パラレルキング~パーティー追放されし雑魚の不死身~

MIZAWA

第1話 パラレルキング伝説

 凍えるように肌寒い、特に冬の季節になったわけでもない。

 僕は震える右手で自分の頭を掴んでいた。

 右手はとても重たいボールのような自分の頭をがっしりと掴んでいる。

 僕の視線は右手に掴まれている両目からだ。


 目の前には巨大なモンスターのオーガだ。

 辺りにはオークの死骸が転がっている。

 僕の頭を僕の首に接合する。

 ばちばちと魔法の光を放って体と頭がつながると。

 ゆっくりと後ろを振り返る。


 そこにはかつて仲間だと思っていた冒険者達が僕を囮にして逃げていく様が映し出されている。


「ああ、またか」


「これで記念すべき100回目のパーティーを追放されたな」


「なんでだろうな、僕の役割っていつも囮ばかり、戦っても弱いけど、いつまでも雑魚でいるつもりはない」


 頭の上に表示される勲章。

 そこにはただ2文字で【雑魚】と表記されている。

 基本的に生まれた時からこの勲章は表示されている。

 勲章によって条件が違い、その条件によっては力となる事がある。

 

 ちなみに僕のユニークスキルが【不死身】だ。

 

 勲章が雑魚でスキルが不死身というアンバランス。

 

 いつか見た絵本のパラレルキングになる為。

 勲章をパラレルキングにすると。何もかもが変わるという。

 パラレルキング伝説の本に書かれてある。


 この世界は異世界オリンポス。まだ他のパラレルワールドには行った事がない。

 

「なんてな、そんな余裕ぶっこいてる暇ねーんだけどさ、雑魚はさ、雑魚なりに戦うわけ、オーガ君」


 僕は走り出した。

 地面を蹴った。


「ぐるぉおおおおおお」


 小太りなオークの体の2倍はあるであろうオーガは、鋭い牙を剥きだしてこちらに走ってくる。


 奴の右手にはこん棒が握られており、先ほど僕の頭を吹き飛ばした武器だ。


 僕にしか使えない魔法がある。

 それが自爆魔法だ。


 オーガと僕が接触したまさにその時。

 僕の脳裏に魔法のスペルが流れてくる。

 後はその流れに身を任せて、自爆魔法を起動させる。

 オーガの体が吹き飛ぶのと同時に僕の体も爆発した。


 オーガは粉々になり、肉の塊となった。

 一方で僕の体は粉々になり、また再生して地面に唖然と立っている。

 衣服まで再生してくれるから助かる話だ。


「いっつ、痛みだけはなんともしようがない」


 この自爆魔法を使うと、体に激痛が走る。

 それは骨折とか内臓破裂の類より遥かなる激痛なのだ。

 それを耐えている事自体が僕の凄い事だと受付のお姉さん入っていた。


「ふう、これがオーガの牙ね、まったく他の奴らには渡さないよ」


 かくしていつも通り、パーティー追放されて、1人だけでクエストを完了したと言う事だ。


=========

=========


 気づけば、ぼろぼろの衣服の状態で冒険者ギルドの中に入り、受付嬢の所にたどり着いた。


 周りではこちらを指さしてげらげら笑っている。

 僕は受付嬢のカウンターにオーガの牙を2本置いた。

 すると周りの人達が絶句していた。


「まったく、あなたは無理をしましたね、それ以前に先ほどパーティーメンバーの方がクエスト失敗を報告してきましたよ」

「いや、僕が1人で倒した。雑魚は雑魚なりの戦い方がある」


「それは戦いではなく自爆ですよ」

「受付嬢さんは、いつも厳しいよ、僕にだって意地がある」


「まったく、いつになったら私の名前を憶えてくれるのかしら?」

「すみません、フォーネさん」

「よろしい、ではこれが報酬です。いつもあなたが1人で自爆してしまうから、パーティメンバーの方たちは逃げかえるしまつですよ」

「それは彼らが雑魚だからだ」


「あなたの頭の上に浮かんでる2文字も雑魚ではなくて?」


 突如話かけられた。後ろには先ほどのパーティーメンバーの3名がいた。

 リーダーであるお嬢様系のアテイナと戦士と魔法使いがいるのみだ。


「あ、君達は逃げかえった人だね」


「わたくしはそのオーガの報酬は受け取る義務がありますわ、道中のモンスターを倒したのはこのわたくし達ですことよ」

「だが、オーガを前にして僕を置き去りにしたではないか」

「ふふ、あれも作戦のうちですわ、だからフォーネさん、わたくしたちにも報酬を」


 するとフォーネさんはこちらを見て、にかりと笑った。


「あなた達は棄権しました。ですがロンリ君は最後までクエストを完了しました。受け取る義務があるのはアテイナさんではなく、ロンリ君です」


「いいのかしら、フォーネさんわたくしに逆らったらパパが許さないわよ」

「冒険者ギルドはどこでも平等なのです」


「ったく、いくわよ」


 アテイナと2人の男性達は悔しそうにいなくなる。

 僕はそれをきょとんと見ていた。

 

「ではこれが報酬となります」

「ああ、ありがとう、でも大丈夫なのフォーネさんは」

「安心してください」

「それならよかったよ、僕は宿に戻るよ」

「そうしてください、それと信頼のおける仲間は見つけるべきですよ」

「それもそうだね」


 僕はとぼとぼと報酬を受け取って、宿屋に向かった。

 何も考えないでひたすら道を歩いた。

 宿屋にたどり着く頃には夕日が沈もうとしていた。

 

 宿屋の女将さんがにこやかに挨拶をしてくれて、僕は返事を軽くすると、一心不乱に部屋に入っていた。


 部屋には何もない。

 そして実家もないし、故郷もない。


 ずっと一人ぼっちだった。

 不死身というユニークスキルのおかげで、大勢の人達が僕を勧誘しにきた。

 しかし僕の頭の勲章には【雑魚】が表示され、1人また1人といなくなった。

 

 そもそも赤子の頃に見世物小屋に売りとばされた。

 理由は不死身だから。

 その後自力で脱走し、冒険者稼業をしている。


 そんな自分のどうでもいい過去を思い出して、窓から入るオレンジ色の光を頼りに天井を眺めながらベッドで深い眠りに入ろうとしていた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る