第24話 侯爵は報復の刃を振るう②

「レオン、来てくれたのか!!」

「レオン、ここから出すようにジオルグに言ってちょうだい!!」


 レオンの姿を見たガーゼルとアルマダは鉄格子に飛びつくと、鬼気迫る表情で言った。


「落ち着いてくれ、二人とも」

「落ち着けだと!! 私達はこんなところにもう三日もいるんだぞ!!」

「そうよ!! 憎たらしいあの女の息子が私達をこんなところに押し込んだのよ!! 許せないわ!!」

「二人とも話を聞いてくれ!!」


 レオンの大声に二人は口を閉じた。


「二人とも今の状況を分かっているのか? すでにジオルグは二人の処刑の法的な手続をとった。国王陛下の裁可ももらっているという話だ」

「な……」

「そ、そんな!! お兄様は何をしているの!?」

「二人の実家の子爵家は代替わりした」

「代替わり……だと?」


 レオンからもたらされる情報に二人はゴクリと喉を鳴らした。二人は断罪時に気を失い目が覚めたときには既に地下牢に入れられていたのだ。外がどうなっているかなど一切情報の入らぬ状況に不安な日々を過ごしていたところ、突然出るように言われるとそのまま護送用の馬車に乗せられて、このレグノスの牢屋に入れられたのだ。


「ああ、だがジオルグは二人の処刑について、迷っているようなんだ」

「何?」

「やっぱり実の父を処刑するのに躊躇いがあると俺は見ている」

「ほう……やはりそうか」


 レオンからの思わぬ情報にガーゼルはニヤリと嗤った。


「ああ、ここで反省の色でも見せていればジオルグは助命する可能性がある」

「ちょっと待ちなさい。私はどうなの?」


 そこにアルマダが不安そうに声をかけてきた。ガーゼルと違いアルマダは血のつながりがないために不安となったのだ。自分だけ処刑されてはたまらないという心境だろう。


「大丈夫だ。母上も必ず助かる」

「ど、どうしてそんなことが言えるの?」

「ジオルグは二人の態度次第では刑罰を改めると言っていたんだ」

「本当なの?」

「ああ、確かにそういった」


 レオンの様子に二人はお互いにニヤリと嗤った。この二人はこの状況においてもジオルグを甘く見ているのだ。


「とりあえず、二人とも殊勝な態度でいてくれ。そうすれば俺がジオルグに減刑を掛け合うから」

「わかった」

「あの女の息子に頭を下げるのは癪だけど仕方ないわね」


 レオンの訴えに二人は下卑たみを浮かべた。


「とりあえず二人は俺が反省を促したことで自分達の罪を自覚し、悔いているという話をしていくから、使用人達にも殊勝げな態度で接してくれ」

「わかった。頼むぞ」

「わかったわ。レオン、あなたの言うとおりにするわ」

「良かった。もう少しの辛抱だ。減刑されればザーフィング家とは縁を切ってやりなおそう」


 レオンはそう言うと二人を残して牢屋を後にした。


「くくく……ジオルグめ、どんなに冷徹ぶっても所詮はガキだな」

「ええ、なし崩し的にもう一度ザーフィング家を乗っ取ってやるわ。今度はしくじらないわ」


 二人はニヤニヤとした醜悪なみを浮かべた。


 * * * * *


「失礼します」


 私が執務室で紅茶の薫りを楽しんでいたところに、レオンが入ってきた。


「二人の様子はどうだった?」


 私は紅茶の薫りを楽しみながらレオンに問いかける。正直な話、レオンなどにこの至高の時間を邪魔されたくはないのだが、私の掌の上で踊ってくれている惨めなアホウを教育・・する必要があるので、相手をすることにした。


「はい。私が二人に罪の自覚を持つように言うと二人は自らの行いを悔いているようでございました」

「そうか……母上を殺害したことを悔いていたか」

「はい。ジオルグ様……よろしいでしょうか?」

「なんだ?」


 私を気遣うようなレオンの声色が限りなく不快である。まぁすぐにこいつの得意げな表情が絶望に変わるのは間違いないので、ここは抑えることにする。


「はい。ひょっとしてジオルグ様は家臣の手前、父上と母上を断罪せねばならないのではないですか?」

「何?」

「ジオルグ様は本当は二人を処刑したくないのではないですか?」


 私は戸惑うような表情を浮かべた。あまりにもお花畑すぎる思考回路だ。私はさっきまでの寛大な気持ちであしらおうと思っていたが、この気持ち悪すぎる思考回路に一気に忍耐力が蒸発してしまった。


「復讐は何も生みません!! ジオルグ様が虚しくなるだけです!!」

「レオン……それ以上言うな」

「いいえ、黙りません!! ジオルグ様、復讐などジオルグ様のためになりません!!」


 私の言葉を聞いたレオンは構わずに続けた。どうやらレオンは私の心が動いていると考え、たたみ込むつもりのようだ。


 不快だ。黙らせるか。


 私はそう判断すると裏拳をレオンの顔面に入れた。


 バキィ!!


 破裂音が発すると同時にレオンの顔がのけぞった。私は次の瞬間、レオンの胸ぐらをつかむとそのまま引き倒し、顔面を机にたたきつける。


 ゴガァ!!


「レオン、私は黙れと言ったのだ。何を調子に乗っているのだ?」

「は、え?」


 遅れてきた苦痛にレオンは顔を歪ませながら戸惑いの声をあげた。


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