第39話
息をするのも憚られるほどの、冷たい空気。
怒りに震えているのはノエルだけではなくテッドもだった。
2人を落ち着かせることも大切だけど、きっと今の2人はただただ宥めたところで落ち着いてくれないはず。
ミーナへの怒りを消すためにはこの言葉が一番よね。
「‥‥‥ミーナが伝えたいのは、ミーナ自身が心を操られていたことでレオンに夢中になっていたんじゃないかってことよね」
「!!‥信じてくださるのですか?!そう考えるのが一番しっくりくるのです‥。催眠術や、薬などを使われたのかもしれません‥!」
勢いよく立ち上がったミーナの瞳には力が宿っていた。テッドとノエルは私の言葉を聞いて言葉をなくしているようだった。
「信じるわ、ミーナ。‥‥さっきの質問に戻るけど‥貴女は最近レオンに会った?」
恐らく会っていないでしょう。ミーナが魔女を通してレオンに魅了されていたのなら‥レオンが魔女の味方であるのは濃厚。あの爪の傷は、恐らく私が抵抗した際に付けたもの。
「会ってません‥!!」
「そう‥」
一足先に冷静になったテッドが静かに口を開いた。
「ーーーまさか、魔女が‥?ですが、何のためにレオンに惚れさせる必要が‥‥?」
テッドはごくりと息を飲んた。ノエルでさえ言葉が見つからないようだった。
ミーナは突然出てきた“魔女”というフレーズに「‥え?」と困惑している。
「‥‥魔女、とは‥?どういうことですか‥?え、私、まさか‥魔女に何かされたんですか‥‥?」
再び息が荒くなっていくミーナ。うかつに“魔女”の話はできないし、現在進行形で魅了されていないということは、いまの彼女はもう魔女とレオンから解放されているのだと思う。
ーーだから彼女には魔女のことは話さない。
「ふふ、違うの。最近テッドったら何かと“魔女”に結びつけようとするのよ。もうこの世に魔女はいないのにね」
「そ、そうですか‥。焦ってしまいました‥。それならよかったです‥」
「ミーナ、貴女はきっと悪い夢を見ていたのよ。もう夢は覚めたでしょう?心と体を十分休ませたら、また前を向いて進んでいってね」
「‥‥はい‥!皇女様、ありがとうございます‥!」
ミーナの瞳には薄らと涙が滲んでいた。信じてもらったということが彼女の心を強くしたのかもしれない。先程までと打って変わり、ミーナの表情は明るくなったような気がした。
馬車の中ではテッドとノエルがミーナに関して意見を出し合っていた。私はぼんやりとそれを聞きながらひとりで考え込んでいた。
ーーーなぜ、ミーナが魅了されたの?
レオンが魔女の仲間だと仮定するならば‥レオンに惚れさせたのは“魔女側の都合がよかった”からよね。
‥ミーナは毒殺を計画したことも今では信じられないと言っていた。ということは、毒殺も‥魔女側が望んだことだったのかもしれない。
でも最終的には毒殺されていないし?!レオンだってあの時ノエルに殺されていたし?!あぁ、もうわけがわからない‥!
毒殺を防ぐためにだって、レオンたちが死ぬのを阻止するのにだって、沢山リセットをしてなんとか逃れたけど‥魔女たちは一体何が望みで‥‥‥‥ ‥‥あ、
「リセット?!?!」
思わず大きな声が出た。その答えを見つけ出した時、全身の毛穴がバッと開いた気がした。そんな私をよそに、馬車はカタカタと揺られながら何事もなく進んでいく。
「‥ど、どうしました‥‥?」
「皇女様、どうしたの?!」
私は口元に手を当てながら、首をふりふりと横に振った。
「なんでもないわ‥」
きっと‥、いや、間違いなく‥魔女たちの目的は“私にリセット魔法を使わせること”ね。
魔女が未だに私を解放していないと分かった時から、純粋に私の為にリセット魔法を授けてくれたのだとは思っていなかったけど‥。
私がリセット魔法を使うと、魔女にとって何の利があるの‥‥?
ーーーーすごく便利な魔法だったけど‥‥、これからは出来る限り使用を控えないと‥。
命の危険がある時だけではなく、奪われた時間を取り戻す為にも使ってた。10年間自分の時間がなかった私にとってはリセット魔法はすごく便利な魔法だった。
あぁ、だからか‥。
私にとって魅力的な魔法だからこそ、私は沢山この魔法を使ってしまう。だから私にこの魔法を授けたのかもしれないわね‥。
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