第641話 俺と大蛇

取りあえず一旦炭焼き小屋へ戻ると、俺とキーコは着替えを済ませることにした。

俺は外でシャツだけ着替えると、炭焼き小屋の中でキーコが着替えているあいだに、何かあれば俺を呼ぶようにウサ子へ頼んでおいた。


何かあるとは思わないが、何か嫌な予感がする。そして俺の場合、うれしい予感は当たらないが、嫌な予感はよく当たる。


外でウサ子の頭を撫でながら頼みごとを終わらせると、【任せといて】って、静香におお見得みえを切られた・・・おまえに頼んだんじゃねぇ。

だけど、不安な表情を出さないで耐えてるようなので、静香の頭も撫でておいた。


「二人とも安心しろ。元の世界へ戻る目途めどが立ったからな、近いうちに必ず連れて帰るからな」

「ホント? 紋次郎ってやっぱり頼りになるね。無事に戻れたら、ばあちゃんに頼んで家賃をタダにするから、前の部屋にも戻って来て」


阿呆あほう、勝手な事を言ってると、大家のばあさんにまたゲンコツされるぜ」

「またって言わないでよ。紋次郎のせいで、わたしがどれだけゲンコツされたか、あんた知らないでしょう」


「あのな静香。それはおまえが大家のマスターキーを使い、俺の部屋に無断で出入ではいりしてたからだろう」

「だって仕方がないじゃない。あの頃は紋次郎だけが、わたしの遊び相手だったんだから」


「いいか静香、おまえは子供で俺は大人。変な誤解をされるから、遊び相手とか言うな。じゃあ、キーコの着替えが終わったようだから俺は行くけど、蘭子さんと小桃さんの言うことを聞いておとなしくしてろよ」


着替えの終わったキーコが出て来たので静香との話を打ち切ると、俺とキーコは真貝の屋敷に戻る蘭子さん達を見送った。

これでなんとなく身軽になった気分だ。また妙な化け物が出て来ても、キーコだけなら俺が守ってやれる。


なんて考えていたが、俺は守る方ではなく守られる方なのに、相変わらず自己認識が甘かった。


キーコとふたりで滝のある水場へ行くと、待っていた大蛇おろちをお供にして奥にある湖を目指すが、空に浮く龍神と違いニョロニョロ進む大蛇おろちが、俺のヘビ恐怖症を刺激する。


「おい大蛇おろち、俺はあるヤツのせいで、死ぬほどヘビが怖い。だからニョロニョロするな!」

「ちょいちょいちょい、紋ちゃんあんた、ヘビのワシにニョロニョロするなって結構な無茶言うのう。でも、なんでじゃろう? あんたに何を言われても、鼻で笑って無視できるんじゃ」


「このヤロウ、言わなくていい事まで言いやがって。おまえがそういう態度ならチクってやるぜ、大蛇おろちが協力しなかったって、小桃さんにチクってやるぜ」

「あっと、そりゃあいけん。小桃のお供え物は旨いけぇ、余計なことを言われると、旨い物が食えんようになる。じゃけど、ニョロニョロせんと前に進まんけぇ、そこは大目に見てくれんといけんで」


「ちッ、まぁいい、その代わり、なるべく俺の視界に入るな。あとな、半透明な赤い石を見つけても、絶対に喰うな。喰うと化け物になるから、あまちゃんに頭を斬り落とされるぜ」

「こわッ・・・って、あまちゃんって誰ねぇ? 知らん人の名前を出されてもワシはピンとこん」


「あまちゃんはあれだ。おまえの本体を退治した素戔嗚すさのの姉ちゃんだ。常におまえを監視してるふしがあるからな、注意した方がいいぜ」

「げッ、あのさけかめを用意した素戔嗚すさのの姉ちゃん・・・イヤじゃ、あの酒の匂いを思い出しただけでワシは死にそうになる。紋ちゃん、変な人を呼ばんとってね」


「安心しろ、あのかたは俺も苦手だ。そう言えば、おまえは歪みの狭間にで産まれたんだろう。どういう感じで産まれたのか教えてくれない?」


龍神は【ワシは歪みの狭間で産まれた】って言っていた。それについて俺は確認しておきたかった。

俺たちが歪みの狭間に呑み込まれて過去へやって来たのなら、歪みの狭間で産まれたと言っていた龍神も、実は未来から過去へやって来たのではないだろうか?

仮にそうならコイツの正体って、遺伝子操作をされて未来で作られた生物兵器だったのではないだろうか?


未来から来た生物兵器なら、言葉を喋る理由も成り立つ。

大蛇がどういう感じで産まれたのか、俺が答えを待っていると、大蛇のヤツは首を斜めにしていた。


「あのな紋ちゃん、ワシって歪みの狭間で産まれたん? ちゅうか、あげな所でどうやって産まれたんじゃ?」

「だ~~ッ、俺じゃなくて、オメエが言ったんだよ! なんかムカつくから、憐れんだ目で見るのはやめろ!」


「にゃははは、初めて見た時から思っとったけど、やっぱり紋ちゃんは面白いのう」


うん、コイツが歪みの狭間で産まれた話は、きっとホラ話だ。

だって、こんな生物兵器が居たら制御する方の精神がたない。

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