37話 ドラウ・ドージー
「ここか」
地図が表示している場所はキャンプ場だった。同じ都とは思えないほど山に囲われていた。
淡い緑の芝生が太陽の光を反射して揺れる。
植物の香りが空気に溶け込んでいた。
「なんだよ……。キャンプ場っていうから、面白そうなの期待したのに、ただの芝生じゃねぇかよ」
「今は、こういう場所にテントを自分たちで張ってゆっくりするのが流行りなんだよ」
とはいうが、流石に平日の昼間だからか、利用者は誰もいなかった。
開けた土地なので見渡せば周囲は一望できる。
利用者もいないが、川津 海未もいなかった。地図が示す場所はもう少し奥。山の麓のようだ。
俺は地図に従い歩いていく。
次第に進む道は林となり竹に囲われた場所にへと変化していった。
獣道を進む。
すると――行方不明になった少年少女が横たわっていた。
その中は川津 海未もいた。
「良かった、大丈夫!?」
俺は倒れて意識を失っている川津 海未に近寄り脈を確認する。
耳の根元に近づける。
トクン。トクン。
良かった。
一定のリズムで動いている。
「しかし、なんだってこんな所に集められてるんだよ? しかも、まだ生きてるって何が目的だ?」
そんなガイの疑問に答えるように――竹と竹の間に巨大な植物が現れた。
色鮮やかな桃色の花弁。
突如として現れた植物。
それは只の植物ではなかった。
異世界とこの世界を繋げる【
花弁は小波のように震え花開く。
花弁に囲われるようにして現れたのは――1人の男だった。
「り~ひっひ、り。ん? おやおや、何故、ここに意識のある人間がいるのですか? 理想的じゃないですねぇ」
「……うぉ! 植物から変態が生まれた!?」
現れた男の姿にガイは思わず率直な感想を口にした。
変態。
確かに俺もそう感じてしまった。
深緑の白衣のみを纏った男。
下はズボンを履いていないために、ミニスカートのような丈の長さだ。
殆んど骨のような四肢がブラブラと揺れる。
「おや? いきなり変態とは失礼極まりない。歓迎しない人間に限って無礼なのは――
「おい! 今、お前――世界って言ったか!? じゃあ、まさかお前も別の世界の人間なのか!?」
ガイが一歩前に出る。
喋るハリネズミに驚くことなく男は、「人間?」と首と腕を同時に傾げた。
ふざけたような動作が不気味に感じる。
こいつ――一体何なんだ?
「私はドラウ・ドージー。あなた方のような凡人と一緒にしないでください。初対面で笑わせてくるとは、貴方たち、笑いのセンスはあるようですねぇ」
「だろ? 俺はセンスの固まりなんだよ。見た目はセンスねぇが、分かってんじゃねぇかよ」
「……センスがない?」
深緑の白衣を着た男――ドラウ・ドージーは顔と腕を震わせる。
一々、顔の動きを手で表現しなきゃ駄目なのか?
しかし、この反応を見ていると、そういう類の言葉は口にしない方がいい。
だが、俺の判断は遅かった。
ガイにもその
センスがないという言葉に、顔の横で両手を開く。
目を剥き出したその仕草は確かに人間の
「私を侮辱したことを――後悔するのですよぉ。り~ひっひ、り。そうです、やってしまいなさい」
ドラウが両手を前に突き出す。
すると開いていた花弁が縮み、人型にへと収縮されていく。
背丈は俺と同じくらい。
身体は鍛えているのだろうか、一糸纏わぬ姿ではあるが、筋肉の鎧を纏ってると言えるだろう。
だが、そんなことよりも注目すべきは顔だった。
表情はない。
目もない。
耳もない。
鼻はないが花はある。
頭が花で出来ていた。
クリオネのような花弁の頭。こいつは――明らかに人間じゃない。
まるで前回戦ったコウモリ男の用だ。
クリオネ男は腕を振るう。
節だった茎のように成長をし、俺達へと襲い掛かる。距離にして5メートル。
人が決して届く距離ではないが――
「ガイ!!」
「あいよ!」
俺達だって伊達に経験は積んでいない。
ここに着た時点で戦う覚悟は出来ていた。
能力を発動し、飛び掛かってきた怪人の腕を止める。
ドラウは、【勇者の鎧】を装備した俺達を見て、両手で丸を作り左右に揺れる。
「おやおや? ひょっとしてその姿は、私が創った実験体を倒した奴らじゃないですか? りっひっひ、り。そうですか。これは最高に付いてますねぇ~」
「って、ことはこないだのコウモリ男もこいつが……?」
つまり、自在に世界を往復する力を持っているということか?
今回の事件といい何が目的か理解できない。
『へっ。だったら、さっさと倒して本人に聞い方がはぇな!! そうだろ、リキ!』
「確かにね……!」
俺は細く節だったクリオネ男を握りなおし、腰を落とす。
踵を中心に身体を捻り回転する。
一回。
二回。
回転が増加するたびに勢いは増していく。重いものが先端についていた方が勢いは付く。
クリオネ男を武器として――ドラウの身体に投げ飛ばした。
『
「手ごたえはあったけど、どうだ!?」
「へ。決まったに決まってんだろ!! こりゃ、話聞けないんじゃないのか?』
土煙が舞う。
通常の【
だが――。
「りーひっひ、り。そうではないですねぇ。私が思っていた答えと違いますね。なるほど、ダメージはありますか。まだまだ、実験は必要ですね」
ドラウは平然と立ち上がった。
そして白深緑の白衣からペンを取り出す。
そして、カチリと先端を出すと――自分の腕に突き刺し、肉をえぐって文字を身体に刻んでいく。
腕から垂れる血が地面に落ちる。
血が土に落ちる音が俺達にも聞こえてくる。それほどまでに、この空間はドラウが支配していた。
ダメージはなく自らに傷を刻むドラウ。
不気味すぎるだろ。
「よし、これで忘れませんねぇ。物忘れが酷いのが私の癖です。さて!」
パンと両手を勢いよく合わせるドラウ。
「ここからは、私の理想の邪魔をした罰を受けて貰う時間です。り~っひっひ、り。覚悟はいいですかぁ」
両手を頭の横でピョコピョコと振るう。
子供たちが「兎さん~」とかやるんだったら可愛いだろうね、殆んど骨の白衣オンリーミニスカおじさんがやったんじゃ、気色悪いだけだ。
「と、言ってもそんな悠長なこと言えそうにないんだけど――」
「さあ、さっさとこの馬鹿を殺すのです! そして、そこに転がってるやる気ある若者達を我が研究所に連れてきましょうか!」
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