第13話 皇国交渉団来日
『あの船に大日本帝国交渉団が乗船しています。あ、見えますように団員の方々が降りてきています。』
団員が記者団に気づいたのか手を振ってきた。記者団のレンズが彼らを捉え、光が放たれる。記者団としては日本の諸外国の物理的喪失の中で、たまたま見つかった国は放送の種としてはとてつもなくいいものである。
二見港で待っていた内閣総理大臣の
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
西暦2020年1月5日。日本国の命運を決める重大な事前交渉が小笠原諸島父島二見港で行われようとしていた。
方や日本国外務省の勤続41年の大ベテラン外交官_
戸貝は緊張している。少し前まではセントビンセント及びグレナディーン諸島へのトリニダード・トバゴ共和国日本大使館からの出向を命じられ、事実上左遷されていた。しかし、恩人の叔母が危篤ということで急遽帰国していた。その中での日本の物理的な孤立、いつの間にか海外から切り離されて、諸外国が消えてしまった事態での国内の外務省の混乱を収めた功績から、厄介払いという名の昇進が行われ、今回事前交渉担当に抜擢された。
(これは骨が折れそうだ)
今回、事前交渉任された戸貝としては相手に対して『帝国』というその文字からいいイメージを持つことができないでいた。
しかし、仕事は仕事と割り切る。
「さて、担当者殿。帝国のことはある程度わかっているとは思いますが、誤解があるかもしれません。そうであったらこれからの交渉が困難になるかと思います。........そうですよね?」
そう言って帝国側が取り出してきたのはテレビだ。一緒にDVDも取り出している。
ん?
「大使さん大使さん」
「どうしましたか、担当者さん」
「そのバッグ中身どうなっているんですか~!?」
部屋に戸貝の叫び声が響いた。
「ほ、本当にすいません。そのバッグに驚いてしまいまして」
戸貝は落ち着くと自分のやってしまった事に絶望し、顔面蒼白となってしまった。
しかし運がいいことにこの部屋は記者による盗み聞きなどの情報の流出を防ぐために完全な防音室を使用しているので、今回のことが外務省に伝わることはない。
伝わって降格させられたとしても戸貝は気にすることはないが。
「いえいえ、気にしないですよ。安心なさって」
「は、はい」
(どう考えても弱みを握られたとしか思えない)
「それで、そのバッグは、一体何なんですか」
「まず、バッグとはこの鞄のことですか?」
帝国には和製英語というのが一つたりとも存在しない。当たり前のことだが日本語が存在しないからこういった細かいところで止ったり、質問されたりする。
とまあ、色々あったが事前交渉としてはいいことができたのではないかと戸貝は終わった後に考える。
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次回、メディア死す。
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