第二十九話「激戦前の一時」

 Side 緋田 キンジ


 作戦内容は至ってシンプルだ。

 やられる前にやる。

 と言うのもリビルドアーミーの思考を考えた場合、核兵器でグレイヴフィールドもろとも俺達を吹っ飛ばすなんて言う選択肢も十分にありえるからだ。 


 討伐部隊は敵の空中戦艦の進路を先回りして破壊するための準備を整えると言う内容だ。

 そのために簡易型のイージス・アショアの設置が不眠不休で進められている。

 他にも大艦ミサイルやレールガンなど様々な手を準備中とのことだ。 


 第13偵察隊の任務は進路場に先回りして撃破支援の手伝いだ。


 そのためには危険地帯であるグレイヴフィールド内部で待ち構えると言う内容だったが――地下族の人達との出会いで全てが変わった。



 グレイヴフィールドの地下施設。

 いや、地下の商業施設群の成れの果てを進む。

 そこは文字通りのダンジョンと言って良い。


 パワーローダーで様々な機器を運搬しながら荒廃した地下を進む。


『グレイヴフィールド内のリビルドアーミーには破壊工作を仕掛けております』


『その全ての場所を陸将殿に順次伝えておりまする』


 それを聞いて緋田 キンジは『ありがとう』とパワーローダー越しに返しながら(その気になれば米軍ともやり合いそうだな)と恐ろしさと頼もしさを感じた。


 同時に世界各国の軍隊などがどうしてゲリラに苦戦するのかもなんとなく理解出来た。

  

☆ 


 地下族の案内は的確だった。

 どこか危険地帯でどこが道が塞がっているのかを全て把握しているのだ。


 少々危険だがと前置きしてグレイヴフィールド中央部のビル群に案内された。

 ひび割れて部分的に倒壊していたりする場所だ。

 だが遠い場所を観測するには持って来いの場所でもある。


 そこに様々な観測機を設置する。


『未来兵器が相手なんだろ? 俺達の存在なんか丸見えじゃないのか?』

 

 と、キョウスケが当然の疑問を口にするが――


『ご安心ください。このグレイヴフィールドは今尚、様々な生命体が闊歩している魔窟。ゆえにセンサーやレーダーは殆どアテになりません。念入りにデコイやジャミングを設置しておりますが』


『ああうん――キンジ、この人達頼もしすぎるんだけど』


『ああ。本当に敵に回さなくて良かったな』


 正直リビルドアーミー敵に回すより恐いんだが。

 もしも敵に回してたら本当に自衛隊は壊滅していただろう。


 大国の軍隊でもどうなるか分からない。たぶん追い詰められて地下に毒ガスとか絨毯爆撃、バンカーバスター(貫通力が高い耐要塞用兵器)かますかぐらいはするだろうが、それすらこの人達には無力な気がする。



『設置完了――パワーローダーって便利だぜ』


 コンテナの中に様々な機器を入れてこうしていたが、生身だったら重労働だったし、短時間でここまで見晴らしの良いビルの数回先の場所まで辿り着くことは出来なかっただろう。


 地下人の人達は念のための脱出手順を説明してくれていた。

 本当に用意がよくて頼りになる。


 パワーローダーから出てビルの廃墟から双眼鏡で周囲を探索する。

 

「グレイヴフィールド全体が見回せるな・・・・・・自衛隊基地はあっちで――あいつらが来たのは丁度(グレイヴフィールドの)反対側か」


 そう言って双眼鏡を向ける。

 空中戦艦だけでなく、大量の飛行機械を惜しげもなく導入してきた連中だ。

 何かしらの動きは察知できる。


「こうしてグレイヴフィールド見渡すと、まだ見たこともない化け物とか妙な機械がうろついてんな・・・・・・よく今迄おれたち生きて来れたな・・・・・・」


 などとキョウスケは顔を青くしながらグレイヴフィールド内を見渡していたので俺は「仕事、仕事」と意識を切り替えるようにいった。


「つうか、リオ。君達も来てたの?」


「うん。ダメだった?」


「――まあいいか」


 リオやパンサーが居るのはもう考えないようにした。


 日本の十代少年少女ではない。


 この世界の十代少年少女の精神構造はヘタな大人よりしっかりしている。

 子供扱いするのは逆に失礼なように思えた。

 

