第257話 安全装置

なんだろう? たいして深くない森なのに妙に薄暗いし、音が無い。

風が吹き抜けながら枝木をあおり、木の葉がざわめく音もない。

秋なのに、虫の鳴き声すら聞こえない、いくらなんでも静か過ぎる。


苺以外は誰も居ないはずなのに、誰かに監視をされてるような、嫌な視線もまとわりつく。

何度まわりを確認しても、誰も居ないのにだ。


森を進みながら、俺は帰りの道を考えてコンパスを確認するが、磁場が狂っているのか針がクルクル回っている。

ちなみに、スマホは圏外になっていた。


富士の樹海じゃあるまいし、どうして磁場が狂い、なんで圏外になる?

まわりの様子も確認するが、何処どこから森に入ってきたのか、すでにわからない。


もしかすると、この付近にはUFOの秘密基地があり、磁場を狂わせ、妙な妨害電波を出してる所為せいでスマホが繋がらない? 

まさか! 苺はそのUFOの中に居て、変な改造手術を受けている?


気味の悪さや帰り道の不安など、このましくない状態の所為せいなのか、相も変わらずバカな事を考える。

まあ、龍神が一緒に居るおかげで心強いし、何が起きても大丈夫だろう。


さて、今回は俺に非は無いので、いつもの人達を見つけても、桃代に怒られる心配もない。

俺はヘビに警戒をしながら、結構気楽な気分で森の捜索を続けた。


今はどこら辺に居るのだろう? そこそこ奥までやった来た気がする。

ここまで苺の手掛かりは、まるで見つかってない。

まあ、間抜けな俺が見つけられないだけで、龍神はそろそろ何かに気付いているかも知れない。


「どうだ龍神、そろそろ苺の足跡や何か別の手掛かりを見つけたか? 今回はおまえだけが頼りだからな」

「あのな紋ちゃん。梅さんが作ってくれた今日の昼飯の梅うどん。あれな、うまかったじゃろう」


「おう、そう言えばそうだな。あの梅干しな、梅さんが漬けたモノらしいぜ。あの大きな梅干しを少しずつかじりながら、うどんをすすると何杯でも食えるよな」

「そうなんじゃ。ワシは四回もお替りして、つゆまで全部飲んでもうた。腹いっぱいじゃ」


「うん、まあ、良かったな。それで苺の手掛かりはどうだ? ヤツの匂いを見つけたか?」

「じぇけぇね。旨かったから、慌ててうどんを食べたでしょう。ワシはちょっと舌に火傷をしてしもうたんじゃ」


「バカだな、桃代たちの分も余ってたんだから慌てる必要は無いのに、ゆっくり食えば良かったんだよ。それより、早く苺を見つけないと、暗くなるとこの森から出られなくなるぜ」

「ほじゃけぇ、舌を火傷したって言うたじゃろう。紋ちゃんはワシの話を聞いとるんか?」


「なんか、持って回った言い方だな。何が言いたいんだ龍神。まさかとは思うけど、舌を火傷したから匂いがわからない。なんて、今更言うなよ。俺も行方不明者になるぜ」

「それは大丈夫じゃ。ワシは空を飛べるけぇ、遭難する事は無い。じゃけど、紋ちゃんは高い所が苦手じゃろう。その時はワシが助けを呼んでくるけぇ、ちょっと待っといてくれる?」


「いいか龍神。もしも、助けを呼びに行くと、おまえの信用はガタ落ちだぜ。火傷をしないように、明日から冷や飯を食う事になるぜ」

「おっと、それはマズいのう。ワシは熱い食いもんを、ハフハフしながら食うのが好きなんじゃ」


「あのな龍神。言葉通りに受け取るな。冷や飯を食うって言う意味は、冷遇されるって言う意味だぜ。今後は【母屋でくつろぐ】なんて出来なくなるぜ」

「うっ、それじゃと、紋ちゃんのおやつをちょろまかすのが難しくなる。それはイヤじゃ。紋ちゃん、早う苺を見つけて」


「おまえは、本当にシバくぞッ! 【ワシに任せとけ】って、自信満々だった態度は何処どこいったッ!」

「だって、ああ言えば、あとで桃代さんから差し入れがあるじゃろ。そしたら、おやつをパクらんで済む。紋ちゃんも助かるじゃろう」


阿呆あほう! このまま、俺まで行方不明になって、今日中に帰らなかったらどうなるか考えてみろッ。差し入れどころか、見つかるまでめし抜きだぜ」

「そがいに怒らんでもええのに・・・・まあ、仕方がないけェ、地道に苺を探すか。紋次郎、ここからは真面目な話じゃ。ワシのそばを離れんようにしんさい。この森にある祟りは強い恨みじゃ。あんたの命が危ないけぇね」


「また~真面目なフリして誤魔化そうとする。そういうのは良くないですぜ。オイラは怖がりなんですからね」

「ええか紋次郎。【悪意のある嫌なモノ】って、キーコが言うとったじゃろう。あれは嘘ではない。桃代さんが言うとった、【ワシを連れて行けば大抵の祟りは消える】あれも嘘ではない。じゃけど、ここにある祟りはワシがおっても消えん。それだけ強い恨みじゃ。あんたが救える相手ではない。ワシの背中に乗りんさい、一気に探すで」


「オメエの食い意地の所為せいでこうなってるのにッ、よく説教がましい事を言えるな。まあいい、一気に探すのは俺も賛成だ。ただし、高く飛ぶなよ・・・って、ちょっと待て、おまえはここが危険な場所と言いながら、俺を残して助けを呼びに行こうとしたのか?」

「今はそげな事を言うとる場合じゃない、早うワシの背中に乗りんさい」


誤魔化されてるような気もするが、龍神は俺が背中にまたがると、地面すれすれを進んで行く。

桃代の車と比べると、なんて乗り心地が悪いんだ。


暗くなる前に見つける為に、龍神はある程度のスピードで進んで行くが、木々を避けながらうねうね進む為に、一段と乗り心地が悪い。


万が一、事故になれば、桃代の車は安全装置のエアバックが守ってくれる。

しかし、龍神の場合は、何かにぶつかりつんのめると、ツノに突き刺さる可能性がある。

トンデモない危険装置だ。


俺は振り落とされないよう、ツノに突き刺さらないように、必死に苺を探し続けた。


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