第32話

その複雑な心境を想像してみて、少しだけ眉を寄せた。



「だけど私の持ち主の子は自分の意見を言うのがとても苦手で、何でもお友達に合わせてしまうんです」



「あぁ、いるよなぁそう言う子。女の子ならとくに、孤立とかしたくなくて合わせちゃうんだろ?」



僕がそう言うと、ミミは大げさなくらいに頷いてみせた。



「そうなんです。1人ボッチになりたくない。仲間外れは嫌。そういう思いがとても強い子なんです。だから私は……」



そこまで言って、ミミは口を閉じた。



当時を思い出すようにうつむき、目を伏せる。



捨てられたときの事を思い出しているのかもしれないと思い、僕は黙っていた。



話たくなければ、無理に話しを聞く必要もないと思った。



だけど、ミミは決意をしたように顔を上げたのだ。



「持ち主が小学校6年生の頃、お友達が家にやってきました。2人ともとても仲のいい子で、何度か家に遊びに来たことがあり、私も知っている子たちでした。みんながもっと小さい頃には私を使って遊んでいた時もあります。でも、その日は違いました。



お友達の1人が私を見て『まだこんなぬいぐるみを持っているの?』そう、持ち主に言ったんです」



ミミはそう言うと、険しい表情を作った。



「小学校6年生にもなってウサギのぬいぐるみを大切に持っているなんて変だ。そう言われたんです」



そういうものなのかなぁ。



僕は首を傾げた。



小学校6年生にもなると遊び道具はぬいぐるみやお人形遊びから、ゲームなどに変わっていくのかもしれない。



女子のことはよくわからないけれど、持ち主の友人がそう言ったのなら、きっとそうなのだろう。



「持ち主はまだ私を捨てたくはなかった。だけど友達にそう言われてしまった事で、私を捨てることになったんです」



「自分の意見を言えないからか?」



カエルがそう聞くと、ミミは頷いた。



友達に合わせるために自分の好きな物まで捨てるなんて、相当消極的な性格をしているのかもしれない。



「私も持ち主も、もっと一緒にいたかった。それなのに、引き離されてしまったんです」



ミミがそう言い終わった時、丁度【本の駄菓子屋】に到着した。



「それでこの町に来たんだね」



僕は駄菓子屋に入っていいものかどうかためらい、ミミにそう声をかけた。



ミミは小さく頷き、そして駄菓子屋の看板に気が付いて視線を上げた。



瞬間、垂れていた耳がピンッと立った。



「ここが大根チップスを売っているお店ですね!?」



さっきまでのしみったれた雰囲気は一変し、ミミは嬉しそうに笑顔を浮かべたのだった。

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