第70話

「お前の持ち主は誰だ?」



カエルがネックレスへ聞いた。



僕の心臓はドクンッと大きく跳ねあがる。



聞かなきゃいけない質問だと理解しているのに、聞くのが恐ろしかった。



「僕は聞きたくない」



そう言い、そっぽを向く。



「逃げるのか?」



カエルにそう言われて「心の準備ができてないだけだ」と、答えた。



ただの強がりだった。



本当は持ち主を聞くのが怖かった。



もし聞いてしまったら、僕は混乱してなにもかもわからなくなってしまうだろう。



「逃げていては真実は見えてこないぞ」



「……わかってるよ」



僕は小さな声でそう答えた。



だけどネックレスを見る事ができない。



目を合わせて、持ち主の名前を聞くことができない。



「勇気を出せ」



カエルが言う。



その言葉に僕は一瞬にしてあの時の事を思い出した。



勇気を出した。



そうだ、僕はあの時に確かに勇気を出したんだ。



「ははっ……」



思わず、笑い声を漏らしていた。



カエルが怪訝そうな顔をこちらへ向けている。



「僕は……勇気を出したんだよ。だから、ここへ来た」



自分の声が想像以上に大きく聞こえて来た。



それでもかまわなかった。



僕はあの時確かに勇気をだし、そして行動したんだ。



その事を知ってほしかった。



「勇気を出して行動した。だから僕は今……ここにいる」



その言葉の意味がなんなのか、この町の住人であれば説明なんてしなくても理解できるはずだった。



その証拠に、カエルは僕から視線を外し、他の連中は目を見開いて僕を見た。



僕は事故に遭ってここへ来たわけじゃない。



本当は……。



「見ていた」



カエルが一言そう言った。



「だと思ってた。僕がここへ来ることも知っていて、あの丘の上まで迎えにきたんだろ?」



「そうだ。ルキを1人にすることはできないだろ」



「僕がカエルを捨てたのは祖父が引っ越しをする時だった。つまり、カエルは隣町の【捨てられた町】にいるはずだ」



僕はずっと抱えていた違和感をついに口に出す事ができた。

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