第9話

「よしっ、頑張るぞっ」


 朝一番、清々しい空気の中、私はメイドの格好をして、竹ぼうきを手にして庭園に来た。


「うーん、久しぶりに見たけれど、立派な庭園ね」


 私はあたりを見渡す。この国に来てからまだ雨は降っていない。

 梅雨に入っていた私の国とこの国は気候が違うのだろう。


「スーーー・・・ハァーーーッ、スーーー」


 私は深呼吸をする。

 雨には嫌な記憶ばかりだったし、この綺麗な空気を吸っていれば私は立ち直れる気がする。

 だから、食事の後リチャードに改めてお願いして仕事をもらった。


 あの後も頑なにリチャードは拒んでいたけれど、私が試しにメイド服に着替えると―――


「・・・いい、すごい・・・いい」


 と言って、OKしてくれた。なので、メイド服は恥ずかしかったけれど、仕方なく着ることになった。


「じゃあ、ボクの身の回りの世話をお願いしようかなっ!?」


 と、リチャードはちょっと変なスイッチが入ったようだったので、


「・・・えっちっ」


 と伝えたら、


 ガビーーーンッ


 とショックを受けた顔をしていていた。普通にしていると紳士的でイケメン過ぎて、どこの王子様だよっという感じで、緊張してしまうけれど、昔のような子どもっぽいところを見ると安心する。


「ふふっ、頑張らないと」


 掃除をする前に周りを確認すると、この庭園はどうやらバロック様式の庭園のようだ。

 自然を幾何学に当てはめて、人のイメージに沿って計算された直線美や、曲線美、そして黄金比はとてもきれいで、それでいてかっこいい。


「さっ、やりましょっと」


 サッサッサッ―――


 私が落ち葉を掃いていると、3人組のメイドがあくびをしながらやってきた。


「おはようございますっ!!」


 一応は貴族の身分だけれど、財産は何一つなく、あるのはこの身体だけ。

 仕事を教わる先輩方にしっかりと挨拶から入ろうと思った私は、深々と頭を下げる。


「「・・・おはよう」」


 両隣の二人は私に挨拶を返してくれたが、真ん中のメイドは、


「あっちからやりましょ」


 と言って、私とは反対方向に二人を連れて行ってしまった。

 私は勝手に始めていたけれど、掃除の順序があるかもしれないので、私は彼女たちのところへ歩み寄った。


「あの・・・」


「あら?あちらはまだ終わってないのではないかしら?アリア『様』」


 リーダ格のようなメイドさん・・・確か名前は・・・。


「フロリアさん・・・いや、フロリア様」


「貴族の方に『様』呼びされれば、ご主人様に怒られます。ご容赦ください」


 言葉とは裏腹に冷めた塩対応のフロリア。

 イヤな風が流れた。


 天気は晴れているのに、雨のにおいがした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る