第5話 見事にフラられました ACT 5
「結城汗臭いよ」
そっと僕の体に抱きつき、律ねぇは耳元で言う。
スリムな少し細身の体。それでも彼女のやわらかい胸が押し付けられるのがわかる。
「シャワー浴びておいで」
「う、うん」
「それとも一緒に浴びちゃおっか」
それには返事はしなかった。
ニコリとしながら悪戯っぽくいう律ねぇの顔を見て、また彼女の体を抱きしめキスをした。
「んもう、今日なんかあった?」
「……告ったら、振られた」
「告ったって、例の彼女に?」
「うん」
「そっかぁ、ようやく告ったんだぁ。で、終わったんだ」
「見事に―――――終わった」
「それはご苦労様でしたぁ。でも1年半の想いをようやく伝えたんだね。えらい!」
「でも、終わった。あっけなかったけど」
「そんなもんよ。恋なんてあっけないもの。そっかぁ振られたんだ、じゃぁまだ卒業できないね。私から」
「そういうことになるかな」
「困った弟ですね。私とは彼女ができるまで、ていう約束だったからね」
「そうだっけ? そんな約束してたかなぁ」
「んもう、結城。あなた本当に太芽さんの息子なの? 彼はそんなしらを切るようなことなんか言わないわよ。とても誠実な人なのに。どっかの誰かさんみたい」
「どっかの誰かさんって、律ねぇが前に付き合っていた彼氏のこと?」
「気になるの?」
「気にしたいって言ったら?」
ちょっと困った顔をして「年上のお姉さんをからかうんじゃありません!」その顔は少し赤らんでいた。
「もしかして怒った?」
「怒ってなんかいませんよ。それより早くシャワー浴びて夕食の準備しないと。私おなかすいちゃった」
「はいはいわかったよ。あがったら作るからそれまで待っていてくださいな。腹ペコの姉上様」
「もう、怒ってるのはどっちよ! わかったから早くして」
あきれるように律ねぇは僕に言う。
まぁ、まだ駆け出しなんだろうけど、父さんはとても頼りにしている。彼女が担当してからもう2年になるだろう。
今ではまるで家族のように僕らは付き合っている。
家族のようにと言っても彼女の立ち位置はちょっと微妙だ。
父さんの会社は小さいながらも相手は世界中だ。この地球上で行けるところ取引ができるところには出向き、日本に父さんが厳選した食材を輸入販売を行っているバイヤーだ。
もともと、大手商社で勤務していた。その時、フランス支社へ転勤になり母さんとフランスで知り合ったと聞いている。二人とも日本生まれの日本人だけど、知り合った場所がフランスであるとは、またグローバルな話だ。どういう
多分普通の夫婦と言えば弊害があるかもしれないが、あの二人は普通の夫婦より何かしらの強い絆のような愛で、結ばれているんだということを最近になって感じるようになった。
それがどんなことであったかは僕は聞いていない。最もその話になれば多分、父さんも、母さんも口は重くなる。フランスにいたころの話はほとんど僕の前ではしないからだ。
そして僕もそのことについては触れることはなかった。
多分、幼いころから、そのことについては触れてはいけないというのを、感じていたからだろう。
そして彼女、
恋していると。
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