抜けたようになっている。
「そんなもん、人によって好みがあるだろうに」かゆくもないあごをポリポリとかいてしまった。
「フェーン……フェーン……」
涙をいっぱいためて子供のように泣き出した。
「マジかよ、最悪だな…………」やっぱ出直せばよかった。
5分……10分……30分、全く泣き止む様子がない。
ウソだろう、俺がなんか悪いことでもしたような感じになってるじゃん。
「…………………ふ〜…………」
ため息まじりに車内を見渡すと、カーテンの隙間から朝の光が差し込み、プリンになっている金髪を照らしている。哀愁と可愛さが入り混じって何故か俺は切なくなる。長いまつ毛には涙が絡み付いてるようだ。車内の湿度はグッと上昇したような気がした。
「巨乳は巨乳でいいんじゃないか、ただオレが好みじゃないってだけだから」
「フェーン……」
ダメだあ〜…また泣き出した。
「だいたい男は大きい胸が好きな人が多いかもよ」何でこんな目に遭うんだ……。
「グスン……グスン……」
「まあ個性だから良いんじゃないか」この際個性とかどうでも良いんだけど、とりあえず泣きやめ!
「私ずっと胸がコンプレックスだったの、大きいのが恥ずかしくて嫌だったの、でもユーチューバーになったら喜んでくれる人もいるから、やっとこの胸でも良いのかなって思えるようになってたのにグスン……グスン……」
「…………」
「グスン……グスン……」
「そうなんだ、悪かったよ、そんな事知らないからさ、悪かったよ、ゴメンな…」
「グスン………………ブー」
リンは思いっきりティッシュで鼻をかんだ。
「Hカップは嫌じゃ無いの?」
「嫌じゃないけど、特別好きでも無い」サイズは問題じゃ無いし……
「グスン……フェーン……」
また泣き出しやがった。
「分かった、分かった、触ったら気持ちいいだろうと・思・い・ま・す!」
リンは涙をいっぱい溜めた目で睨むと「そう、でももう触らせてあげない!」口をへのじにした。
「そうですか、それは・残・念・です!」フ〜…………。
何でオレの好みが捻じ曲げられてるんだよ、訳が分からん。
しかし、コンプレックスをやっと克服できたんなら、そっとしといてやろうかな……。
オレ自身コンプレックスを克服できないから、こんな旅に出るハメになった訳だし……そう思うと少しはリンに優しくするべきなのかと思った。
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