第30話 興亡

 後にハインリッヒは回顧録でこう記述したという。その時のフラマン王国の滅亡は帝国宰相の差し金に違いないという。帝国と二つの王国は互いに親戚関係があった。だから女系相続をトリニティ王国が認めると女系で繋がっている帝国の皇子も国王になれるようになる。だから王位継承法の改正を行うように働きかけたという。


 次に新たな国王として第三皇子だったヴィクターを即位させる計画だったが、そこで狂いが生じた。彼がある条件を出したのだ。自分は国王にはならないがキャサリンと結婚したいと主張したのだ。ヴィクターはそもそも帝位に就く可能性がなく、政治的野心がなかったので音楽といった芸術に身を捧げていたが、一目ぼれしたキャサリンの事が忘れられないというのだ。それに彼女の方が直系なんだから女王になるのが筋だと主張した。それで帝国宰相は妥協したが、彼は恐ろしい事を考えていたという。

 

 全ては証拠などないのでハインリッヒは推測であるとしているが、真相はこうだとしている。帝国宰相はホルスト一派の陰謀を事前に察知していたので、利用することにした。どう事態が転んでも帝国の利益になるように策謀をめぐらしたという。


 キャサリンが殺められたらフラマン王国を滅亡させる口実にし、その時はヴィクターを国王に即位させる。キャサリンが無事に女王になれる可能性もあるが、ホルスト派の動きからすれば間に合わない公算が大きかった。だから、唯一ホルスト派を押さえる事が出来るハインリッヒを帝国領内に呼びつけたとしていた。


 ちなみに、キャサリンが婚約破棄ではなく無事に婚約解消になった場合、ハインリッヒはこうしようと思っていたという。とりあえずヴィルヘルムの新たな婚約者はジェーンにするはずだった。なぜなら、ほかに候補者がいなかったからだ。フラマン王国の場合、王太子になる可能性が高い王子の婚姻相手は上位の王国貴族子女だったという。そのころ、ヴィルヘルムと同じ年頃の女性で婚約者がいなかったのが、ジェーンのほか数人いたが、王太子として評価が低い彼を選ぶのがいなかった。


 そのため、ヴィルヘルムはホルスト・ヴァイス伯の陰謀に加担しなかった方が、ジェーンと問題なく結ばれていたはずだった。もっともフラマン王国の支配体制は緩みが生じていたので、ハインリッヒの政治改革が実を結ぶ前に別の理由で帝国宰相に潰されていた可能性があった。その場合でもヴィルヘルムはジェーンとそれなりに幸せになったはずだといえた。


 だが、現実はキャサリンに危害を加えたため帝国宰相の陰謀が実行された。それに対抗する能力はフラマン王国になかった。王国は滅亡し、ヴィルヘルムは死よりも恐ろしい地獄を体験する事となった。全ては自業自得であったが。

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