第5話 クラウド様と一緒にお昼を食べます

ダンスの授業が終わると、教室へと戻る。もちろんこの時も、クラウド様と一緒だ!誰に何と思われようが知ったこっちゃない!とにかく、今はクラウド様と出来るだけ一緒にいて、クラウド様に信用してもらわないといけない。


私の記憶力が残念なばかりに、いつ反王政派が近づいて来るか分からない。はっきり言って時間が無い!クラウド様を守る為、少し強引に攻めていかないと後で後悔する事になるかもしれないものね。


がっちりクラウド様の手を握り教室に向かって歩く私たちを見て、周りからは騒めきが起きている。


「ミレニア嬢、あの…僕と一緒にいると、君まで変な目で見られるよ。だからこの手を放してくれないかい?」


「変な目ってどんな目ですか?」


こてんと首を横に傾けクラウド様に聞いた。もちろん、手はがっちり握ったままだ。


「それは…その…」


「大丈夫ですわ、私は既に王太子殿下と婚約を解消された残念な令嬢として、皆様から見られております。ですから、今更どんな目で見られようが、全然気にしませんわ。それよりも、私の様な令嬢と一緒にいたら、クラウド様に悪影響を及ぼしてしまいますでしょうか?そうなると、困りますわね」


よく考えれば、今話題の中心にいる私といる事で、クラウド様まで好奇な目で見られるかもしれない。それだけは避けたいわ。そう思ったのだが…


「残念な令嬢だなんて、そんな事は誰も思っていないよ!変な事を言ってごめんね。さあ、教室に戻ろうか」


そう言うと、私の手を引き教室まで歩き出したクラウド様。よく見ると、なぜか耳まで真っ赤だ。そう言えば、ダンスの時もずっと真っ赤だったわ。もしかして、体調が悪いのかしら?


「お待ちください!クラウド様。顔が真っ赤です。もしかして熱があるのでは?少し失礼しますね」


そう言うと、クラウド様のおでこと自分のおでこに手を当てた。う~ん、よくわからないけれど、多分熱は無さそうね。


「クラウド様、どうやら熱はなさそうですけれど、具合はいかがですか?」


「ぼ…僕は元気だよ。それより早く戻らないと、次の授業が始まってしまう!急いで戻ろう」


再びクラウド様に手を引かれ、教室へと戻った。ふとクラウド様をみると、やっぱりまだ顔が赤い。大丈夫かしら?心配だわ。


クラウド様は心配だが、授業が始まってしまったので、そのまま授業を受けた。授業が終わり、やっとお昼休みだ!ダンスの授業の時に約束した通り、クラウド様の元へと向かった。


「クラウド様、お昼ご飯を一緒に食べましょう!」


私の言葉に、なぜか目を丸くして固まるクラウド様。あら?ダンスの時、約束した事を忘れているのかしら?


「クラウド様、ダンスの授業の時に約束しましたわよね。せっかくだから、中庭で食べましょう」


クラウド様の手を引き、中庭までやって来た。早速お弁当を広げたものの、なぜかお弁当を出さないクラウド様。


そうだったわ、クラウド様はメイドたちから冷遇されている上、何度も毒殺されそうになったことから、食事は自ら市場に出向き、売れ残ったパンや果物を譲り受けてそれを食べていたはず。育ち盛りの男性が、そんな食事ではいけないわ!


そもそも、クラウド様は第二王子なのに、こんなにもひどい扱いを受けているなんて!前世の時から憤慨していたのよね!


「クラウド様、せっかくなので、一緒に家のお弁当を食べませんか?」


無駄に豪華な我が家のお弁当。いつも食べきれずに残していた。でも、よく考えたら勿体ないわ!


「大丈夫だよ。一応僕も、パンを持ってきているから」


そう言うと、パンの耳を取り出した。明らかにパン屋さんから貰った残り物だ。そうだわ!


