第17話

 パシッ


 私はリチャードの問いに答えることなく、睨むような顔をしてその手紙を奪う。

 リチャードは仕方なさそうな顔をして、お父様からの手紙を手放した。


 ゴクンッ


 私は喉を鳴らす。


 急遽馬車に跳ねられて亡くなってしまったお父様たち。

 私が聞いた最後の言葉は『行ってくるよ、愛しいアリア』。

 玄関で振り返った二人の笑顔が私の脳裏で焼き付いて離れない。


 だけれど、欲を言えばその言葉が最後の言葉では物足りないと思っていた私。

 だって、大好きな二人とはもっといろんな話をしたかったし、いろんなことを相談したかった。味気ない言葉では私の心は寂しくてみたされないのだから。だから、文章のどこかに私に向けた言葉があってほしいと願った。


『親愛なる ザクセンブルク王へ

 緊急にて走り書きをお許しください。


 昨今、私の耳にあまり良くない情報が入ってくるようになりました。それは、我が国王であるワーテル様のお身体が優れず、我が娘アリアが嫁ぐ予定であるエドワード王子が国土を拡大を目論んでいるということです。私は諫めましたが、聞き入れてはくださりませんでした。


 ワーテル王が健在の頃は大人しかったエドワード王子でしたが、今は野心を現し、私の諫言が原因で私とエドワード王子と確執が生まれてしまい、穏健派の貴族たちは私に、過激派の貴族たちはエドワード王子に付き従い、勢力が二分されています。


 そんなエドワード王子の侵略目標は、経済大国である貴国、ザクセンブルク公国でございます。

 

 こうして貴方様に手紙を送ることが露見すれば、私は国の最重要機密を他国に漏らした売国奴として死刑になるでしょう。それでも、こうして貴方様に手紙を書くのには訳があります。


 どうか、アリアだけでも助けてください。


 私の陰にはすでに魔の手が忍び寄っており、いつ過激派に殺されるかわからない状態にあります。そして、そうなってしまえば、財産は奪われ、軍資金に充てられてしまうでしょう。また、穏健派の中には私が亡くなった後、アリアを担ぐものが出てくるとも限りません。エドワード王子も情がある人間であれば、アリアを殺すとは思いませんが、私の知る大人しいエドワード王子ではないので、どうなるかはわかりません。


 私が献上できるのはこの情報のみですが、この情報が何物にも代えがたい価値があると信じております・・・』


 私は手紙を読み終えた。

 そして、手紙を優しく抱きしめる。

 内容はびっくりの連続でほとんど頭には入らなかった。


 だけど、お父様の感情の籠った文字は、私への愛を示していて私は嬉しくなった。

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