天野戦慄堂

ナタリー爆川244歳

牛乳が飲みたい

 マンションで一人暮らしをはじめたA子の部屋に、友人のB美が遊びにきていた。

「めっちゃいい部屋じゃん!」A子の部屋に入るなり、B美が言った。「でしょ? 家賃高いけど、頑張っちゃった」

 広いキッチン、浴室乾燥付きの風呂場、白く清潔感のある壁紙、ウォークインのクローゼット、新品のシングルベット。とても住み心地の良さそうな部屋だった。


 二人はコンビニで買ってきた酒やおつまみで、宅飲みを始めた。


 大いに盛り上がって、B美はうっかり終電を逃してしまった。

 次の日に特に予定があるわけでもなかったB美は、そのままA子の部屋に泊まることにした。部屋にはシングルのベッドが一つしかなかったので、B美は床に布団を敷いて寝ることにした。

 A子が部屋の電気を消そうとすると、B美が突然言った。


「牛乳が飲みたいっ」


「何よ、突然。今、家に牛乳ないんだけど」

「もう我慢出来ない。ね、一緒にコンビニ行かない? 夜道怖いもん」

「私、眠いからやだ」

「一生のお願い! 私、駄々っ子になるよ。夜中にも関わらず、泣きわめくよ」

「わかったよ、もう、ワガママなんだから」

 A子は根負けして、渋々B美と部屋を出てコンビニへと向かった。

 部屋を出るや、B美はA子の手をとって、走り出した。


「ちょっと、一体どうしたのよ!」

「いいから急いで!」

B美の顔は真っ青で、今にも泣き出しそうだった。


二人はそのまま走り続けて、コンビニにたどり着いた。

「ちょっと、どうしたのよ~?」

 息を切らしながらA子が問うと、B美がまくしたてるように答えた。


「あんた、気づいてなかったの? ベッドの下に刃物を持った男が潜んでたのよ! 気づかれちゃいけないと思ったから、私、牛乳が飲みたい、って!」


 B美は膝から崩れ落ち、涙を流して、ガタガタ震えていた。

 A子は突然の話に、呆然としていた。


「嘘ぴょーん」

「え?」


「いや、怖がらせてごめんね。この間、ネットで怖い話見てたときに同じような話を見つけちゃって、ついイタズラしたくなっちゃった」

「ひどいよ! いたずらにしてもやりすぎじゃん!」

 怒ったA子は、B美を置き去って、家に帰ろうとする。

「待ってよ! 反省してる!」

「ついてこないで!」

 B美の謝罪を拒否して、A子はずんずん歩いていき、曲がり角の路地に入っていった。見失わないように、B美も急いで追いかける。


 曲がり角の先で、A子が地面に倒れていた。体の下からにじみ出てきた赤黒い液体が、地面に広がっていく。


「で、牛乳、買えたのかよ?」


 血の付いた包丁を手にした男がB美に訪ねる。

 B美は思い出した。読んだ怖い話には別パターンがあったことを。

 男はベッドの下ではなく、クローゼットに潜んでいたのだ。(了)

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