 とりあえず準備その物は完了している。


 交代制で見張りを続ける。


 通信は念のため、控えるが。


「リオ、その――なんだ? どうしてここまで付き合ってくれるんだ?」


「一緒にいたいからじゃダメ?」


「一緒にね・・・・・・」


「それにこの世界の命は軽いから。離ればなれになるのが恐いの」


「ああ・・・・・・」


 自衛隊基地周辺でも修羅な状況だもんな。

 俺も最初の偵察任務の時は死にかけたし。

 

「ずっと、ずっと生きていくのに必死だった。生活が安定して来たのもキンジ達と出会う前ぐらいだった」


(どう言ったもんか・・・・・・)


 安易な同情は傷つけることになる。

 だけど、どう言えばいいのか分からず無言になる。 


「だけどキンジ達と出会って変わった。生活もそうだけど、パメラもパンサーも――短くて大変な日々だけど、未来に希望がもてるようになった」


「未来に――希望?」


「みんな明るく振る舞ってるけど、本当はそれを上手く誤魔化して生きているの。私だってそうだったから」


 そんな話を聞いたせいか。

 俺も過去を語り始めた。


「・・・・・・俺がリオぐらいの年齢の時は――そうだな、親と上手く行かなくて、荒れてたと思う」


「――親と上手く行かなかったの?」


「正直言うと、この世界のことはまだ知らないことが沢山だ。でも、自分の過去を話すのはなんだかリオ達に話すのは失礼に当たるかなって思うとやめておいたんだが」


「ううん。聞かせて」


 俺は「そうか」と返して話し始める。


「俺の家族は控えめに見てもおかしな連中でな。いわゆる自衛隊は解散しましょう、平和の敵だとか平然いっちゃうような連中だったんだ」


「ジエイタイが平和の敵?」


「軍隊があると戦争になるから解散しましょうって言う、そう言う考え方だったんだよ。ウチの親」


「えーとそれだけ平和なの?」


 まあそう反応するのも無理もないよな。


「あまり自衛隊がこんなこといっちゃいけないんだが、リビルドアーミーと五十歩百歩ぐらいの事を平然とやらかす国が隣にいる状況を平和って言うんなら平和なんだろうな」


「・・・・・・ちょっと理解できない」


「リオの反応が普通なんだろうな――周りもそんな反応だった。だから俺は親から逃げるようにして自衛隊に入った。国を守りたいとかどうとかじゃなくて、ぶっちゃけ親への反抗が理由だ」


「そうなんだ・・・・・・」


「ああ、だけど色んな人と接していくウチに俺はなにをやってんだろと思いもしたよ。正直自衛隊を辞めて自分の人生を見つけようかなって考えたりもしたけど――この世界に関わって、もう少し続けてみようかなって思った」


「どうして?」


「まあ色々だ。それに日本でのんびり暮らすには・・・・・・ちょいと暴れすぎたかな?」


「え?」


「日本で人を殺すのは、例え相手が悪人であっても犯罪なんだ。理由があって無罪放免される事があるけど、どんな理由があっても人殺しは周りから迫害されてしまうんだ」


「そう――なんだ」


「だから日本で元の生活に戻って暮らせるかどうかも怪しいのさ」


「複雑なんだね、キンジの世界って」


「そうだな――」


 本当に複雑だな、俺達がいる世界は。



 Side 宗像 キョウスケ


 ふと俺は思う。

 

 もうそろそろ止めた方がいいんじゃないかと。


 あの二人の会話、通信機越しとかで筒抜けなんだけど。


 いい会話だけど完全に恋人同士の会話だぞ。


 誰が止める?


 ルーキー辺りに止めに行かせるか?


 メチャクチャ良いムードでヘタに止めに入ったら殺されそうなんだけど。


 他の隊員も、パメラもパンサーも、地下人の皆さんも様子がおかしい。


 本当、どうしましょう・・・・・・

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