「クラウド様、そのパンの耳、頂いてもよろしいですか?」


「ああ、別に構わないけれど…」


クラウド様の許可が出た。パンの耳を取り出すと、私のお弁当に入っていたハムをパンの耳に巻き付けた。さらに耳を並べ、その上に我が家のお弁当に入っていたお肉と野菜を並べ、さらに耳を並べていく。


ちょっとしたアレンジ料理だ。


「クラウド様、少し食べにくいですが、一緒に食べましょう」


そう言って、クラウド様にアレンジ料理を手渡した。警戒心が人一倍強いクラウド様、食べてくれるかしら?じっとクラウド様を見つめていると、ぱくりと食べてくれた。


「ミレニア嬢、この料理、本当に美味しいね。今まで食べた料理の中で、一番美味しいよ!」


そう言って微笑んでくれたクラウド様。よかったわ。


「ねえ、クラウド様。お互いのお弁当を2人で半分こして食べましょう。正直、私には公爵家のお弁当は量が多くていつも残してしまうの。でも、せっかく料理人が一生懸命作ってくれたのに、残すなんて申し訳ないでしょう。クラウド様が食べてくれたら、きっと料理人たちも喜ぶと思うわ」


「ありがとう、ミレニア嬢。それじゃあ、半分こしようか」


クラウド様の許可が出たところで、2人で半分こしながら食べた。と言っても、私は食が細い方なので、すぐにお腹いっぱいになってしまう。その為、ほとんどクラウド様が食べてくれた。


「クラウド様、きれいに食べて下さってありがとうございます。きっと料理人も喜びますわ。もしよろしければ、明日からも一緒にお昼をご一緒してもよろしいかしら?」


私の誘いに、考え込むクラウド様。


「それは止めた方がいいよ。君も知っているだろう。僕は“呪われた人間”なんだ。僕のこの黒い髪は呪われている証。だから、僕と一緒に居ると、君まで不幸になるよ」


そう言うと悲しそうに笑ったクラウド様。なんだか物凄く悲しそうで、ついクラウド様を抱きしめてしまった。


「クラウド様、あなたは“呪われた人間”ではないわ。そもそも、どうして髪が黒いだけで呪われていると言う証になるの?あなたは知らないかもしれないけれど、世界には黒髪に黒目の人間が住んでいる国もあるのよ!もし黒髪が呪われている証なら、どうしてその国は滅びないのかしら?おかしいと思わない?少なくとも、私はクラウド様が呪われた人間なんて、思えませんわ!」



私が前世で暮らしていた日本は、ほとんどが黒髪に黒目だった。でも、特に皆普通に生活をしていたわ。大体、美しい黒髪がどうして呪われているのよ!それ自体失礼な話だわ!


おっといけない、興奮してクラウド様を抱きしめたままだった。クラウド様から離れると、再び彼と視線を合わせた。


「だから、ご自分を呪われた人間と卑下するのはお止めください!私は、クラウド様の美しくて艶のある黒髪も、宝石のように美しい赤い瞳も好きですよ!」


クラウド様の目を見て、はっきりと告げた。


「ありがとう…ミレニア嬢…」


美しい赤い瞳からポロポロと涙が流れた。きっとずっと孤独に耐えていたのだろう。皆から呪われた人間と言われ、ずっと虐げられて来た。私が想像できないくらい、今まで苦しんできたクラウド様。絶対この人を守って見せるわ!


そう思ったらまたクラウド様を抱きしめていた。しばらく泣いたら落ち着いたのか、恥ずかしそうに私から離れたクラウド様。なぜか顔が赤い。


「あの…僕が泣いた事、誰にも言わないで欲しいんだ」


「もちろん、誰にも言いませんわ。もうすぐ午後の授業が始まりますわね。急いで教室に戻りましょう」


クラウド様の手を取って教室へと向かう。その時、クラウド様が私の手を握り返してくれた。もしかしたら、少しは私の事を信じてくれたのかしら?そうだと嬉しいわ。

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