第6話 激走

 建国記念祭における婚約破棄劇が行われていたとき、宰相ハインリッヒ一行は帰国を急いでいた。条約そのものは、その時点ではフラマン王国にとって問題ないものであったが、留守にしている間にホルストに唆された王太子ヴィルヘルムが全てを破壊する愚かな企みをしていることを知らされたのだ。


 「帝国宰相もひとが悪いな! わかっているならもっと早く教えてくれたらいいのに」


 ハインリッヒは歯ぎしりをしていた。帝国政府はフラマン王国にいる婚約者キャサリンの扱いの変更を要求してきた。その事は国王夫妻と宰相以外は他言無用とされていたので留守を任せる宰相代理ですら教えていなかった。それが最悪の事態を招いていた。


 「とりあえず、早馬で知らせろ! 近衛師団にホルストの奴が勝手な事をさせるなと! そうしなければキャサリン様の命が!」


 そのとき、最悪な事を想っていた。キャサリンに何かがあれば確実にフラマン王国は消されると! 早馬は王都にある近衛師団本部に伝令を出した。でも、どんなに急いでも夜明け直前になりそうだった。


 「それにしてもキャサリン様を愛されているお方がいるなんて・・・」


 ハインリッヒは会談を思い出していた。その場には普段は宰相同士しかいないはずなのに、ブラインシュタイン帝国の第三皇子ヴィクターがいた。ヴィクターはキャサリンとの婚姻を要求してきたのだ! そんなことを認めさせようとする帝国にも裏があるのは当然であったが、前代未聞の事が起きてしまったわけだ。


 「キャサリン様の事を王太子どころか我が国の貴族どもは邪魔者扱いしているのだから、問題なかったのに・・・それに国王陛下を殺そうとしているだと、ホルストの奴!」


 帝国宰相、この男は侵略戦争こそ起こさないが、巧みな政治工作によって周辺諸国を次々と傘下に治める老獪な男だった。その男が狙っているのはキャサリンの実家であったトリニティ王国の主導権だった。現在はキャサリンの叔父が国王を兼務する同君連合を形成しているのだが、そこにヴィクターを送り込もうというわけだ。そのためにキャサリンが必要ってわけだ。

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