35話 やる気と異変

 翌日。

 俺達は残りの行方不明者の話も聞こうと外に出ていた。近くにある花壇にへと寄り掛かりながら、スマホに入った情報を読み進めていく。

 行方不明になった子供たちの名前と年齢が記録されていた。


「行方不明になった子供たちに共通点はないんだよな……」


 7人の子供達。

 男の子4人に女の子が3人。

 小学生が3人に中学生が2人。そして残りの2人は高校生だった。


「おい、1人でぶつぶつ言ってないで、お前も海未を見習って情報集めろよな」


「……分かってるよ」


 俺達が今日、情報を集めに来ている場所は日雲商業ひぐもしょうぎょう高校。

 校門から出てくる生徒を見ていると、比較的女子生徒が多いようだ。俺も話を聞きには行くものの、露骨に警戒され「知らないです」と直ぐに離れて行く。


 そんな俺とは違い川津 海未はどんどんと情報を集めているようだ。

 同年代で性別も同じだから話しやすいのだろう。

 そう信じたい。

 俺のコミュニケーション能力と人相に問題があるとは思いたくはないのだ。そりゃ、少し目つきは悪いかも知れないけどさ……。


「うん! いなくなった生徒について少しわかったよ!」


 目ぼしい情報が集まったのか川津 海未が戻ってくる。


「いなくなった子は中村なかむら 幸恵ゆきえちゃんって生徒らしいよ! 学年は2年生で部活はバレーボール部だってさ」


「流石だね」


「そんなことしかなないよー! むしろ、褒める言葉が足りないよー!」


「お、おお。更に褒めを要求してくるのか……」


 しかし、まあ、それくらいの仕事はしてくれたもんな。

 俺は待ち時間を利用して購入していたお茶を手渡した。喉を潤した川津 海未は更に手に入れた情報を話す。


「えっと、なんかその子、いなくなる前の様子が少し変だったんだってさ」


「変?」


「うん。なんか急に部活動の練習メニューを変更するように顧問にお願いしたんだって。単純な練習量で言ったら、倍くらいになったってさ」


 俺は部活動に所属したことがないので、練習メニューを顧問に打診することが変なのか判断に困る。

 しかし、まあ、数か月前まで女子高生だった川津 海未が言うのだ。

 間違いはないだろう。


 経験がなく川津 海未の手に入れた情報が変なのか悩む俺に対して、もっとも部活動から掛け離れているガイが納得したように背を丸めた。


「あー、きっと、あの漫画にでも影響されたんじゃねぇか? 確かにあれ、最近アニメ化してただろ?」


「うん、うん!  原作も今、良い所だしね!! まさか、海外遠征編であの2人が手を組むとはね」


「ああ。2人の得意技を合体させたの熱かったよな!」


「……」


 白丞しろすけさんと関わるようになってから2人の漫画知識がどんどん広がっていた。何の漫画の話をしているのか分からない俺は盛り上がる2人が落ち着くのを待つしか出来なかった。


 5分程漫画トークを続けたのちにようやく話題が戻ったようだ。


「と……、今回分かったのはそれくらいだよ! もうちょっと話聞いてみようか?」


「いや、今日はもう帰ろう」


 この二日間。

 情報収集に専念したが、手に入れた情報が有用性があるかと言われれば、無いと答えざるを得ない。

 新情報が手に入れば良かったのだけど……。

 一度、家に帰って次の手を考えた方がいい。

 そう考えての提案だったのだが――、


「え? まだ、夜じゃないし出来ることはあると思うよ! 諦めるのは時期早々だよ!!」


 川津 海未は帰宅することを拒んだ。

 なにも俺は諦める気はないんだけどな。


「諦めるんじゃなくて、このまま調査してても道は開けない。だから、一度帰って別の策を実行してみた方がいいんじゃないかって思うんだ。改めて手に入れた情報を整理すれば、何か見えてくるかもしれないし」


「俺もリキに賛成だな。これ以上は意味ない気がするぜ?」


 俺とガイの言葉に川津 海未は尚も食い下がり、調査を続けようとする。


「じゃあ、家で頭使ってれば道は開けるっていうの? 考えるだけじゃ、前には進めないよ? そんなんだから、追放されちゃったんだよ!」


 頭よりも足を動かすべきだと言いたいのか。

 強い口調で自分の意見を述べる。

 まるで喧嘩でもするかのような意思の込め方だ。


「海未、一旦落ち着けって。焦るのは分かるけどよ」


「……分かった。行動に移さないなら、私はトレーニングしてくるよ。そっちの方が絶対、役に立つからさ。それに――きっと私が求めてる力はどこかにあるからさ」


 川津 海未はそう言って走っていった。

 小さくなる背を見つめガイが言う。


「なあ、海未の様子だけどよ、やっぱり変じゃねぇか? あいつ、あんなこと言うタイプじゃねぇだろ?」


「それは、確かにね……」


 自分の姉と行方不明者を重ねていると思っていたのだが――違うのか?

 俺の考えが誤っていたことを突きつけるかのように――その夜、川津 海未が帰ってくることはなかった。

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