第14話 クラウド様と初めてのデートをします【後編】

お団子屋さんの前に着くと、既に物凄い行列が出来ていた。さすが人気店の事だけはある。


「クラウド様、あそこなのですが、物凄く並んでいますね…」


多分1時間くらいは並びそうだ。クラウド様を一緒に並ばせても大丈夫かしら?


どうしようか考えていると


「ミレニア嬢は、ここのお菓子を食べたいんだよね。だったら並ぼうよ!もしミレニア嬢が並ぶのが辛いなら、あそこのベンチで待っていてくれてもいいよ!」


そう言ってくれたクラウド様。私を休ませようとしてくれるなんて、どれだけお優しいのかしら!


「私は大丈夫ですわ!では、早速並びましょう!」


ふと周りを見渡すと、カップルが沢山いた。その時だった。


「あれ?クラウド殿下とミレニア嬢じゃないか?こんなところで何をしているんだい?」


声を掛けて来たのは、同じクラスの令嬢と令息だ。この2人、付き合っているという噂だ。


「ここのお菓子が有名だから、並んで待っているのよ」


私の言葉を聞き、不思議そうに首を傾げる令嬢と令息。


「わざわざ並ばなくても、メイドにでも買いに行かせればよろしいのに。なぜわざわざ並ぶのですか?」


は~、これだから素人は嫌なのよね。


「努力もしないで手に入れても、おいしさが半減しますわ。自分の足で並んで手に入れてこそ、本来のおいしさが味わえる物なのです!」


苦労して手に入れたお団子にこそ、価値があるのだ!


「そうかしら?メイドが買ってきても同じように美味しいと思うのですが?でも、せっかくだから私たちも並びましょう」


何を思ったのか、令嬢と令息も並び始めた。その後1時間程度待たされたが、4人で話しながら待っていたのであっという間だった。


早速手に入れたお団子を皆で食べる。


「これ、本当に美味しいですわね。中の白いものと甘みのあるタレがよく合うわ!」


「本当だ、これならいくらでも食べられそうだ!それに、自分で努力して手に入れたと思うと、尚更美味しい気がするよ」


「そうでしょう!やっぱり自分で並んで購入しないと!」


その時だった。


「ミレニア嬢、口にタレが付いているよ」


そう言うと、ハンカチで口を拭いてくれたクラウド様。口にタレが付いているだけでも恥ずかしいのに、口まで拭いてもらうなんて…


「ありがとう、クラウド様」


多分恥ずかしさで顔が真っ赤だろうが、一応お礼だけは言っておいた。そんな私たちを見て


「クラウド殿下とミレニア様は、付き合っているのよね!どうして婚約しないの?やっぱり、王妃様に遠慮しているの?」


そう言って首を傾げる令嬢。


「何を言うんだ!僕たちは付き合っていないよ!ミレニア嬢に失礼だろう!そりゃ付き合えたらどんなに嬉しいか…」


やっぱり最後の方があまり聞こえなかった。そもそも、私に失礼というのは一体どういう事なのだろうか?


「クラウド様、私に失礼とはどういう事ですか?私はクラウド様なら、お付き合いしても良いと思っておりますわよ。でも、無理強いをするつもりはありませんわ。しばらくはお友達で十分です」


にっこりと笑って伝えた。一気に顔が赤くなるクラウド様。どうやら物凄くうぶな様だ。その後、しばらく経っても全く動かないクラウド様を見ていたら、段々不安になって来た。


あら?私、もしかしてマズい事を言ったかしら?どうしよう、物凄く微妙な空気が流れている!慌てて令嬢と令息に助けを求める様に見つめたのだが…


「俺達、明らかに邪魔だよな。行こうぜ」


「そうね、それではミレニア様、クラウド殿下、また学院で」


そう言うと、2人は街に消えてしまった。薄情者どもめ!


「あ…あの、クラウド様。私は友達でも十分ですわ。そもそも、私は王太子と婚約を解消したばかりですし」


顔を真っ赤にして動かないクラウド様に、必死に訴えかけた。すると何を思ったのか、顔を急に上げたクラウド様に手を引かれ、なぜか馬車へと向かう。


もしかして、もう帰るという事かしら?しまったわ!気持ちが先走りすぎてしまったのね。完全に失敗してしまった!そう思ったら、涙がジワリと沸き上がった。いけない、ここで泣いたらクラウド様が気を使ってしまう。必死に涙をこらえていると、馬車が止まった。


ここは?

周りを見渡すと、どうやら海辺の様だ!我が国は海に囲まれた島国の為、王都にも海がある。


「ミレニア嬢、急にこんなところに連れて来てしまってすまない!少し付き合ってくれるかい?」


「ええ、もちろんですわ!」


しばらく砂浜を2人でゆっくり歩く。


「ミレニア嬢、僕は小さい頃からずっと1人だった。呪われていると言われたこの黒い髪のせいで、メイドたちからも嫌われていてね。本当に孤独だったんだ。正直、自分が生きている意味が分からず、生きる事を止めようと思ったことも何度もある。そんな時はね、ここに来るんだ」


そう言うと、立ち止まったクラウド様。


「ここに来て、波の音を聞くと自然と気持ちも落ち着くんだ。それに、広くて壮大な海を見ていると、こんなところであんな奴らに負けてたまるか!何が何でも生きてやるって、そんな気持ちにさせてくれるんだよ!」


クラウド様が改めて私の方を向いた。


「人の温もりなんて必要ない、僕は1人でも生きていける、そう自分に言い聞かせて生きて来た。でも…心のどこかで、温もりを求めていたのも事実だ。そんな時、君が僕に手を差し伸べてくれた。初めて知った人の温もりは、想像以上に温かく柔らかくて、とても心地の良いものだった。ミレニア嬢、君は僕に初めて人の温もりを教えてくれた。僕にとって君は、唯一無二の存在なんだ!これからも君が許す限り、ずっと一緒にいたい!君さえよければ、僕と付き合ってほしい」



そう言うと、なぜか俯いてしまったクラウド様。今まで沢山の人に傷付けられ、裏切られて来たクラウド様。きっと私へと気持ちを伝えるのも、相当の勇気がいった事だろう。それでも、必死に伝えてくれたその気持ちが、物凄く嬉しい!


「ありがとう、クラウド様!私でよければ、よろしくお願いします」


クラウド様の手を握り、はっきりと伝えた。なぜだろう、瞳が潤んで、クラウド様の姿がぼやけて見える。その瞬間、凄い勢いで顔を上げるクラウド様。


「本当に、本当に僕の様な男でもいいのかい?」


「はい、私はクラウド様が良いのです。どうかよろしくお願いします」


深々と頭を下げた私を、遠慮しがちに包み込むクラウド様。


「ありがとう、ミレニア嬢!」


そう言うと、それはそれは美しい笑顔を見せてくれた。その笑顔を見た瞬間、再び目頭が熱くなり、瞳から涙が溢れる。あぁ、悪役令嬢の私が、こんなに幸せでいいのかしら?後でどんでん返しとかないわよね。


幸せを感じながらも、あまりにもうまく行き過ぎている事に、少なからず不安を抱くミレニアであった。




~あとがき~

ミレニアとクラウドがついにカップルになりました(*'▽')

少し早すぎやしませんかい?そんな意見もあるかとは思います。

でも私は、早くくっ付けてイチャイチャさせたいのです!


ゆっくり時間をかけてくっ付けるのも良いのですが、何分気が短いもので(;^_^A


引き続き、どうぞよろしくお願いしますm(__)m

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