第6話 6、たこ焼きパーティー
「ただいまー」
夕方、絢梨は『福幸堂』に帰ってきた。その手にはスーパーの買い物袋が下げられている。玄関の奥のダイニングでは奈子と光がニヤニヤしながら座っていた。
「あ、お帰りなさーい」
「え・・・何。二人してニヤニヤして・・・気持ち悪いよ」
絢梨がキッチンに入り冷蔵庫に食材を入れていると、後ろから奈子がもったいぶるように話し出す。
「絢梨さん。隣に出来てる建物、何になるか知ってます?」
「うん。知ってるよ。陶芸教室でしょ?」
絢梨は振り返りもせずそう答えると、奈子は心底ガッカリする。
「なーんだ。知ってるのか。今日、挨拶に来られましたよ、そこの人」
絢梨は驚いて流石に振り向く。
「え?どういうこと?まだ出来上がってないのに?」
説明不足の奈子に代わって今度は光が出てくる。
「正式なあいさつでは全然ないよ。ほぼ完成したから下見に来たらあまりにも周りに何もなくて、ここをお店と勘違いしたみたい」
「え。何それ。ここがどんなところかも知らずに陶芸教室始めるつもりなの?ちょっと…変わった人ですね・・・」
絢梨は昨夜の『夕』でのことを思い出す。芸術家には変人が多い・・・。
「あ、ちゃんと水曜日以外はお弁当売ってるって宣伝しときましたよ。あと、オープンする際には絢梨さんにも挨拶してくださいって言っときました」
「あ・・・そう。で、いつからオープンするって?」
「来週の月曜日とか言ってましたよ。思ってたよりもすぐですね」
「ふーん。分かった。さ。ご飯にしよ。」
絢梨はそう言って奈子にホットプレートを出すように頼んだ。毎週水曜日は一応絢梨の休日のため、みんなで楽しめる料理をみんなで作ってみんなで片付ける、という日にしている。
「今日はたこ焼きパーティーね!奈子ちゃん光さん、具材切ってください。特に奈子ちゃん手を切らないようにね!」
「やった!!・・・包丁くらい使えますよ!」
そう言って、奈子はタコを切り始めるがどう見ても危なっかしい。結局、近くで見ていた光さんが耐え切れず、タコは光さん担当、奈子は比較的簡単なチーズやソーセージ担当になっていた。
「ただいまー!」
そうこうしていると志希が帰ってきた。その頃には生地も具材も出来上がっていたので、4人で焼き始めた。
「え。絢梨さん、全然ひっくり返らへーん!」
「ちょっと志希くん、そこ、まだ全然焼けてないよ。もうちょっと待ってからだよ」
「あ!タコが飛んで行っちゃった!!」
「ちょっと!奈子ちゃんも!落ち着いて!」
下手くそな2人はてんやわんや、一方で光は流石というべきか完璧なたこ焼きを作っていた。
「光さんめちゃくちゃ上手ですね」
「ああ・・・・まあね。実家にいる時、タコ焼きはよくやってて、母に鍛えられたのよ」
「へえー。たこ焼き鍛えてくれるなんていいお母さんですねー。」
4人で焼いて食べまくって、1時間半もすればみんなお腹一杯だった。最後は絢梨が郁香のために一回分焼いて終了となった。志希が中心となって片付けをしてくれている間、絢梨は郁香の部屋へ向かった。ドアをノックして声をかける。
「郁香ちゃん。今日、タコ焼き作ったから、ここに置いておくね。しばらくしたらまた回収に来るからね」
絢梨がそう言って立ち去ろうとすると、逆に部屋の中からドアをノックされた。引きこもってから直接反応があったのは初めてだったので驚いた。絢梨がもう一度ドアをノックしても反応は無い。しかし、ちょっとは進展したかな?と絢梨は少し胸を撫でおろしていた。
片付けも終わって解散となり、それぞれが自分の時間を過ごす中、志希が絢梨に近づいてくる。
「絢梨さん。ちょっといい?」
「うん。そんな急にどうしたの?」
「実はさ・・・俺、とあるダンスグループのオーディションで2次選考に通って、次はもう最終選考やねん」
「え!凄いね!」
「ダンスグループっていうか今流行りのちょっとアイドルみたいな感じやねんけど、ダンスは本気やし海外での活動も視野に入ってるから、受かったらそのグループでデビューを目指そうと思ってて・・・」
「海外かー。志希くん、前から言ってたもんね。世界中で通用するダンサーになりたいって。」
「ははは。絢梨さんそんなん覚えてたん?・・・俺、頑張るから。有言実行ってことで絢梨さんにだけは先に言っとこうと思って。これから帰りが遅くなる日も増えるかもしれないし。話はそれだけ!聞いてくれてありがと!」
志希は言い切ると足早に自室に戻っていった。絢梨は、ほんとに志希くんは純粋でかわいいな、と思いながら、明日の朝食とお弁当の仕込みを始めた。
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