第121話 バカの合戦

母屋に戻ると桃代と桜子はすぐに食事を作り始め、そのあいだ俺はシャワーを浴びて着替えを済ませると、食事の用意も済んでいた。


食事が終わるとあまちゃんたちは居なくなり、俺はやっと落ち着く事が出来た。


危険が消えた事を分家の連中に連絡するよう桃代と桜子に頼み、自分の部屋で布団を敷くと俺は横になる。


まだまだ、やらないといけない事がたくさんある。

桃香を早く成仏させてあげないと、本人は千年後の今を楽しんでいるようだが、このままだと未練を残しかねない。

本人もそれは本意ではないはずだ。


あとは龍神だが・・・アイツをどうしたらいいんだ? 

他には神社の再建もあるし、面倒事がてんこ盛りだな・・・桃代さん、あなたの言う通り頼りにさせてもらいます。

そんな事を考えているうちに、安心と疲れから俺は眠ってしまったようだ。


どれくらい時間が経ったのだろう、薄目を開けると西日がしていた。

窓の上の方には綺麗な夕焼け空が広がり、窓の下の方には龍神のデカい顔が広がっている。

右隣には桃代が添い寝をしていて、左隣には桃香が添い寝をしている。

なんだこの状態は?


俺は桃代と桃香が起きないように、静かに立ち上がり部屋を出て玄関も出ると、母屋をぐるりと回って龍神の元へ行く。


「なんのつもりだ龍神。どうしておまえがここに居て、どうして窓から俺を覗いているッ!」

「だって、あまちゃんさんが言うたじゃろう。紋ちゃんに面倒を見てもらえって。じゃけぇ、ここで待っとったけど、ワシに気付かず寝るんじゃもん」


「龍神、おまえは何も考えてないな。もしも、誰かに、おまえの姿を見られたらどうするつもりだ?」

「ワシは姿を消せるけぇ、大丈夫じゃろう。それよりも紋ちゃん、ご飯はまだかいのう」


「ふふふ、おじいちゃんったら、さっき食べたでしょう。あんまり食べるとお腹を壊すわよ」

「えっと、それは誰かの真似か? 紋ちゃんは何時いつも桃代にそう言われとるんか?」


「このヤロウ、俺のボケを無視しやがって・・・いいか龍神、おまえの事はこれから考える。飯を食ったら、何時いつものに戻っていろ」


一難去ってまた一難。

まあいい、命の危険がないだけマシだ・・・・・本当に? さんざん襲われたのに?

俺は自問自答をすると、大切な事を龍神に確認することにした。


「おい龍神、おまえはこれからも人を襲ったり喰ったりしないよな? 今回の件で、おまえの信用はガタ落ちだぜ」

「うっ、それに関しては言い訳しようがないのう。ワシはどうしたらええ?」


「仕方がないから、俺を襲った事は忘れてやる。おまえには助けられたからな。でも他の人を襲うと、輪切りにしてキロ百円で売り飛ばすぜ」

「う、うん、もう人は襲わんけぇそれはええけど・・・あのな紋ちゃん、ワシは龍。しかも神様でぇ、キロ百円は安うないか?」


「なんだ、文句あるのか? そもそもおまえの輪切りが売れる訳ないだろう。食品衛生法に引っ掛って逮捕されちゃうのがオチだぜ」

「あのな紋ちゃん、龍の鱗を闇の市場に持って行くと、金より高値で取引されるんで」


「よし龍神、スダレ頭になるか。台所から鱗取りを持って来る」

「紋ちゃん、そげな意地悪言わんでよ。ワシはこれでも反省しとるんでぇ。勘弁してつかぁさい」


俺と龍神の、何時いつものバカなやり取り。

それを理解しているのでお互い気にもとめないが、母屋の陰から見ていた桜子は、にがそうな顔をしている。


「紋次郎君、言いたくないけど一応相手は神様なんだよ。もう少し気を遣って話さないと、何か良くない事が起こるわよ」

「さくらよ、ワシと紋ちゃんはこれでええんじゃ、何時いつもこうなんでぇ。ほじゃけぇ、紋ちゃんを責めんでな」


「龍神、気持ちが悪い! 俺を持ち上げても、今は食事係を桃代と桜子がしてるから意味無いぞ」

「なんじゃい、そうなんか。おい、紋次郎。あんたぁワシをぞんざいに扱い過ぎじゃろう。あんまりやすう扱うと、ある事ない事を桃代に言い付けるけぇね」


「ほ~~っ、やってみろ。桃代に余計な事を言うと、俺はあまちゃんに余計な事を言うぜ。そしたら我が家の床の間には、龍の頭の置物が鎮座する事になるぜ」

「あっと、そりゃぁいけん。ホンマにそうなりそうじゃけぇ、お互い余計な事は言わん、ちゅう事で手を打たんか?」


桜子のにがそうな顔が、あきれた顔に変わっていく。

だって仕方がないだろう、俺と龍神は同レベルでバカなんだから。


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