#26 ミランダの事情

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ライアンは事情を聞くために、疎遠にしていた姉ミランダを訪ねる。


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 ライアンの実家はナイツブリッジにあった。いまは姉のミランダが住んでいることもあり、ライアンはあえて寄りつこうとはしていなかったが、今回はその姉に会うため、実家の呼び鈴を押したのだった。

「姉さん、久しぶり」

「ここに来るとは、どんな風の吹きまわし? もしかして、このあいだのパーティのことで文句を言いに来たとか?」

「いや、実は頼みがある」

「あなたがわたしに頼み? めずらしいこともあるのね」

 ミランダが言い、脇に寄ってライアンを家のなかに招き入れた。

 ライアンとミランダは12も歳が離れている。母が亡くなった時、ライアンは5歳、ミランダは17歳。とっくに寄宿学校に行っており、家にはほとんど戻ってこなかった。かわいがってもらった記憶はあまりない。母の愛情を受ける時間を長く持てた姉を、ライアンは無意識にねたみ、そしてミランダもまた、ライアンが生まれたことで、母の寿命が縮まったと思っていた。反抗期もあって母の愛情を奪われたと感じていたはずだ。

 とはいえ、なにかという時は頼りになる姉だと心の片隅では思っていたし、ミランダも弟を保護しなければいけないという気持ちはずっと持っていただろう。ただ、それ以上に心が通う機会がないまま、ふたりともおとなになり、ミランダは奔放な青春を送ったのちに、いまの夫、ダン・ブラウンと結婚した。子どもはおらず、夫婦仲もよくない。いまは別居中だった。

 居間のソファに座り、ミランダも向かい側に座った。お茶が運ばれるのも待たずに、ライアンは話し始めた。

「ダンのことだ」

「ダン?」ミランダが顔をしかめる。「また、なにか意地汚いことをしているのね」

「まあ、そういうことだ」

「ほんとにお金に汚い人だから。というより、そういう一族なのよ。そこが一番耐えられないところ。もちろん、女ぐせが悪いこともあるけれど」

 ミランダがめずらしくため息をついた。

 ライアンはカミラに聞いた情報をミランダに打ち明けた。

「非常に汚い手を使って、一帯の地上げを行っている。地域の病院もその対象で、わざと経理担当者を送りこんで、借金をでっちあげた。アデルがその借金を返しつつあったんだが、たまたまぼくと、レオナルド・ヘイデンが同じタイミングで、すべての借金を肩代わりしようと裏で手をまわしたために、業者がよほど儲かる物件だと思いこみ、欲を出して、ほかの業者に転売した」

「ちょっと待って。そのアデルというのは?」

「病院の所有者の姪だ」

 ミランダの目がきらりと光った。

「もしかして、あの胸の大きい整形美人?」

「ああ、相変わらず鋭いな。だが、姉さんにしてはあり得ない間違いをした。彼女はなんの修正もしていない。あれが素のままの姿だ」

「うそでしょう? それであんなに美人なの? まあ、それは失礼したわ、わたしとしたことが。それなら、あれだけ怒ったのも当然だわね。それで、そのヘイデンというのは? あのレディ・ヘイデンの親戚?」

「ああ、甥だ。アデルの親友がカミラ・ヘイデンで、その兄のレオナルド・ヘイデンが、アデルに惚れこみ、借金を肩代わりして恩を売ることで、彼女をものにしようと企んだ」

 ミランダがうなずいた。

「なるほどね。それで?」

 渋面がにやにや笑いに変わる。

「それで、なんだ?」

「あなたはなぜ、借金を肩代わりしようとしたの?」

 さすがミランダ、するどく切りこんでくる。

「いい質問だ。ぼくはなぜ、アデルの伯父の借金を肩代わりしようとしたか? アデルが非常に優秀な部下だから。あの病院が、地域になくてはならない大切なものだから。その院長の伯父がアデルのただひとりの家族だから」

「ふーん?」

「わかっているよ。姉さんの洞察力にはかなわない。ぼくはアデルを愛している。結婚を申しこもうと思っている」

 ミランダがにっこりした。

「そういうことなら、まかせてちょうだい。全面的に手伝うわ。まずはダンに会わなければならないわね。わたしが離婚しないと言い張って協議は泥沼化しているけれど、離婚を呑むことを条件にこの件から手を引かせられるかもしれない」

「頼むよ、姉さん。業者の問題はぼくがなんとかする」



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