4.広報部隊はサンタ服

「お前らの希望を聞いていると埒が明かない」

「お前がオレたちに代打やらせようとすること自体無理があるんだよ。この埒の開かなさの元凶は、お前だ」

「今日の秋葉は冴えている」

「そうだな。公爵、在日神魔のヒトたちに協力を仰いでは?」

「人間の創り出した夢なんだから、人間がサンタの手伝いをすることにドラマが生じるんだろう」


 それっぽいこと言ってるがこの楽しそうな顔。ただ面白がっていることは把握した。

 これは何を言っても無駄なフラグだ。


「わかった。お前たち以外の人員や方策はオレが手配する。お前たちは自分のミッションを完遂することだけを考えろ」

「どうしよう、司くん。公爵は完全に私たちをターゲッティングしている」

「出来る限り手伝うから。どうせ姿を見られないことが前提なら、たまには夜勤してみるのもいいんじゃないのか」


 司さんは自分がサンタ服でないためか、通常勤務と割り切って諦めたらしい。じゃあオレも諦めるか。司さんのいうことには一理どころか十分の十理ある。


「……」


 忍はどうにも乗り気でないようだが……そして、当日が来てしまった。




 当日が来るとげんなりしていたのは忍ではなくなぜか司さんだった。


「司さん、どうしたんですか」

「公爵が俺たち以外の動員をかけると言っていただろう?」

「神魔のヒトたちのことじゃなくて?」

「それもあった。でもそれだけじゃなく……」


 やるせないため息。


「特殊部隊全隊に出動要請が下ってしまった」


 あいつ……何やってんの?


「司くん、出来る限り手伝ってくれるんだったよね?」

「……忍、お前は絡んでないよな?」

「絡んでないよ。でも結局、人間のルールが完ぺきではない神魔のヒトたちより、半空中戦が十八番(おはこ)な特殊部隊の人たちの方が、より迅速かつ確実にプレゼントは置き配できるよね、とは思ってた」


 そう言われればその通りだ。司さんたちは身体強化も受けているから、住宅地の壁だの屋根だのは余裕で移動手段に出来る。街中では緊急事態が起こるとよくビルや街頭を足場にして移動している姿をみかける。この時代の日常風景だ。

 というか、プレゼントを置き配とか、途端にイベント性が薄れる感じがするが……受け取る側はサンタからだと思っているから問題ないか。


 それ、親からプレゼント貰ってサンタだと思ってる子供と同じ現象だけどな。


 今年のクリスマスは、大人も子供もいい夢を見る予感しかしない。


「全員駆り出されたなら余裕でノルマ達成できるんじゃない? 秋葉、良かったね」

「良かったー……って言っていいですか、司さん」

「まぁ……そうだな。三人でやれと言われるよりはましだな」


 一蓮托生の方に舵を切った模様。


「お前たちは広報部隊だ。サンタ服は必須だぞ」

「広報部隊ってなんだよ。顔出しとかNGだからな」


 本当に勘弁してほしいと思いつつ。


「俺は総監督だからここで本部を受け持つ」

「お前がサンタ服を着ている意味は」

「ファンサービス」


 ここからライブ配信でもするつもりなのかお前は。


「ソリとトナカイは秋葉に譲る。私は司くんに抱えて移動させてもらう。小荷物運びでいいから」

「お前が小荷物でもプレゼントが大荷物だよ。結局司さんがそっちも運ぶことになるだろう!?」

「そうか。置き配だけじゃダメだったね。じゃあ公爵。中が四次元になっているポケットとかポシェットとかください」

「さすがにそれはない」


 そこまでやったらさらに未来の猫型ロボットが出てきてもおかしくない展開になるから自重しとけ?


 そりはプレゼント運搬用、と認識したのか気が進まなそうに忍は準備に取り掛かっている。


「ちょっと待ってくれる? 司さんは本当に忍と組むんですか? オレは」

「そうだな。結局公爵は総監督という名の見物人ポジションに収まった」

「ツカサ、何か棘がある感じがするぞ」

「人員不足だ。忍、一人誰か! オレと組めそうな人!」


 ダンタリオンは当てにならないと判断して忍を頼ることにする。司さんと組む方を譲ったようなものだから忍も快くもう一人誰か当たろうとしてくれるが……


「忍、あいつに連絡しろ」

「あいつ?」

「あいつだ」


 まさかのダンタリオンから指名があるらしい。なぜかその顔に悪い笑顔を浮かべている。

 あいつが誰だかわからない忍はダンタリオンの方に行って……


「!」


 何事か耳打ちを受けている。


「公爵、珍しいですね。その人に連絡とれとか」

「オレは嫌だから、お前が取ってくれ。秋葉が助けを求めていると」

「だから誰だよ。ってかオレが助けを求めるならオレが連絡とれる人じゃ?」

「いいや。ここに来させることがまずはミッションだ。忍、やれ」


 仕方ない、とばかりに忍。誰かに連絡を入れている。


「?」


 オレのためらしいので、邪魔をするのは得策ではなさそうだ。

 待っていると……


「秋葉、何か困っていることが……どうしたんだ? その服」


 召喚されたのはエシェルだった。


 召喚→呼び出すこと。この場合は召喚魔法は関係ない。

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