第12話 道中

 キャサリンの命の火は消えようとしていた。昨夜開かれていた建国記念祭の会場から連れ出されたキャサリンは粗末な服に着替えさせられ北の刑場へとむかっていた。北の刑場にいけば国事犯としてキャサリンの肢体は引きちぎられるのだろう、でもその前に儀式があった。処女喪失の儀式だ。


 昔からこの国では、処女の血で刑場が穢されると不吉な事が起きるとされていた、それを防ぐために誰かと契りしなければ処刑できないとされていた。ようは純潔を散らすのだ。


 契りの相手は恋人に頼むことも出来るが、たいていは刑場の官吏が行うとされていた。貴族の場合は毒物接種による死刑が適用されるが、キャサリンは王族の婚約者の称号も剥奪されたので、一般の死刑囚と同じように処刑されそうになっていた。しかも四肢引き裂きという残酷な方法で。


 「どうせ殺されるのならこっそり娼館でも売り飛ばした方がいいんじゃねえんかよ」


 キャサリンを護送する囚人用馬車の御者は不謹慎な事をいっていた。彼はホルストの一味から脅迫された、そこらへんの馬車業者の男だった。


 「そうよな、殺されるぐらいなら・・・逃がしてやりたいな。でも仕方ないさ、あのバカ王子いや王太子に逆らえないしな。どうにかしたいなあ。

 そうだろう、そうだ。キャサリン様。一層の事一緒に逃げませんか? 北の刑場からトリニティ王国まですぐですから。もしかすると向かい入れてくれるかもしれませんよ」


 御者の横にいた下級の官吏らしい老人はそういった。彼もまた連れて来られたが、形だけの官吏なので、そこらへんの門番だった。ホルストはキャサリンを処刑すると決めていたが、ヴィルヘルムが速攻で処刑しろといったので、計画外の事をしなければならなくなった。


 「お気持ちはうれしいですが、わたしはもうトリニティ王国の王女ではありません。この国の・・・婚約破棄されましたが王太子の婚約者です。そのままで人生を終わらせたいです」


 キャサリンがそう言うと老人は涙を流した。


 「あなたのように美しく信念のある方を刑場にお連れするのは忍びない。せめて・・・ゆっくり行きましょう。そういえば、あなたがこの国にお入りになった時もこの道を通られたのですよね。本当に、このままあなたが生まれたところまでお連れしたい」


 そんな話が出来るのも囚人護送の馬車に警備の者がついていなかった。実は脅迫により役目を担わされた騎士が既に役目を放棄していた。あんなろくでなしの王太子の指示なんて・・・法による手続きなしでは出来ないというわけだ。

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