第10話 捕縛
若い男女にとって愛し合うのは互いに身体を貪るということが重要なのかもしれない。ヴィルヘルムとジェーンは建国記念祭のあと、契りをかわしていた。それは貴族社会では忌み嫌われる婚前交渉だった。そんなことをすればもし子供が出来たとき誰が父親か確定できないので後継者を決めれないためだ。しかし二人は関係ないと思っていた。そう結婚するんだからと。
「うまくいったなジェーン。最初どうやってあの女を排除するか悩んでいたけど君のアイデアのおかげさ」
ヴィルヘルムは息を荒げながらジェーンと抱き合っていた。
「ほめてくださり嬉しいです。殿下のお役にたてて」
ジェーンは淫らな顔を浮かべていたが、彼女の心は穢れていた。無実の罪でキャサリンを極刑にする陰謀を最初に提案したから。叔父のホルストに唆されたことであった。まさにホルストは背徳の毒の果実を食わせた悪魔であった。
「感謝している。もうじき親父たちも死ぬだろうから、君は王太子妃ではなく王妃にすぐなれるさ。そうしたら即位式に一緒に出よう」
二人の心にはキャサリンに一切の感情はなかった。邪魔な存在が消えたとしか思っていなかった。消えたものに何も感傷はなかった。二人は明け方近くまで何度も性的興奮による絶頂を身も心も迎えた。その時二人は未来永劫死ぬまで続くはずだと思っていた。真実の恋が。
二人は抱き合って眠っていた。使用人たちには昼近くまで休むから起こすなと申し伝えていた。だから二人の時間はそこまで続くはずだった。
ヴィルヘルムが目を覚ますと横にジェーンの寝顔があった。それは何度も見た光景であったが、婚約者と宣言して初めての光景は美しいと思った。これから真実の愛の相手と寝食を共にできると思うとうれしかった。きっと、死ぬまで続けられるんだと信じていた時だった。ドアをノックする音が聞こえた。
「なんだよ、なにごとだ!」
ヴィルヘルムは不機嫌な声をあげた。
「殿下! 起きてください! あなたを逮捕します!」
その言葉の意味がわからなかった。王太子を逮捕するなんて。
「なに寝言いっているんか? 俺は王太子だぞ、国王に次いで偉いのに逮捕できるのか? それに誰だお前は?」
その声に目が覚めたジェーンは急いで着替え始めた。せっかく余韻を楽しんでいたヴィルヘルムは不機嫌になった。
「申し遅れましたが、わたくしは近衛師団長のハーンです。国王陛下代理人から逮捕状が出されています」
「おい! ハーンとやら! 誰なんだそんなふざけた事をいうのは? 不敬罪でそいつを逮捕しろ!」
「国王陛下代理人はハインリッヒ宰相閣下です。陛下の委任状を行使して現在国事を執行されています」
「はあ? そんなこと俺聞いたことないぞ!」
「聞いてなくても、そうしてもらいます。国王陛下の御意志に従い行動しておられますから閣下は。とにかくドアを開けてください」
ヴィルヘルムはなにがどうなっているのか分からなかったが、面倒な連中だとしか感じていなかった。とりあえず、ホルストのところに行く事にした二人は現在いる部屋にある秘密の通路から脱出することにした。ここからとりあえず王太子執務室に行こうと思っていた。
二人は隠し扉を開け、秘密の通路を抜け執務室に入ったところ、そこは本来は護衛してくれるはずの近衛兵でいっぱいだった。
「王太子ヴィルヘルム! 伯爵令嬢ジェーン! 両名を国家転覆罪及び職権濫用罪で拘束する!」
「なんなんだよ! 呼び捨てするんじゃない! お前らこそ不敬罪だぞ!」
「お言葉ですが、あなたの王太子としての資格は停止されました。正式にはまだですがおそらく廃嫡です」
そういって二人の手は縄で縛られた。いま何が起きているのか正確に教えられないままに。
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