第36話 ギルドルク王国動乱④
「キャぁぁぁぁぁ!!」
「あなたぁぁぁぁぁ!!」
体を刺し貫かれた貴族達が倒れ込み、連れ合いの絶叫が響き渡った。
「うるさい連中だ」
ジルヴォルは刺し貫いた貴族に縋り付いて泣き喚く妻の延髄を容赦なく刺し貫いた。
「き、貴様!! 何ということを!! お前には人の心が無いのか!!」
オルタス2世がジルヴォルのあまりにも非道な行動を責める。しかし、ジルヴォルの視線を受けると次の言葉を発することができなくなった。
「人の心? それをお前が言うか?」
(まさか、こいつは知っているのか?)
オルタスの心にジルヴォルの憎悪のこもった視線と声を受けて、不安と恐怖に急激に覆われていく。
「フェリア=カールメイナ」
「あ……」
「知らないわけないよな? 俺の婚約者であった子だ。そして
ジルヴォルの言葉をオルタスは否定することができない。
「ザーベイル辺境伯家を食い物にするため、そして地方貴族を駒として都合よく扱うために、中央貴族の筆頭であるガルスマイス公爵家と縁戚にしようとしたのだろう? そうなると俺の婚約者であるフェリアは邪魔であると思い……殺した」
ジルヴォルの声はまさに憎悪の塊であり、それを聞くものは耳を塞ぎたくなるような凶悪さを感じずにはいられない。
「ま、待て!! 私はそんなことはやっていない!! そんな命令など出してはいない!!」
オルタスは必死になって弁解する。
「そのような妄言を信用するとでも思ったのか? 実行犯は捕らえて辿っていった結果、お前に行き着いた。ジング=マートルという連絡員の男が全て吐いたぞ」
「何だと?」
「ジング=マートルはお前の直接の部下ではないから知らないだろうな。だが、王族直属の男からの依頼を繋いだと言うことを吐いたぞ」
「し、知らん!!」
「お前が知っていようが知っていまいがそんなことはどうでもいいんだよ」
「な」
「大事なのはフェリアの殺害に王族が関与していたと言うことだ」
「……」
オルタスは大量の冷たい汗を流しながらガタガタと震え始めた。
「人の心が無い? 当然だろう……俺が人であった事など貴様らのせいで忘れたわ!!!」
ジルヴォルの言葉に中央貴族達の顔が絶望に染まった。この時完全に貴族達は自分達がもう助からないことを悟ったのだ。どのような交渉もジルヴォル達には効果がないと言うことを察したのである。いやより正確にいえば理屈抜きで察してしまったのである。
「オルタス、お前達王族にはまだ
ジルヴォルの言葉にとらえられていた貴族や騎士達はビクリと身を震わせた。自分達が助からないことを確信したと言っても決定的な言葉が発せられればやはり恐怖が桁違いと言うものである。
「ま、待ってください!!」
その時ルシオラがジルヴォルへと縋り付いてきた。
「ジルヴォル様、お許しください!! 確かに私達は罪を犯しました。でも……だからこそ償いたいのです!!」
ルシオラの姿は真摯に反省し罪を償おうという姿に見えた。
「ルシオラ……」
ジルヴォルの口からポツリとした呟きが発せられた。その様子に貴族達も一縷の望みを見出した思いである。
「フェリア様のことは本当に悲しいことです……ですがそれに憎し……あ……」
ルシオラは助かるためにジルヴォルへ必死の訴えを行うが、それは途中で中断された。
ジルヴォルの槍がルシオラの腹を刺し貫いていたからだ。
「どうした?悪いと思っているのだろう? ならばどのような状況であっても謝罪を続けることができるはずだ」
ルシオラの腹を刺し貫いたジルヴォルは冷たく言い放った。自分の状況に気づいたルシオラは苦痛が襲ってきたのだろう。その場にうずくまった。
「臭い息を撒き散らしながらフェリアの名を呼ぶな」
ジルヴォルは蹲るルシオラの腹から槍を引き抜くと次に容赦なくルシオラの延髄を刺し貫いた。
ルシオラはビクンビクンと二、三度痙攣した後動かなくなった。
「所詮、お前達の謝罪などその程度のもの。口だけのもの……全くもって無価値だ」
ジルヴォルの言葉は吐き捨てるという表現そのものである。
「フェリアの名を利用しようとしなければ生かしておいてやってもよかったのだがな」
その言葉にジルヴォルの中でフェリアという少女がいかに大切であったかわかるというものだ。ルシオラはそれを不躾に撫で回し、容赦なく処刑されたのである。
「ルシオラァァァ!!」
デミトルの絶叫が響き渡った。
そして次の瞬間にジルヴォルの槍がデミトルの太ももを刺し貫いた。
「ぎゃあぁぁ!!」
「お前は王族だ。だからここでは始末しない。生まれに感謝しろ」
ジルヴォルの言葉はデミトルにとって王族ということ以外に価値などないということを意味していたが、デミトルにとってその言葉の意味を察するような状況ではないのは確かである。
「騎士と衛兵はこちらに鞍替えしたければ申し出ろ」
ここでジルヴォルは捕らえてある騎士や衛兵達に宣言した。ジルヴォルの言葉は悪魔の囁きであると言っても良い。生存が絶望視されていたところに生存の可能性という甘い毒に抗えるものなどほとんどいない。
衛兵はほぼ全てが手を上げた。これは衛兵は平民出身がほとんどであり貴族のとばっちりで殺されてはたまらないという意思の表れである。
それに対して騎士達は準貴族のような立ち位置であり、手を上げるものは三分の一というところである。
「そうか。お前達は裏切り者ということになる。当然だが、後戻りはできないようにしておかねばなるまいよ」
ジルヴォルの言葉に手を挙げたもの達は顔をこわばらせた。
「手を挙げなかったものを殺せ」
「な……」
ジルヴォルの言葉に手を挙げた者達は縋るような目でジルヴォルを見る。だが、ジルヴォルの表情はそれに応えるつもりが一切ないことを物語っている。
「ひ」
「や、やめろ」
手を挙げなかった者達は怯えた声で命乞いをするが甘い毒に毒された者達はそれを無視する。手渡された武器を振り上げかつての仲間達へ振り下ろした。
「ぎゃああああああああああ!!」
目を覆うような惨劇が展開され、王族達はそれを呆然とみていた。
「よし、お前達はあちらで控えてろ」
ジルヴォルの命令に衛兵達は武器を落とし、トボトボと歩き出す。その思い詰めた表情はまるで幽鬼のようである。
「さて、仕上げだ。貴族どもを皆殺しにしろ」
『応!!』
ジルヴォルのこの命令を待っていたとばかりに部下達は貴族達に斬りかかった。
「ぎゃあああああああ!!」
「きゃああああ!!」
「やめてくれぇぇぇえ!!」
絶叫が響きわたり貴族達の血が周囲に撒き散らされた。
「これで
ジルヴォルはニヤリと嗤っていった。
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