第3話 見事にフラられました ACT 3
カンカンカンカン。踏切の音がホームまで鳴り響く。
向かいのホームには
この組み合わせ、入学したての時は僕と孝義の二人だけだった。それが今は戸鞠と杉村という女子が交じり合わさり、なんとなくまとまった僕らの仲間といった感じで、この私立森ケ崎高校の日々を送っている。
「なぁ結城」孝義がぼっそりという。
「気は済んだか?」
「ん? ああ、なんかこう今まで引っかかってたもんが取れたような感じかな」
「そうか、それじゃ、よかったんじゃねぇのか。結果はどうあれ、お前が少しでもすっきりできたんだったらよう」
「でもなぁ――――。」
「ま、仕方ねぇよ。さっきフラれちまったばかりなんだからようぉ。心の傷は時間が何とかしてくれんじゃねぇのか」
「へぇー、孝義君ってたまにカッコいいこと言う時あるよね」
「なんだよ戸鞠、おだてんなよ」
「別にぃ―、なんとなくそう思っただけ。ねぇ―笹崎君」
ガタンガタン。電車が風を巻きながらホームに入る。
電車のドアが開き、僕たちは車内に乗ると、すっと車内の冷房が体を包み込む。
孝義はドアのすぐ横の席にドカッと腰を落とした、その隣に戸鞠がちょこんと座る。
僕は、決まって、ドアのポールに背をよりかけ、スマホにイヤフォンジャックを差し込み、お気に入りの曲を聴く。
車内から手を振る戸鞠に気が付いたんだろう、反対側のホームにいる杉村が手を振っていた。
ガタン、電車が動き出す。
流れるように車窓からはホームが残像のように消えゆく。
スッと車窓に海が映し出される。いつもの景色だ。
もうじき夏になるんだなぁ。そんな空の色に浮かぶ雲を眺め、はるか遠くにかすむ水平線の先はどうなっているんだろうと、ふと、思った。
見えるところだけは何も変わらない。変わることはないだろう。でもその先は……まだ見ぬ。まだ見えぬその先には何が待っているのか。
……それは今の僕にはわからない。でも、その先の景色をこの目で見るためには、霞がかかるまだ見えぬその先に、自らが進まなければ見ることができない。
なんかセンチになっちまっている。
電車は学校から二駅目の駅に止まった。
この駅は……。三浦恵美がいる街の駅。
何度も通った街。そして何度も立ち寄ったあの河川敷の防波堤。
もう行くことはないのかもしれない。
多分行けば、僕の胸の中の傷はまた痛むと思うからだ。
でもあのアルトサックスの音は、いまだにこの耳に残っていた。
電車が動き出す。流れるホームの景色に、なんとなくもうここには来ないんだという思いが出て寂しかった。
川の陸橋を走る電車。
この大きな川を渡れば、また流れる景色の雰囲気は変わる。
ふと孝義の方に目を向けると、なぜか顔を真っ赤にしていた。居眠りをする戸鞠の頭が孝義の肩に寄りかかっていた。
ふぅーん、やっぱりな。孝義って戸鞠のこと好きなんだ。ほんとわかりやすい奴だよ。
僕の視線を感じたのか、孝義は神妙な顔をして
『もう少しこのままにさせてくれ!』と、なんか心の声が語り掛けてくるようだった。
まったく……。しょうがないなぁ。
陸橋を渡り、次の駅を過ぎれば僕と、孝義は降りなければいけない。
あと少し……。
このままにしてあげるか。
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