第25話変わり身大魔神

「いやー今回も楽しかったな!」


 先頭を行くルリエッタが振り返る。


「戦わずにクリアするクエストもあるってのはいいな。スピカがいたおかげで、戦闘が始まったかのような演出も簡単だったし」


 プレーヤー二人で連勝して勝負を決めるか、騎士姫の特性を使って勝つか。

 クエストは、この二つの道筋がクリアへの流れなんだろう。


「翔太郎が血涙を流しながら『俺は見ない!』と叫んだところは最高だったぞ」

「思い出させるなって」


 あのオークのおっさん、仕草が完璧に女子だったんだよなぁ……。

 本当に、本当に勝てて良かった。


「翔太郎くん、もらったスキル書を見てみようよ」

「ああ、そうしよう」



 スキル:【食いしばり】

 説明:自身の残りHPを超える攻撃を受けた際に、自動的に発動するスキル。

 効果:一回の戦闘につき一度だけ、HP1を残してこらえる。



「なるほど……」


 いいスキルだな。

 何気に俺たちは皆HPが低いから助かる。


「これ、雪村が回避をミスっても即死せずに済むってことだよな」

「おおー、それはいいな」

「ただ【てきのわざ】を覚えるのにもかなり有効なんだよなぁ。喰らって覚えるにしろ、見て逃げるにしろ」


 喰らっても即死しなくなるってのは大きい。


「賢者にはあまり効果がない。魔法は詠唱中に攻撃されたら解除されるから、時間稼ぎにはなりえない」


 なるほど、そうなると使い勝手がいいのは俺か雪村になりそうだな。


「何かきっかけがあるまで保留にしておく?」

「そうしよう」

「それとね、行ってみたいクエストがあるんだけどいいかな?」


 その言葉に、早くもルリエッタが目を輝かせ始める。


「翔太郎くんたちに出会う前に見つけたんだけど、一人だと無理そうだったからそのままにしてたんだよ。四人なら何とかできるかも」

「いいんじゃないか?」

「忍者の里に近い場所だから、流派再興に役立つスキルがもらえるかもしれない」

「……流派再興?」


 スピカは首を傾げる。


「そっか、スピカちゃんには説明してなかったね。私はゲームの外でも忍者なんだよ。京都の奥地でひっそりと始まった由緒ある流派なんだよ」

「すごい」

「あの源義経を助けたこともあるんだから」

「それもすごい」

「あんまり知られてないけど、伊賀や甲賀に負けない歴史を持ってるの」

「なんていう流派?」

「ぽむぽむ流忍術」

「…………」


 スピカ、無言。

 まあ、そうなるよな。

 本当にオチが酷いんだよ。これさえなければもう少し信じられるのに――。


「カッコいい」

「う……嘘だろっ!?」

「スピカちゃぁぁぁぁーん!!」


 まさかの反応に、雪村がスピカに抱き着く。

 こんな話を真に受けるなんて……意外と素直なんだな、スピカって。


「忍者は普段もやっているの?」

「もちろんだよ! ぽむぽむの隠密を極めれば学校帰りに遊んでいても見つからないし、体育祭の途中で帰ってもバレないんだから!」


 貴重な忍術を何に使ってんだ。


「ぜひスピカちゃんも門下生になってよ!」


 興奮気味にまくし立てる雪村。


「……どうしたの? スピカちゃん」

「体育祭の途中で帰ってもバレない隠密。もっと早く忍術に出会いたかった……」


 そう言ってスピカは、遠い目で天を見上げた。



   ◆



「こりゃまた、いかにもクエストがありそうだな」


 雪村に連れられてやって来たのは、山中にある長い石段だった。

 山寺にでも続いてるのかって感じの階段は、なかなか登りごたえがある。


「おーい翔太郎! 頂上が見えて来たぞー!」


 先行したルリエッタは、上段でぶんぶん手を振ってる。


「大丈夫か、スピカ」

「……問題ない」


 問題しかなさそうな顔で言うスピカ。

 なるほど、体力系はからっきしなんだな。

 スピカに合わせて階段を上がっていくと、見えてきたのは山門だった。

 苔の生えた雰囲気ある門をくぐると、本殿の前にはどこか影のある爺さんが一人。


「忍の者か」

「はい」

「この先には、秘伝の巻物が置かれている。ただしそこには八体の大魔神像が待ち構える。そこでお前は、忍としての覚悟を試されることになる」

「覚悟ってなんだ?」

「仲間は三人か。ちょうどいい、身代わりの宝珠を持って行け」


 爺さんが取り出したのは、四つの宝玉。

 赤い宝玉が一つと、青い宝玉が三つ。


「赤い宝玉を持つ者に危機が訪れると、青い宝玉を持つ者と入れ替わる」


 入れ替わる? どういうことだ?


「忍たる者、全てを犠牲にしてでも任務を遂行せよ」


 そう言い残して謎の爺さんは、風と共に姿を消した。


「さすが忍者のクエストだけあって、演出がカッコいいなぁ」

「さっそく入ってみよう!」


 そう言ってルリエッタが、本殿の扉に手をかける。


「たのもー!」

「おお、すげえ……」


 長さ五十メートルほどの本殿の真ん中に、石畳の道が一本。

 その左右には、交互に四体ずつ計八体の大魔神像が並んでる。

 高さは五階建てのマンションくらいか。

 それぞれ大きな剣を持っているせいか、迫力がすごい。


「この先に巻物があるんだろうけど……これ、絶対動くよな」

「絶対動く」


 スピカが共感の声をあげる。

 ゲーム好きならそうとしか思えない構成だよな、これ。


「でもまあ、雪村の回避力なら問題ないだろ」

「任せて。どんなスキルがもらえるのかなぁ」


 意気揚々と先行する雪村に続く形で四人、石畳の道を進む。


「来たぞ!」


 すると案の定、手前の大魔神像が動き出した。

 その太い腕で、勢いよく剣を振り上げる。


「避けろ雪村!」


 大魔神の狙いは明らかに先頭の雪村。

 それにもかかわらず、雪村はその場を動かない。


「雪村? どうしたんだよ雪村!」

「足が……動かないッ!!」


 硬直したままの雪村に、容赦なく振り下ろされる剣。

 巻き起こるド派手なエフェクトが、その攻撃力の高さを物語る。


「雪村ああああ――っ!!」


 大魔神は、元の姿勢に戻っていく。そして。


「……あ、あれ?」

「なんだ、回避してたのか」


 目の前でぽかんとしてる雪村に、思わず安堵の息を吐く。


「でも足が全然動かなくて、避けた覚えもないのにどうして…………あ」


 突然、雪村の表情が凍り付いた。


「ああああああ――ッ!!」

「どうしたんだよ」


 俺の問いに、雪村は震えながら指を差す。

 その先に視線を向けると、そこには血みどろになって倒れ伏す――――ルリエッタの姿。


「ル、ルリエッタ? どうしたんだルリエッタああああーっ!!」

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