第72話

僕は大きく息を吸い込み、そして吐き出しながらそう返事をした。



ネックレスは僕の前に立ち、そしてゆっくりと言った。



「私の持ち主は真琴ちゃんです」



心の準備はできていたはずなのに、やっぱり僕の心臓は大きく飛び跳ねていた。



江口真琴。



また、僕のクラスメートの女子だった。



「真琴ちゃんが私を使う前には、真琴ちゃんのお母さんが私を使ってた」



「母から子へと受け継いだネックレスか」



僕がそう言うと、カエルがネックレスへと向き直った。



「どうしてそんな大切なお前が捨てられたんだ?」



カエルの質問に、ネックレスの表情が暗くなった。



「真琴ちゃんは、お母さんに捨てられたから……」



「捨てられた?」



僕は眉間にシワを寄せてネックレスに聞き返した。



「そうです。真琴ちゃんのお母さんは、小学校3年生になった真琴ちゃんに私を譲りました。


真琴ちゃんは大喜びをして、私をとても大切に扱ってくれていました。だけど小学校6年生になったある日、お母さんは突然帰ってこなくなってしまったんです。



真琴ちゃんはお母さんを探しに町中を歩き回りました。だけど見つからなくて、ヘトヘトになって帰って来た家の中には、消沈しきったお父さんがいたんです。



『真琴、今日からお父さんと2人暮らしだ』無精ひげを生やしてやつれた父親にそう言われ、真琴ちゃんは自分が捨てられてしまった事に気が付いたんです」



僕は両膝を抱えてネックレスの話に耳を傾けていた。



真琴は愛菜と並ぶほど可愛い女の子で、クラス内でも明るいグループの中にいる女の子だ。



スポーツも勉強も得意で、母親がいないなんて思えないくらい明るい子。



「母親に捨てられる辛さを知った真琴ちゃんは、人よりも愛情に敏感な子になっていました。



誰が誰の事を好きなのか、真琴ちゃんには手に取るようにわかったようです」



ネックレスはそう言い、一旦言葉を切って僕を見た。



僕は思わず背筋を伸ばしてしまう。



「だからある日、気が付いてしまったんです。自分が恋をしているルキさんが、友人の愛菜ちゃんと見ている事に……」



「へ……!?」



ネックレスが真剣な話をしてくれているのに、僕の声は裏返っていた。

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