彩子さんは殺したい
みりお
季三月彩子という女
第1話 凶器の美少女
「ちょ、ちょっと待て! 好きなら殺さない方が良くないか?」
俺は放課後の教室でコクられていた。口数は物凄く少ないが超絶美少女で、近寄り難い超難関な
心当たりはある、多分拾った書きかけの小説のせいだ、俺は直筆で原稿用紙にびっしりと書かれていた恋愛小説を図書館で拾い、可愛らしい文字で書かれた実に痛い設定のピュアでラブい物語に興味を惹かれ、すべて読み終え、文末に感想を書いてしまったからだ。彼女はそれを陰からずっと見ていたのだろう、コミュ症だから小説を取り返す事も出来ずに。
だいたい直筆ってのが今時あり得ないだろ、落としたら終わりだ、いや、実際落としてるし。今時ならカクヨムかなろう辺りのウェブサイト上で執筆する方が簡単だし紛失する心配もない。
無口な彩子さんは、包丁を上下逆さまに握って俺の体に刺さりやすいように構えている、殺意ありありだ。
しかも俺には退路が無い、教室の隅に追いやられているからだ。
彩子さんからの待ち合わせ場所に指定されていたのは窓側の教室の隅、俺はその指定に若干の違和感を覚えてはいたが、まんまと隅にいる。
彼女はモジモジしながら、聞き取れない小さい声で何かを言って微笑んだ。
可愛い。敢えて繰り返す、物凄く可愛い。
背が低いがそのままコンパクトな細い体に、アンバランスな巨乳とまでは言わない大きめの胸、灰色のショートヘアーが少しだけ吊り目ぎみな顔にマッチしている。
これは危険だ、誰もいない教室で美少女と二人きり、普通なら理性を保つのが難しい限りだが。
抱きしめたい衝動を抑え込む逆さまの出刃包丁が鈍い輝きを放ち、俺は彼女との間にATフィールドを作る。
彩子さんはゆっくりと近づき、包丁を刺せる間合いに入った。実際刺しに来るのだろうか? そう思った瞬間、俺の脇腹にドンッと何かが当たった。
視線を落として脇腹を確認した俺は驚愕した、彩子さんの握っていた出刃包丁の柄が脇腹にくっ付いて彼女の手に俺の血が伝いポタポタと床に赤い点を幾つも作っている。
「うわーッ!」
俺は教室の床に座り込み、血でぬめりの有る脇腹を抑えて叫び声を上げる。
高校二年の春、俺の短い青春が終わりを迎えるのか?
嬉しそうな彩子さんは微笑んでいたが、「プッ」と吹き出して可愛いらしく笑った。
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