第139話 ドライブ

殺風景な塚が見違えるほど綺麗になったのは、あまちゃんのおかげだと理解した。

あのかた、やっぱりかたなんだ・・・・俺はさんざんシバかれたけど。


すでに、手を加える必要はないのだけれど、俺は桃代から花の種を受け取ると、埋めること無く塚のまわりにバラいた。


それを見ていた桃代が、埋めるように注意をしてきたが、別にここで咲かなくてもいい。

風に飛ばされて、雨に流されて、何処どこか見知らぬ場所であれ、咲きさえすればそれでいい。

何処どこかで咲いたその花が、新しい種を育てて、またそれが花を咲かす。

それを繰り返し、何時いつかその種がまたここに飛んで来て、花を咲かせればそれでいい。


そんな俺の思いを桃代に説明して、しみじみしていたところで、野鳥が飛んで来ると種をついばみ始めた。

所詮、俺のやる事なんてこんなモノだが、消化されずにフンになり、何処どこか知らない場所で花を咲かせればそれでいい。


「紋ちゃんってアレじゃのう。やる事なす事、全て裏目に出るタイプなんじゃのう。カッコよう種をいたけど、鳥に餌をやっただけじゃったのう」

「いいか龍神、俺のバカを指摘する前に、おまえも俺と同じレベルのバカだという事を忘れるなッ!」


「まあ、同じバカ同士、神社を建てる相談でもしようかのう。ほんで、ワシと紋ちゃんだけではろくな事にならんけぇ、桃代さんには監督になってほしいんじゃ」

「いいですよ龍神様。では、まず石切り場に行きましょう。土台がしっかりしてないと、建物が崩れて大変な事になりますから」


「石切り場ねぇ・・・・そげなとこ、この辺にあったじゃろうか?」

「待て、桃代。おまえはいったい何を作るつもりだ?」


「何って神社だよ。まさか、わたしがピラミッドを作ると思ったの? いくらなんでもそれは無いわよ」

「本当だな? ピラミッドだけではなく、神殿やオベリスク、もちろんスフィンクスも無しだぞ」


「・・・ ・・・」

何故なぜ、何も答えないッ! いいか桃代、ここにおまえの趣味の物を建てたら怒るぞ」


「なによッ、じゃあ、わたしのスフィンクスは、何処どこに作ればいいのよ!」

「また始まった。どうしておまえはそうなんだ。スフィンクスはおまえの王墓の隣に作ればいいだろう」


「え~っ、だって、ここに作れば、紋ちゃんと一緒に作業が出来るでしょう」

「まったくもって意味がわからん。神社の再建なのに、どうしてスフィンクスを作ろうとする。ちゃんと神社を再建しないと、俺があまちゃんに怒られるだろう」


「わかったわよ。その代わり庭にスフィンクスを作る時は、紋ちゃんも手伝ってよね」

「はいはい、ちゃんと手伝いますよ。その前に神社を建てる手伝いをお願いします」


「紋ちゃんってアレじゃのう。桃代さんの尻に敷かれてぺっしゃんこ? そげな感じじゃのう」

「いいか龍神。それは俺も自覚している。だから、これ以上は追い打ちをかけるな」


桃香の塚がきれいになり、あとは神社の再建に力を尽くせばそれでいい。

桃代は一旦母屋に帰り、俺は龍神の背に乗ると、手頃な杉の木の下見に行く。


初めて乗る龍神の背中は、ゴツゴツと硬くてケツが痛い。

それでも斜面を楽に登れるし、迷って遭難する事もない。

土台にする岩や石、材木にする杉の木の目処が立ち、俺は龍神に思った事を聞いてみた。


「なあ龍神、おまえはよく何処どこに何があるのか知ってるな。あまり勝手に出かけて誰かに見つかるなよ」

「あのな~紋ちゃん。ワシは千年前からここに住んどるけぇ、詳しいのは当たり前じゃろう。それに今は姿も消せるけぇ、見つかる事もないんじゃ。それよりも紋ちゃんの方こそ、見つからんようにしんさい【座ったままの恰好で山をすいすい登る】誰かに見られたらエラい事になるで」


「あ、そうだな。おまえの言う通りだ。誰かに見られたら、俺の方が幽霊と思われるな」

「そういう事じゃ。そうでなくても向うの山を越えた辺りには、幽霊が3人、自分の腕を探しとるんじゃけェ」


「・・・ ・・・えっ? 龍神おまえ、また俺を揶揄からかってる?」

「何を言うとんじゃ。ええか紋ちゃん、あんたは色々引き寄せるんじゃ。中には強い恨みを消せんまま自我が消え、他人を巻き込む危ないヤツもおる。一人で禁忌の場所に行かんようにしんさい」


「えっと、龍神・・さま? あなたには幽霊とか悪霊とかが見えるんですか?」

「なんじゃい、その喋り方は? 気持ちが悪いのう。見えて当然じゃ、ワシは一応は神様じゃ。それから、この先の四つ五つ山を越えた辺りにある、昔の集落跡には絶対に近寄らんようにしんさい。あそこはホンマにヤバいけん」


「ちょ、ちょっと待って。腕を探してる三人の幽霊ってなに? 禁忌の場所って昔の集落の事なの? なんで今、それを俺に教えるのッ、怖いだろうッ!」

「いや、さっき、紋ちゃんを手招きしとる幽霊がおったから? 念の為じゃ」


「!?・・・・!!」


龍神のつのをハンドルのように操作して、俺は急いで母屋に戻る。

さっきまで楽しい気分でドライブをしていたのに、一気に臆病者のドラゴンライダーの気分になった。


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