第187話 ユリと桜子

俺は鬼門おにかどの家まで全速力で走り、勝手に庭に入ると、キーコを探す為に島内放送が出来ないか、ユリの親父に聞いてみた。

しかし、キーコという名前だけでは無理だと言われて、イライラしていると【落ち着きなさい】っと、桃代にたしなめられた。


「さてと、何をそんなに慌てているの? 紋ちゃんらしくない。でもまぁ、気持ちはわかる。キーコが心配なのね」

「そうだけど・・・桃代、どうしたらいい? キーコのヤツ復讐するって、人を殺すつもりだ! 俺に何が出来る?」


「紋ちゃんは、ともかく落ち着きなさい。まだ、わたしの仮説だから断言は出来ないけど、キーコに復讐は出来ない」

「へっ? どういう事なの? 桃代さんは、俺の知らない何かを知ってるの?」


「はい、全員集合。これから話す事は、鬼門家おにかどけにも関係がある事だから、ユリは家族を呼びなさい。桜子は、お墓から、あの花を持って来なさい」


桃代の命令で、ユリと桜子は素早く行動に移り、みんなが集まるまで桃代は電話をしていた。

俺はキーコの事が心配で、居ても立っても居られない。


電話を切った桃代は縁側に座ると、その横に桜子と梅さんも腰を下ろして、ユリの家族は庭にある椅子に着席する。

俺は立ったままソワソワしているが、桃代は手招きをして自分の隣に座らせると、強く手を握ってくれた


「どう、落ち着いた? まずは紋ちゃんに落ち着いてもらわないと、わたしの仮説は説明が出来ないからね」

「うん、ごめん、落ち着いた。ガキの頃の俺と重ねた所為せいで、キーコを他人と思えなくてれた。すまんももよ」


「いいのよ、そういう優しさも、紋ちゃんの良いところなんだから。それでね、ズバリ言うけど、キーコ、キコ、そんな名前の子供は、この島には存在してないの」

「・・・ ・・・桃代さん、頭は大丈夫? だって、キーコの姿を見ただろう。それに、ユリがエッチなヒモパン穿いてるって、キーコが喋ったのを聞いただろう。その所為せいで、俺は針のムシロだったのに」


「ユ、ユリ! どういう事だ! エ、エッチなヒモパンって! おまえは紋次郎さんに、パ、パンツを見せたのか!」

「父さんやめてよ! みんなが誤解するでしょう。じゃなくて、なんで紋次郎君は、わたしのパンツの話を持ち出すんですかッ!」


「こうなっては仕方がない。ユリ! おまえは紋次郎さんと結婚しなさい!」

「父さんはいい加減にしてッ! あっ、不味い、桃代さんの眼つきが変わった!」


「桜子、ユリの親父から椅子を取り上げて、そこに正座させなさい。次に、わたしの許可なく口を開いたら石牢にぶち込むわよ」

「勘弁してくれ、あそこに入るのはもう嫌じゃ。ユリ、おまえからも真貝様に頼んでくれ」


「父さんが、余計な事を言わなければ、いいだけでしょう。桃代さん、すみませんでした。続けてください」


可哀想かわいそうに、ユリの親父は本当に正座をさせられている。

そもそも、俺と桃代が結婚している事を、この人たちは知らないのかな?


「じゃあ、続けるね。ねぇ、紋ちゃん、紋ちゃんから見ると、キーコはいくつくらいの子供に見えた? 何年生くらいに見えたの?」

何故なぜそんな事を? でも、どう見ても小学校高学年だろう? だけど、痩せてたから、もう少しいってるかもな?」


「そうね、わたしも小学校の高学年だと思った。だからね、この島にある小学校と、念の為に中学校にも確認をした。でも、キコなんて名前の女の子は居なかったの」

「へっ? どういう事だ? キーコはこの島の人間ではないのか? もしかして学校に行かせてもらってないの?」


「う~ん、島民でなければ一人で出歩かない。紋ちゃんに島の案内なんて出来ない。そして、学校に行ってないのなら、この狭い島ではすぐ噂になる。民生委員が飛んで来るよ」

「あ~あ、そうだよな、案内してもらった。あれ? じゃあキーコは大人なの?」


「紋次郎君、いい加減にしなよ。あんな小さな子が大人の訳ないでしょう。ユリさんより胸がペッタンコだったのに」

「なぁッ! 桜子さん、裏切りましたわね! 桜子さんなんて、まだもう古斑こはんが残ってるくせに!」


「あ~~ッ、それは言わない約束だったのに。紋次郎君に知られたら、恥ずかしいでしょうッ」

「先に言ったのは、桜子さんの方でしょうッ。胸の大きさからパンツの種類までバラされて、わたしは丸裸にされた気分です」


「ユリと桜子は、わたしの前で正座。あなた達の所為せいで、ちっとも先に進まない」

「うっ、わたしは紋次郎君の真似をして、おちゃらけただけなのに、桃代姉さんごめんなさい」


「わたしは桃代さんの真似をしただけなのに、深刻な話をする時は、何時いつもネタを挟むのは桃代さんの方なのに」

「ユリ、わたしに反抗するつもり? もしもそうなら、あなたの縁とヒモパンのヒモを、同時に切るわよ」


「ご、ごめんなさい。反抗したつもりではないんです。これからは、ミイラのように静かにしています」

「むふっ、ミイラになりたいのね。いいわ、許してあげる。あとで、ミイラになる打ち合わせをするから待ってなさい」


ユリは助けを求める目をして俺を見るが、ミイラの単語を出したおまえが悪い。

俺はキーコが心配なので、ユリと桜子を助けるつもりがない。


桃代がこのまま脱線しないように、俺は話の続きをうながした。


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