39話 ハカイショウドウ


 羽を武装することで、俺を包む鎧が形を変えていく。

 腕と肩の鎧が青く色付き翼の要は紋章が刻まれる。そして背中からは十枚の翼が生えた。

 十字の面へと顔を変えた鎧は、ガイの命名する通り天使そのものだった。


 武装と同時に空から降り注ぐ光の粒子。粒子を浴びることで俺の身体に付いた傷が全て癒えていくのが分かる。

 いや、傷だけでない。

 疲労や体力までも回復していく。


「おや? 回復ですか。り~ひっひっひ、理想じゃないですねぇ。でも、まあ、面白いので様子をみましょうか?」


 そんな余裕を言っていられるのも今だけだ。

 俺は正面に立つドラウを睨む。

 こいつが。

 こいつが。

 こいつが。

 こいつが。

 こいつが。

 こいつが。

 こいつが子供たちを――。


 ダッタラ、コイツヲ――。


「くっ!!」


 頭が痛い。

 傷は回復しているはずなのに、全身が自分のモノじゃないかのように身体が――重い。

 身体だけではない、意識までも重くなっていく。

 黒く黒く圧し潰されていく意識の中で――明確に浮かぶ一つの感情。


 ――コイツヲコワス。


 自分の内側から溢れだす衝動が鈍い意識を喰らっていく。

 破壊、破壊、破壊、破カイ、破カイ、ハ壊、破壊、ハカイ、ハカイ、ハカイ、ハカイ、ハカイ!!


「アアアアァァ!!」


 俺は全ての感情を吐き出すために雄たけびを上げた。





「り~ひっひっひ。なんですか、コイツは? また姿が変わった? 本当、面白いですねぇ」


 獣のような遠吠えが響く。

 自分の意識を叫び声と共に吐き出したのだろうか。リキの首が「ダラリ」と地面に傾いた。

 力の籠らぬ鎧が徐々に黒く染まっていく。

 美しい白い羽根は骨ばった黒い翼膜よくまくにへと。

 白銀の鎧は濃色こきいろにへと塗りつぶされていく。

 その鎧の姿は――天使というより、悪魔だ。

 全てを破壊する悪魔。


 鎧の変化が終わると同時にリキは、前傾姿勢のまま、一息でドラウ達へと距離を縮める。

 足捌きなど何もない。

 ただ、獣が餌を追う如く全力で駆けるだけ。

 技でも何でもない只の走行が――先ほどの何倍も速かった。


 対応できたのはドラウだけ。

 近くにいたクリオネ男を掴み、自分の正面に移動させ蹴り飛ばす。


 自身にへと向かってきたクリオネ男にリキは右手を突き出した。

 ガイが言うところ『みぎ突撃とつげき』。

 リキの右腕がクリオネ男を貫くと同時に、貫かれた部位から身体が崩れ崩壊していく。


「これは……身体の内側から崩壊していますねぇ。ふふ、こんな力使える人間が、他にもいるんですねぇ。と、なれば、近づくのはやめておきましょうか」


 ドラウは両手を銃の形に構える。


「り~ひっひっひっひ。ひひひひひひ」


 指を上下させ連射する。

 それに従いクリオネ男達は腕から銃弾を飛ばす。先ほどよりも一撃が大きい。

 攻撃範囲よりも威力を取ったのだろう。

 だが――。


「なに!? 当たる瞬間に消えている?」


 種子の弾丸はリキに当たる直前で塵となって消えていく。

 近づくものを皆消し去る力。

 それが暴走した天使の――。いや、『悪魔の鎧』の力だった。


「ガアアアアァ!」


 叫び声を上げるとリキは両手を左右に開いた。すると、黒く伸びる手が現れ、クリオネ男達を握り締める。

 身動きの取れない状態で触れた部分から崩壊していく。

 一瞬で10人の仲間を破壊されたドラウは、


「これは――マズそうですね。時間を掛ける訳にもいかないですし……。りひひひひひ、り。そうじゃないですねぇ。」


 そう言いながら両手で円を描いた。

 すると、その場に黒い砂嵐のような【ダンジョン】が現れた。その中に飛び込むように身体を滑らせる。


「ガァ!!」


 逃がさないと言わんばかりに咆哮する。

 その声は黒い弾丸となりて、開いた【ダンジョン】へと飛び行く。

 リキの咆哮が届くよりも先に閉じた【ダンジョン】。

 その場に誰もいなくなったことに、苛立ったのかリキは叫び後を上げながら近くの木々をなぎ倒していく。


 そして気付いた。


 まだ、自分の怒りを感情をぶつける相手がいることに。

 倒れている子供達だ。

 獲物を見つけたリキは鎧の中で笑う。


 スベテヲハカイスル。


 守るべき相手すらも判断が付かないリキ。

 一番手前に倒れていた川津 海未に手を伸ばしたところで――青い炎の斬撃がリキを襲った。

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