第81話

先生が止めに入るまでの間、浩と優弥と良の3人は喧嘩を続けた。



普段は喧嘩なんてしない3人は圧倒的に不利で、何度も殴られていた。



それでも3人は立ち上がり、『ルキは死んだりしない!』と叫びながら相手に殴りかかっていた。



その光景を目の当たりにした僕は、気が付けば涙で視界が歪んでいた。



「みんな、いい友達じゃないか」



カエルが僕の隣でそう言った。



僕は手の甲で涙をぬぐい、カエルを見た。



「知らなかった。僕の為に、みんなが頑張ってくれてるなんて……」



「だから言っているだろう? 会話をしなければわからない事は沢山ある。言葉を持っているんだから、会話をしなきゃダメなんだ」



カエルの言葉は、いまだからこそ素直に聞き入れる事ができそうだった。



3人は職員室でこっぴどく叱られた後、ようやく学校から出る事が出来ていた。



太陽は傾き、空はオレンジ色に染まりつつある。



そんな中、3人は肩並べて家とは逆方向へと向かい始めたのだ。



僕は3人がどこへ向かっているのか、もう気が付いていた。



3人が歩いている方向には総合病院が建っている。



そしてその総合病院には、僕の体が眠っているのだ。



「僕は、僕の姿を見る事ができるの?」



3人が病院へと入って行ったとき、僕はカエルにそう聞いた。



「もちろんだ。今の自分を確認してみるといい」



「……少し、怖いな」



自分がどんな状態になっているのか気になる。



だけど自分が想像していたよりもずっとひどい状況にいたらどうしようかという不安も大きかった。



3人が病室をノックすると、僕のお母さんが部屋から出て来た。



久しぶりに見るその顔は、随分と老けてしまったように見えて胸が痛んだ。



きっと僕のせいなのだろう。



僕が車に轢かれたりしたから、お母さんは一気に老け込んでしまったのだ。



僕は自分の心臓あたりをギュッと掴んだ。



その心臓は確かにしっかりと動いている。



3人が病室へ入って行くと、その中には愛菜と真琴とミサの姿があった。



「みんな……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る