第14話 葬儀

 理由は分からないがフラマン王国国王は一度もキャサリンの帰省を許さなかった。おそらく逃亡を恐れていたのかもしれない。ただキャサリンの両親の葬儀の時、許された。もしかすると自分が国王になる野望もあったからかもしれない。


 悪質な風邪の流行が収まったのちに周辺諸国の王族も参列する壮大な葬儀が行われた。葬儀にはヴィルヘルムと同行しフラマン王国王太子の婚約者として参列したが、ヴィルヘルムは葬儀が終わるとさっさと市内観光にいってしまった。キャサリンの両親たちを悼む気持ちはなかったといえよう。噂では良からぬ遊びに興じていたということだ。


 その行いに絶望したが、一番残念だったのは両親の遺体と対面できなかったことだ。亡くなって日数もたっているうえに流行病が死因なので感染するかもしれいないというのが理由だった。


 トリニティ王国で殆ど言葉を発する事がなかったキャサリンの気持ちが和らぐ時が来た。大聖堂で開催された帝国皇帝主催の追悼演奏会だった。その場には他の王族も参加していたがヴィルヘルムの姿はなかった。キャサリンはそれでは外交は出来ないだろうと考えてしまった。


 追悼なので何曲もの追悼曲が演奏されたが、ある曲で演奏するピアノの音にキャサリンが心を打たれた。その演奏者はヴィルヘルムよりも少し年上の男だった。奏でる音も美しかったが彼の姿も神々しく感じていた。もしかするとこれって一目ぼれなの? そう思ったが許されないことであった。いくら見向きもしないし興味もないだろうけど、あのヴィルヘルムが婚約者なのだから。


 それでも、彼の演奏はまさに神が奏でているように荘厳だった。その曲は神の元に魂が帰っていく様子を表現したものであったが、家族を失ってしまったキャサリンの心が浄化していくのを感じていた。それは天使にいざなわれているかのようであった。


 そのあとも追悼や鎮魂のための曲が演奏されたが彼が参加した曲以外は心に残らなかった。そのとき、キャサリンは思わずあの男の人に会いたいと願っていた。その願いはすぐに叶った。

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