第348話 足音

桃代とキーコ、それから苺、なんでおまえ達がここに居る? どうやって俺より先にここに来たんだ?

もしも、男達の幽霊がいたら、取り憑かれる危険があるのに、桃代はなんで俺の忠告を無視した? 

もしも、化け物が生きていたら、襲われる危険があるのに、キーコはどうして俺の言うことを聞かない?

苺、おまえは俺の頼み事を守り、桃代と一緒に居るようだが、そういう事ではないだろう。

危険があるかも知れない場所に、桃代を連れて来たらダメだろう。


言いたい事は、クルミにくっ付くひっつきむし虫の数ほどあるが、俺はあきれて言葉が出てこない。


言葉を掛けられず、茫然と立ち尽くす俺に気づいた桃代が駆け寄ってくると、手を引かれて河原に連れて行かれた。


「もう、遅かったわね。あ~~ッ、紋ちゃんもクルミもひっつき虫だらけじゃない。いま取ってあげるから動かないようにしなさい」

「・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・」


「あたしは後ろ側を取りますから、桃代姉さんは前の方をお願いします」

「・・・ ・・・ ・・・ ・・・」


「では、わたくしはクルミのひっつき虫を取りますので、紋次郎さんはお二人に任せます」

「・・・ ・・・ ・・・」


「ワシの背中に乗れば、そげなモノはくっ付かんのに、紋ちゃんは相変わらず無駄な事をさせるのう」

「・・・ ・・・」


「きゅ、紋次郎君どういう事なんでしょう? 元々こういう予定だったんですか?」

「・・・」


いま俺は、自分を落ち着かせる為に大きく息を吐き出している・・・きっと桃代たちは車で来たんだ。

駐車場から聞こえた話し声は桃代たちだったんだ。

何時いつもの明るい声ではなく、悪巧わるだくみを話す不穏な声だったから、桃代と気付かなかったんだ。

悪巧わるだくみの一環として、駐車場から龍神の背中に乗り、川に沿ってここまで来たんだ。


なにせ、姿が見えないからな、龍神がどんな行動を取っていたのか俺にはわからない。

確かにここまで誰とも会わなかった。それでも気を付けないとダメだろう。誰かに見られたらどうするつもりだ! 


「桃代さん、どういうつもり? 俺の忠告をことごとく無視して・・・オイラ、ちょっと怒ってますぜ」

「え~~~怒んないでよ。紋ちゃんが心配だったから来ただけだなのよ。それにね、昨日ピクニックに出掛けた龍神様に、この辺の様子を見て来るように頼んでおいたの。それでね【男の幽霊は居なかった】って、確認してもらってたから来たんだよ」


「そうなのか龍神。それならどうしてそれを俺に伝えてない? 伝える時間はあっただろう」

「あのな~~紋次郎。本来なら【男の幽霊がどうなっとるか】確認するように頼むんは、桃代さんじゃのうて、あんたの方じゃ。それじゃのに、ワシの落ち度みたいに言わんでくれるか」


「ぐッ、このヤロウ・・・わかったよ、おまえがそういう態度なら俺にも考えがあるからな。おまえには弁当を分けてやらない」

「げッ、それは違うじゃろう。ワシは桃代さんの命令を聞いただけじゃ。文句があるんじゃったら桃代さんに言いんさい」


「ちッ、もういい! いいかッ、おまえ達! もしも、化け物が出たら龍神に押し付けてすぐに逃げろ」

「うん、まあ、それでええんじゃけど・・・あのな紋ちゃん。【押し付けて】じゃのうて、【まかせて】にしてくれんか」


「いいか龍神、今朝も俺のおかずを半分食ったくせに、文句が言える立場かッ。でもまあ、いざという時は、おまえを頼りにしてる。何時いつものようにフザケてないで、ちゃんと見張っていろ」

「それじゃったらええけど・・・あとで、弁当を分けてな」


来てしまったからには仕方がない。

桃代とキーコから目を離さぬように龍神へ言い聞かせ、ひっつき虫を取り終わった二人におれいを言うと、注意もしておく。


それから近くで小枝を拾い集めると、安全な場所で火をおこし、火に当たりながら、この河原の事を聞いてみた。


「なあ桃代。ここが楓の襲われた場所なのか? この辺で水晶が採れるのか?」

「まさか、もっと上流だと思うわよ」


「そうなの? じゃあ、さっさと上流に行こう。こんな所でのんびりしてる時間は無いからな」

「ちょっと待ちなさい。まずは、話しておきたい事があるの。それを聞いてからにしなさい。それと、紋ちゃんは楓の話に引っ張られないようにしなさい。あの場では、腕を探す、ミイラ化してる、なんて言ったけど、見つかる可能性はひとつ。貯食ちょしょく行動こうどうをする動物が、化け物に含まれている場合だけなんだから」


「んっ? ちょうしょくこうどう? オイラ、ちゃんと朝ごはんを食べてきましたぜ」

「あのね、朝食を食べる行動ではなくてね、貯食ちょしょく行動こうどう


「へっ、あ~~なるほど、オイラ、桃代さんがここに居てビックリはしたけど、そこまで酷い衝撃は受けてませんぜ」

「あのね、それはチョ~ショックな行動。いい紋ちゃん、食べ物をめる行動が貯食ちょしょく行動こうどうだからね」


「あ、そうですか、そういう意味ですか。それで、貯食ちょしょく行動こうどうをする動物が含まれてるって、どういう意味?」

「うん、それを話す為に、ここに集まったの。まずは、わたしの考えを伝えて、それを踏まえて行動してもらうわよ」


なんだろう? 化け物は死んでいる。桃代がそう言っていたのに、妙な焦りを感じる。

やはり、化け物は死んでないのだろうか?


もしかして、ここに来る途中で聞えたあの足音は、化け物の足音だったのだろうか?

龍神の背中に乗りここまで来たのなら、桃代たちが枯れ草を踏んで、音を立てるのは無理だからな。


俺の勘違いかも知れないが、油断しない方がいいな。

だから、貯食ちょしょく行動こうどうを知らなかっただけで、そんなあきれた顔で、いつまでも俺を見続けるな龍神、それから苺。


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