第5話 占守島守備隊
『謹みて、皆様とともに紀元2583年の輝く新春を壽ぎます。社団法人日本映像社
螢の光、窓の雪、
書讀む月日、重ねつゝ、
何時しか年も、すぎの戸を、
開けてぞ今朝は、別れ行く。
止まるも行くも、限りとて、
互に思ふ、千萬の、
心の端を、一言に、
幸くと許り、歌ふなり。
筑紫の極み、陸の奥、
海山遠く、隔つとも、
その真心は、隔て無く、
一つに盡くせ、國の為。
台湾の果ても、樺太も、
八洲の内の、護りなり、
至らん國に、勳しく、
努めよ我が兄、恙無く。
明けましておめでとうございます。今年も日本映像社千島放送局をよろしくお願いいたします。紀元2583年の初回放送は阿頼度島出身の阿頼度怜和放送員による阿頼度富士の初日の出をお送りします。阿頼度放送員、調子はどうですか』
テレビからは数年前に北海道放送局から分離独立した千島放送局の放送が聞こえてくる。現在時刻は午前6時50分。初日の出の午前7時00分まではまだ少し時間がある。その傍ら1人の兵が朝の牛乳を一口、一口と飲んでいたところにもう1人、人が来た。其人に気がつくと彼は牛乳瓶から口を離した。
「隊長、明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとう、伍長。今年はいい年になりそうだな。しかし、お前は結局郷里には戻らんかったか」
伍長はハハハッと苦笑いをした。本来は正月でもココ、占守島守備の任につくのは占守島に故郷を持つ者なのだがあいにく、伍長は昨年の正月の時に父とお見合い関連で喧嘩別れしてきたらしく家には居場所がないから帰郷しないようだ。
「隊長も相変わらずですよ。一応まだ隊長の時間ではないので着替えなくてもいいのにすでに着替えているんですから」
「兵は拙速を尊ぶというだろ。べつにいいじゃないか」
「しかし、さすがに早すぎますよ」
隊長の勤務時間は8時から。今はまだ午前6時51分だから兵は拙速を尊ぶとはいってもさすがに早すぎる。
「しかし、放送受信機は島にここしかないんだから見たくて早く来たんだよ」
放送受信機というのは我々の世界でいうところのテレヴィジョンである。最近極彩色の放送受信機が少し高いが開発されたらしいので、現行の放送受信機は少し安くなるとの見込みが立っている。隊長の家にも放送受信機が来る日は近い。
「隊長はこれが見たかったんですか」
伍長が受信機を指さす。
「そうだな。お前もそうだろう?千島の誇りの阿頼度の初日の出は見ておきたいからな。それに今年は金剛富士(ダイヤモンド富士の阿頼度版)が見られるらしい。初日からいい感じがしてくれていいな」
「そうですね。隊長」
『見てください。阿頼度山に太陽がかかろうとしています。遂に今年の初日の出を迎えます』
阿頼度山では遂に初日の出を迎えたようである。
平和の朝を迎え、誰もが今年を祝っていた。しかし、異変というのは突然やってくるものである。
午前7時00分00秒00,千島列島の占守島から、台湾島までの広範囲に地震、震度3が起きた。被害は軽微だったが占守島にて1つの変化があった。占守島のさらに北方に島が2島と巨大な艦船が2隻、確認されたのである。
「隊長、アレは一体何なんでしょう」
「俺にもわからん」
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